翻訳|musk
①は、中国で古くから医薬、仙薬として用いられ、日本にも早くに伝わった。
ムスクともいう。中央アジア,チベット,雲南,アッサム,南シベリアに広く生息するジャコウジカの雄の包皮腺(香囊)に蓄積される有香物質。古来代表的動物性香料として珍重された。10歳程度の雄1匹から約50gの麝香が得られる。チベット産の麝香が品質的に最も優れており,トンキン(東京)市場で取引されるため東京麝香として知られている。雲南麝香も有名である。乾燥した香囊中には暗褐色ないし黒褐色の粉末として存在する。水,アルコールに易溶で,アルコールチンキにしても使用される。芳香成分はムスコンmusconeで,麝香中に0.5~2%含有される。ムスコンは化学式C16H30O,大環状ケトン構造をもつ。
無色の油状液体で,常圧での沸点は328℃,330℃で一部分解する。分留は減圧下で行い,たとえば0.5mmHgでは沸点は130℃となる。融点-19℃,比重0.8628(17℃),nD17=1.4802。構造は1926年L.ルジチカにより解明され,以後ムスク様物質の合成の手掛りとなった。麝香は高級香料の調香・保留剤として多く用いられる。現在,麝香類似物質として大環状化合物をはじめ多くの合成品が開発されつつある。
執筆者:内田 安三
ヨーロッパでは香料としてのみ用いられ,薬用とされない。麝香は中枢神経系,とくに呼吸中枢および心臓を興奮させる作用があるので,漢方では,他の生薬と配合して意識覚醒・強心薬として昏睡,狭心症に,また鎮静・排膿・解毒薬として神経衰弱,打撲,心腹痛,その他危急の症に応用する。家庭薬原料(六神丸,奇応丸など)として用途が広い。
→人造麝香
執筆者:新田 あや
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