改訂新版 世界大百科事典 「伏見常盤」の意味・わかりやすい解説
伏見常盤 (ふしみときわ)
幸若舞の曲名。盤は槃,磐と書く場合もある。作者不明。室町時代の成立。《平治物語》に材を得た作品で,平治物に分類され,常盤物と分類されることもある。常盤御前は院に仕える女房であったが,たいへんな美女で,院で行われた美人競べに選ばれるほどであった。17歳のとき,院から源義朝に与えられ,3人の子どもを生む。義朝が平治の乱に敗走し,殺されたのを知った常盤は清水寺に詣でて子どもの行末を祈願し,坊の聖の忠告に従って大和国に落ちることにする。途中,雪のために難渋し,伏見木幡で日も暮れる。とある賤が家に宿を乞い断られるが,やがて宿の老夫婦は呼び入れて親切にもてなす。近所の下女たちも集まって,それぞれの故郷の田植歌を歌って慰める。本曲では常盤の父を梅津源左衛門,母を桂宰相とするのが他の伝承に見られない点で,注目される。なお《伏見常盤》という説経節の正本があって,これは幸若舞の《鎌田》と《伏見常盤》とをとり合わせたような作品である。
執筆者:山本 吉左右
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報