平治の乱(1159)を題材にした軍記物語。通常三巻。作者不明。原作は鎌倉時代前期までに成立か。『平家物語』より先出と考えられるが、『保元(ほうげん)物語』との先後出関係は未詳。『普通唱導集(ふつうしょうどうしゅう)』などによれば、13世紀末より14世紀にかけて琵琶(びわ)法師の語物であった。多くの伝本が現存し、『保元物語』同様、ほぼ三段階にわたる作品の変容が認められる。第二段階以降は『保元物語』『平家物語』との相関関係を強め、とくに前者とは姉妹編的関係となる。そのため、古くより同一作者説が存在した。最終段階では儒教思想や論評性が加わるが、それを代表するいわゆる流布本の成立は、室町時代の1446年(文安3)以後とされる。
物語は末代における武士の力の必要性を説く序文に始まり、後白河(ごしらかわ)院近臣の藤原信頼(のぶより)が源義朝(よしとも)とともに挙兵、政敵藤原信西(しんぜい)を滅ぼしたものの、平清盛に鎮圧されてしまう過程を描くが、作品の内実は敗れた源氏一族の悲劇に重点を移していく。合戦場面では悪源太義平と平重盛(しげもり)の対決が躍動感あふれる筆致で描かれ、貴族でも、反乱軍のなかに入って信頼に恥辱を与える藤原光頼(みつより)のような、豪胆な人物が形象化されている。義朝の妻常葉(ときわ)が3人の遺児を抱えて都落ちする哀話は、女性話として傑出する。作品の初期の段階では反乱軍を蔑視(べっし)する姿勢がうかがわれるが、やがて、腹心の部下に暗殺された義朝の悲劇的生涯を中心に、頼朝(よりとも)による源氏再興の伏線を語る作品へと変質、悲劇的文学としての色調を濃くする。
[日下 力]
『永積安明・島田勇雄校注『日本古典文学大系31 保元物語・平治物語』(1961・岩波書店)』▽『永積安明編『鑑賞日本古典文学16 保元物語・平治物語』(1976・角川書店)』
平治の乱(1159)を素材とする和漢混淆文の軍記物語。鎌倉時代前期までに成立か。作者不明。通常3巻。《平治記》ともいう。末代における武士の力の必要を説く序文がある。後白河院の近臣藤原信頼が源義朝とともに挙兵,政敵藤原信西を滅ぼすが平清盛に鎮圧された過程を描くが,作品の重点は敗れた源氏一族の悲劇にしだいに移る。合戦場面では悪源太義平と平重盛との対決が躍動感あふれる筆致で描かれ,貴族の中にも,謀叛軍の前で信頼を侮蔑する藤原光頼のごとき豪胆な人物が描かれている。義朝の妾常磐(ときわ)が3人の幼い遺児と都を落ちる哀話は有名。
この作品は時代思潮の変遷とともに,大きく3段階にわたって変容したらしく,異質な諸本が伝存する。初期段階では謀叛側を蔑視する作者の姿勢があらわで,義朝も必ずしも好意的には描かれておらず,むしろ鎮圧側の清盛ら平氏勢力に比重がかかっている。序文の発想はその姿勢と軌を一にし,謀叛側を冷笑する藤原伊通なる特異な傍観者的人物も登場する。また義朝の死は,金王丸という従者の常磐に対する長大な報告談として扱われている。しかし次段階では,部下に暗殺された義朝の悲壮な死への道行を中心に,悲劇的文学としての色調を濃くする。《保元物語》《平家物語》との相即性を強め,義平も《保元》の源為朝像と酷似した形に変わる。さらに最終段階では儒教思想にもとづく論評が加味された。いわゆる流布本の成立は室町時代の1446年以降か。原本は《平家》より先出と考えられるが,《保元》との先後関係は未詳である。古来《保元》と同一作者とされてきたが,両作品の古態本の性格は懸隔しており,異なる作者と推察される。13世紀末から14世紀初めのころ《保元》《平家》とともに琵琶語りに供されていた。
執筆者:日下 力
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「平治記」とも。平治の乱の顛末を書いた軍記物語。3巻。「保元物語」と対になって残るものが多い。異本が多く,作者は諸本により異なる。原「平治物語」の成立は源家将軍の時代と推測されるが,「保元物語」の最古の写本が1223年(貞応2)であることから,なお流動的である。古い形態を残すテキストには鎌倉時代に成立した「平治物語絵巻」の諸本,陽明文庫本・学習院本(九条家旧蔵)がある。最も流布した金刀比羅本系の諸本は,年代記的な構成をとるものの,琵琶法師が語る語り物の性格が強く,史実を離れた内容の変更もある。「新日本古典文学大系」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
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