正本(読み)ショウホン

デジタル大辞泉 「正本」の意味・読み・例文・類語

しょう‐ほん〔シヤウ‐〕【正本】

根拠となる原本。
歌舞伎の上演用脚本。役者のせりふや動作、大道具小道具・衣装・音楽などを詳しく書いた筆写本。台帳。根本ねほん
浄瑠璃説経節長唄などの詞章に曲節の譜を記入した版本。
太夫使用の原本と仮名遣いや節付けが同じ浄瑠璃本
せいほん(正本)

せい‐ほん【正本】

権限のある者(裁判所書記官公証人など)が原本に基づき作成する謄本の一種で、原本と同一の効力を有するもの。
戸籍の原本にあたるもの。
転写または副本の原本。→正本しょうほん

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精選版 日本国語大辞典 「正本」の意味・読み・例文・類語

しょう‐ほんシャウ‥【正本】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 根拠となる原本。
    1. [初出の実例]「保安返牒之草〈在良草之、清書定信也、伴正本草也〉取出令見」(出典:玉葉和歌集‐承安三年(1173)三月一三日)
    2. 「正本をば名山の書府に蔵めて、副本をば京に留て置ぞ」(出典:史記抄(1477)二〇)
  3. 規範となるもの。適正なよりどころ
    1. [初出の実例]「いま仏祖正伝せる袈裟の体色量を、諸仏の袈裟の正本とすべし」(出典:正法眼蔵(1231‐53)伝衣)
    2. 「四十にならぬ壮士でひっこうだは急流中の勇退の正本なり」(出典:玉塵抄(1563)三八)
  4. 歌舞伎狂言の脚本。芝居のしくみ、役者のせりふや動作、衣装、舞台装置、音楽などのいっさいをこまかく書いたもの。体裁には、半紙を横折りにした横本と、半紙を二つに折った縦本とがある。台帳。台本。根本(ねほん)。〔絵本戯場年中鑑(1803)〕
    1. [初出の実例]「ヱヱ、此男も、むづかしい事計りいふは。まづ荒増正本(シャウホン)をはなさつせへナ」(出典:滑稽本・八笑人(1820‐49)二)
  5. 太夫(たゆう)訂正の脚本。節つけや仮名づかいに至るまで、太夫使用の原本のままの浄瑠璃の称。
    1. [初出の実例]「新内ぶしの正本なぞを見て」(出典:黄表紙・江戸生艷気樺焼(1785)上)
  6. 浄瑠璃、説経節、長唄などの詞章に曲節の譜を記入した版本。
  7. 省略のない完本。丸本。
  8. せいほん(正本)

せい‐ほん【正本】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 法令の規定に基づき、権限のある者によって作成された謄本で、原本と同一の効力を有するもの。判決正本・公正証書正本など。〔仏和法律字彙(1886)〕
  3. 戸籍の原本に当たるもの。
    1. [初出の実例]「身分登記簿の正本は」(出典:戸籍法(明治三一年)(1898)一一条)
  4. 転写あるいは副書したものの原本。しょうほん。〔出三蔵記集‐八・維摩詰経序〕
  5. しょうほん(正本)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「正本」の意味・わかりやすい解説

正本(法律)
せいほん

正本は次の二つの異なる意味で用いられる。

(1)本来の目的のほかに保管や送達などの必要から、同じ文書が複数作成されることがある。このうち、本来の目的に用いられるものを正本といい、その他の目的に用いられるものを副本とよぶ。たとえば、戸籍簿は法務局で保管される副本に対して正本は市町村役場に備えられ(戸籍法8条)、訴状は被告への送達に供される副本に対して正本は裁判所に留め置かれる(民事訴訟規則58条1項)。正本と副本は同一内容であり、同じように署名等がなされるから、ともに原本の一種である。

(2)原本の写しであるが、公証権限のある公務員(裁判所書記官、公証人など)によって作成され、法律上原本と同一の効力が認められた文書をいう。正本は、強制執行などの権利行使にあたり原本を必要とする利害関係人に対して、法律上一定の場所に保管すべきものと定められている原本にかえて与えられる。民事訴訟(行政訴訟)の判決は正本が送達され(民事訴訟法255条2項)、公正証書は強制執行や登記手続で必要となるため正本が交付される(公証人法47条)。なお、正本は通例、原本の全部について作成されるが、原本の一部の正本もある(公正証書の抄録正本。公証人法49条)。

[髙木敬一]


正本(浄瑠璃、歌舞伎)
しょうほん

(1)浄瑠璃(じょうるり)の詞章の版本をいう。浄瑠璃太夫(たゆう)使用の原本を正確に写した本の意。初期のものは挿絵入りで17、18行の細字本であったので、絵入細字本、絵入浄瑠璃本ともいわれたが、1710年(宝永7)ころから太字の節付(ふしづけ)本が現れた。その種類には十行本、八行本、七行本、六行本などがあるが、太字の正本を俗に丸本(まるほん)ともいう。一曲全段を収めたものの意で、後世の一段だけの抜粋本(五行本)は普通、正本とはいわず稽古(けいこ)本と称している。義太夫節(ぎだゆうぶし)以外の浄瑠璃(一中(いっちゅう)節、河東(かとう)節、常磐津(ときわず)節、清元(きよもと)節など)で枚数の少ないものは薄物正本(薄物とも)といい、また長唄(ながうた)の詞章を版行したものは長唄正本という。

(2)前記慣用から広がって歌舞伎(かぶき)の脚本も正本という。ほかに台本(だいほん)、台帳(だいちょう)ともいったが、現在は脚本ということが多い。昔は作者が草稿を書き上げたのち、主要な人々へ内読(ないよみ)して聞かせ、その意見に従って添削、完成稿本となってから清書したが、これを正本といったのである。

[山本二郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「正本」の意味・わかりやすい解説

正本 (しょうほん)

江戸時代の音曲書。浄瑠璃詞章の版本として,浄瑠璃太夫の原本を正しく写したものの意。1634年(寛永11)4月刊の《はなや》に〈天下無双薩摩太夫以正本開之〉と記すものが最も古く,以来享保(1730年ごろ)まで刊行されている。この種のものは,1ページが17~18行の細字本で数葉の挿絵が入っているので,絵入細字本,絵入浄瑠璃本ともいわれる。音曲上の節付よりも筋を読ませることが主眼であったが,延宝期(1673-81)には挿絵がなく,太字で節付の入ったものが刊行されるようになった。《今昔操(いまむかしあやつり)年代記》が〈あまつさへけいこ本八行を,四条小橋つぼやといへるに板行させ,浄るり本に謡のごとくフシ章をさしはじめしは此太夫ぞかし〉と記すのは,宇治加賀掾が1679年(延宝7)に出した《牛若千人切》を指す。1710年(宝永7)には竹本筑後掾(竹本義太夫)正本《吉野都女楠(よしののみやこおんなくすのき)》の七行本が刊行された。このほか,六行本,九行本,十行本,十一行本,十二行本,これらの行数の入りまじった本などの種類がある。版元にもよるが,延宝期以後のものとしては,8行ないし7行のものが最も信頼のおける正本である。絵入の正本でなく,太字の正本を俗に丸本(まるほん)ともいう。1段だけの抜本に対し作品全部を収めた意である。義太夫節以外の浄瑠璃の各流派(一中節,河東節,常磐津節,清元節など)のものは,半紙本2,3丁のものから20丁ぐらいの薄い本があり,これを薄物正本(単に薄物とも)と呼ぶ。また長唄の詞章の部分を版行したものも長唄の正本と呼ぶ。そのほか,〈せりふづくし〉や流行歌の版本をも正本という。歌舞伎の脚本を台本,台帳と称するが,これを正本ということもある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「正本」の意味・わかりやすい解説

正本
しょうほん

(1) 各種の浄瑠璃や長唄の詞章に節付を施して出版した冊子。その内容が浄瑠璃の語り手すなわち太夫 (たゆう) の語ったそのままの正しい本であるという意味,および全部を収めた完全な本という意味で名づけられた。義太夫節の正本で後者にあたるものを丸本 (まるほん) ともいう。誤りのないことを証する奥書をつけるのを例とする。 (2) 歌舞伎脚本の筆写本のこと。台本,台帳ともいい,関西では根本 (ねほん) ともいう。半紙を縦二つ折にした形が普通で,ときに横に二つ折にした横長のものもある。せりふの頭には,劇中人物名 (役名) でなく,その役を演じた役者の名を記す。

正本
せいほん
Ausfertigung

法律の規定のある場合に権限のある者により,原本に基づいて作成される謄本の一種。法律上の効力は原本と同一である。原本は一定の場所に保存しておく必要があり,かつ,その効力を他の場所で発揮させなければならない場合 (たとえば,判決を当事者に送達するか,または確定判決に執行文を付与する場合) に作成される。戸籍については,原本にあたるものを戸籍正本と呼び,市町村役場に備付けられる (戸籍法8) 。

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百科事典マイペディア 「正本」の意味・わかりやすい解説

正本【しょうほん】

浄瑠璃の台本。狭義には,太夫使用の原本のままのもの。広義には,省略のない完本,すなわち丸本(まるほん)の義。なお,浄瑠璃から離れ,歌舞伎の台本や長唄の詞章本,また流行歌や歌舞伎役者のせりふ尽し等をいうこともある。

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世界大百科事典(旧版)内の正本の言及

【台帳】より

…上演の土台となる帳面の意である。清書されたものは正本(しようほん)ともいい,上方では根本(ねほん)ともいった。のちには台本ともいう。…

【謄本】より

…刑事訴訟においては,謄本は,原本の存在および同一性が証明されない限り,原本と同一の証拠能力は認められないが,この証明がされれば,認証の有無にかかわらず,原本と同一の証拠能力が認められる。なお判決正本,公正証書正本のように,法律の規定がある場合に権限ある者が原本に基づいて作成する謄本をとくに正本という(民事訴訟法255条2項,公証人法47条等)。正本は外部においては原本と同一の効力をもって通用する。…

【舞の本】より

…広義には幸若舞(こうわかまい)の詞章を記した冊子のすべてをいうが,狭義にはそのうち,読み物として享受されるもののみをいう。演唱するための台本は正本(しようほん)といわれ,墨譜(ぼくふ)を付したものもある。狭義の舞の本は,奈良絵本の形態のものがあり,版本として36番をセットとして刊行されたものもある。…

※「正本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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