経済学者フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエクの著書で,『貨幣と景気』Geldtheorie und Konjunkturtheorie(1929)と並ぶ初期代表作の一つ。1931年,英語版とドイツ語版が公刊された。1930年代の経済学界の中心テーマの一つとして貨幣的経済理論の構築があげられるが,同書もこうした学界の状況を反映して,クヌート・ウィクセルやルートウィヒ・エドラー・フォン・ミーゼスの問題意識を継承したものとなっている。貨幣的経済理論の系譜を詳細に紹介したあとで,ハイエクは意図された貯蓄と貨幣量の変化(生産者に対する追加的な信用供与)がそれぞれ生産構造に与える効果を分析し,その理論的含意の相違を明らかにした(→貨幣的景気理論)。貨幣的経済理論に対する興味と相まって多くの読者を獲得し,ハイエクの名を高めたが,その後ジョン・メイナード・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』The General Theory of Employment, Interest and Money(1936)の刊行によるケインズ経済学の急速な普及により,一時忘れられていた。