改訂新版 世界大百科事典 「儀式化」の意味・わかりやすい解説
儀式化 (ぎしきか)
ritualization
動物どうしのコミュニケーションに役だっているようなある行動パターンが,進化の過程で機能的に強められ,明確さや精密さを増すように特殊化していくことをいう。しばしば実質的行為が象徴的な行為に変化し,単純化,本質的部分の繰返し,一部の要素の強調といった形で現れる。この概念はJ.ハクスリーがカンムリカイツブリの求愛行動の観察をもとに提出したもの(1914)。一般に儀式的な行動は配偶時や闘争時に多くみられ,またその行動と結びついた身体の形や色,模様などが特殊化することが多い。ガンカモ科の鳥の羽づくろい行動は儀式化の好例で,求愛時のツクシガモは丹念に羽の軸を整える実質的な羽づくろいをするが,マガモでは翼を持ち上げ鮮やかな色彩の風切羽を見せるようにし,シマアジは青い目だつ羽を少しだけ整え,オシドリでは首をそむけてちょっと羽に触れるだけになるといった変化をたどる。実質的な羽づくろいの行為が,目だつ羽に触れて見せるという求愛のディスプレーへと儀式化していったわけである。オドリバエのある種の雄は,配偶時,興奮している雌の攻撃を避けるため,あらかじめ獲物を用意し雌に与え,雌が食べている間に交尾する。しかし,別種になると獲物を自分の分泌物でくるんで雌に渡す。種によって,獲物のくるみ方に丹念なもの,雑なものがあり,また獲物でなくても近くの木の葉のかけらなどをくるんで渡すものもいる。最も極端にこの行為を儀式化した種では,雄は自分の分泌物を渡し,雌はこれを口にしただけで配偶を行うようになる。これは,雌の興奮を抑えるために獲物を渡す実質的行為が,配偶をスムーズに行う分泌物の受渡しという象徴的な儀式に変化したものである。インコが配偶時にくちばしを触れ合うのも給餌行動が儀式化したものである。サルの群の中で劣位の雄が優位個体の前でしりを向け,優位個体がマウントした姿勢を示すのも優劣の関係を明りょうにし,むだな闘争を避ける儀式といえる。威嚇行動の多くは,闘争の意図運動から儀式化されたものが多く,威嚇によって劣位個体は相手の攻撃から逃れることができる。
執筆者:奥井 一満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報