くちばし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「くちばし」の意味・わかりやすい解説

くちばし
くちばし / 嘴

上下あごの骨が突き出て、表面が角質化したもの。普通は鳥類のものをいうが、カモノハシウミガメの同様な構造もいう。表面の角質層は角鱗(かくりん)の癒合したものである。

 鳥類では前肢が翼に変わっているため、羽づくろいや巣づくりなど生活の多くの場面で、嘴が手のかわりをしている。なかにはダーウィンフィンチの一種のように、嘴で道具を使うものもいる。また歯を欠くために、餌(えさ)をとったり砕いたりするのにも重要な働きをする。このため、食性によって嘴の形態には著しい変異がみられる。たとえば、花蜜(かみつ)を吸うのに適した細くて長いハチドリの嘴、樹皮に穴をあけて虫をとるのに適したキツツキ類の嘴、肉を切り裂くのに適した先端の鋭く曲がったワシやタカ類の嘴、干潟で砂泥中のカニをとるのに適したダイシャクシギの長い湾曲した嘴、水中や泥中の藻をすくうのに適したガンやカモの仲間の扁平(へんぺい)な嘴、種子を割るのに適した短く縁が鋭くてじょうぶなイカルの嘴など、それぞれが餌をとるのに適した形態となっている。おもしろい例では、イスカの嘴のように先端が食い違って松の球果から種子をほじり出すのによく適しているもの、フラミンゴのように頸(くび)を下げると頭頂が下になり嘴が上下逆さまになって、上嘴を下にして水中で泥の中を探るものなど、非常に特殊化したものもある。

 嘴がこのように変化に富んでいるのは、食性に応じていろいろな方向に進化した結果である。このことを示す好例としてよくあげられるのは、ガラパゴス諸島にすむダーウィンフィンチで、島々には種子食、昆虫食など食性によってさまざまな形の嘴をもった仲間がすんでいて、それぞれの適応による進化の跡を示している。

[和田 勝]


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