全体主義の起源(読み)ぜんたいしゅぎのきげん(英語表記)The Origins of Totalitarianism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「全体主義の起源」の意味・わかりやすい解説

全体主義の起源
ぜんたいしゅぎのきげん
The Origins of Totalitarianism

アメリカの政治学者 H.アレントの代表的著作。初版 1951年。第2次世界大戦後,最も早い時期に発表された最初の体系的な全体主義研究として知られる。第1部「反ユダヤ主義」,第2部「帝国主義」,第3部「全体主義」の3部構成。全体主義運動は階級社会崩壊基盤として成立したもので,一定のイデオロギー実現のために,孤立した諸個人をテロルの鉄かせで締上げるところに,支配の本質があると論じ,そのような体制は厳密にはナチズムスターリニズムのみであると主張する。初版では反ユダヤ主義と帝国主義とを「西洋史伏流」ととらえ,全体主義はその表面化であるとされたが,改訂版以降では,全体主義は西洋史の連続性を切断する現象とされ,前2部との統一性は必ずしも明確ではなくなっている。

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世界大百科事典(旧版)内の全体主義の起源の言及

【アレント】より

…1933年ナチスの迫害を逃れてフランスに移住し,41年にはアメリカに亡命,51年帰化した。《全体主義の起源》(1951)は,反ユダヤ主義と帝国主義に焦点を置いて,ナチズムやスターリニズムの心理的基盤を分析したものであり,《人間の条件The Human Condition》(1955)は,全体主義の現実的基盤となった大衆社会の系譜を思想史的に追求したものである。そこでは,人間の活動的生活が労働,仕事,活動の三つの側面から考察され,労働の優位のもとで仕事や活動の人間的意味を見失ったことに,現代社会の危機の根源があるとされている。…

【全体主義】より

…この概念はその後,39年8月の独ソ不可侵条約の成立を経て,イタリアのファシズム,ドイツのナチズムとソビエトのスターリン体制の支配の共通の特質を抽出して告発する言葉となり,40年代初頭には,E.レーデラーの《大衆の国家》(1940),ノイマンSigmund Neumann(1904‐62)《恒久の革命》(1942)など全体主義理論の古典的著作が生まれた。第2次大戦後,とりわけ50年代のいわゆる米ソ冷戦期には,〈全体主義〉理論は,〈自由世界〉を擁護して〈共産主義〉を告発する理論として流布し,H.アレントの《全体主義の起源》(1951)やフリードリヒCarl J.Friedrich(1901‐84),ブレジンスキーZbigniew K.Brzezinski《全体主義独裁と専制支配》(1956)がその代表的著作として東西のイデオロギー的対抗のなかで大きな影響力を発揮した。 今日まで最も普及している〈全体主義〉のイメージは,フリードリヒの六つの指標を内容とするものである。…

※「全体主義の起源」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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