現代の最もすぐれた政治思想家の一人。ドイツ生れのユダヤ人女性で,ハイデルベルク大学などでヤスパース,ハイデッガーらに学ぶ。1933年ナチスの迫害を逃れてフランスに移住し,41年にはアメリカに亡命,51年帰化した。《全体主義の起源》(1951)は,反ユダヤ主義と帝国主義に焦点を置いて,ナチズムやスターリニズムの心理的基盤を分析したものであり,《人間の条件The Human Condition》(1955)は,全体主義の現実的基盤となった大衆社会の系譜を思想史的に追求したものである。そこでは,人間の活動的生活が労働,仕事,活動の三つの側面から考察され,労働の優位のもとで仕事や活動の人間的意味を見失ったことに,現代社会の危機の根源があるとされている。現代社会の危機がポリス的公共世界の喪失に根ざしていると考えた彼女は,《革命について》(1963)で公的領域創設としての革命の現代的意義を論じた。全体主義を生み出した現代社会の病理的側面と対決することで,現代社会の人間的条件を見いだすことがアレントの生涯の課題であった。
執筆者:阿部 斉
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…それが典型的に成立したのは,ギリシアのポリスにおいてであった。H.アレントによれば,公的なものとは,万人によって見られ,聞かれ,かつ評価される存在を意味する。いいかえれば,それは人々が見る,聞く,評価するなどの主体的行動を通じて,ものごとの価値を問いうることを意味している。…
…とくに,権力の打倒を唱える人は,権力を単なる暴力装置と等置することで,権力のもつ心理的拘束力を弱めようとする。これに対して,哲学者H.アレントは,〈権力と暴力とは対立するものであり,一方が完全に支配するところにはもう一方は存在しない〉と主張した。アレントによれば,〈権力は他人と協力して行動する人間の能力に対応するものである〉。…
※「アレント」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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