現象(読み)ゲンショウ

デジタル大辞泉 「現象」の意味・読み・例文・類語

げん‐しょう〔‐シヤウ〕【現象】

人間が知覚することのできるすべての物事。自然界人間界に形をとって現れるもの。「不思議な現象が起こる」「一時的な現象」「自然現象
哲学で、
㋐本体・本質が外的に発現したもの。
カント哲学で、主観によって感性的に受容された内容が、時間・空間およびカテゴリーなどの主観にそなわる認識形式によって、総合的に統一されたもの。その背後にある物自体は不可知とされる。
フッサール現象学で、意識に現前し、直接的に自らを現している事実。本体などの背後根拠との相関は想定しない。
[類語]事象表面超常現象オカルト奇跡事物物事出来事余事余所よそ他事他人事人事ひとごと雑事諸事事件時事事柄事故異変大変急変変事大事だいじ大事おおごと小事細事些事世事俗事私事しじ私事わたくしごと用事珍事不祥事アクシデントハプニングセンセーション

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精選版 日本国語大辞典 「現象」の意味・読み・例文・類語

げん‐しょう‥シャウ【現象】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 直接、知覚することのできる、自然界、人間界のできごと。また、そのありさま。顕象。げんぞう。
    1. [初出の実例]「馬車の殖(ふえ)たると、フラフの増したると〈略〉まづ目にとまる現象(ゲンシャウ)なんめり」(出典:内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉緒言)
  3. 哲学で、時間、空間の中に現われる対象。本体や物自体に対していう。
    1. [初出の実例]「又謂物、与之以為痛苦、共為全然離拆之現象也」(出典:利学(1877)〈西周訳〉下)
  4. げんぞう(現象)

現象の語誌

明治時代になって、西周がに挙例の「利学」などで、西洋の哲学用語 phenomenon の訳語として用い、それが「哲学字彙」に採用されてから一般化したと思われる。


げん‐ぞう‥ザウ【現象・現像】

  1. 〘 名詞 〙
  2. げんしょう(現象)
    1. [初出の実例]「此有様はもと地球と他の天体と相対して地球の動くがために生じたる現像なるゆゑ」(出典:文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉一)
  3. ( ━する ) 姿をあらわすこと。あることがらが、ある形をとってあらわれること。また、その形。
    1. [初出の実例]「人間といふ動物には外に現るる外部の行為と内に蔵(かく)れたる内部の思想と二条の現象(ゲンザウ)あるべき筈なり」(出典:小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上)
  4. ( 現像 ) ( ━する ) 写真で、撮影した乾板フィルム、または焼付をした印画紙を薬品で処理して、映像をあらわし出すこと。また、その処理。
    1. [初出の実例]「Developing 現像〈略〉或は白金タイプ、ゴム、カーボン等の如く多少認め得べき画像を一層鮮明ならしむる処理を現像といふのである」(出典:通俗写真薬品解説(1920)〈高桑勝雄〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「現象」の意味・わかりやすい解説

現象 (げんしょう)
phenomenon
appearance

一般に事象がわれわれに対して現れている姿を言うが,この現象については古来対立する二つの考え方がある。一つは,時空間的に制約されることのない本体(noumenon)あるいは本質を想定し,それが時空界に現れた姿を現象と考える。カントの現象概念がその典型であり,彼は物のそれ自体における姿つまり物自体と,われわれの感性にとってのその現れつまり現象とを区別し,われわれ有限な人間には物自体は認識不可能であり(不可知論),認識可能なのは現象界だけだと考えた。

 それに対して,現象の背後にそうした不可知な本体を想定することは無意味であり,本質とは現象そのもののうちに認められる可知的連関にほかならないとする考え方がある。カントの二元論を乗り越え,精神が己を外化しつつ発展してゆく過程--現象する精神--をそのまま記述し,そこに弁証法的図式を読みとろうとするヘーゲルの《精神現象学》における現象概念もそれである。一般に実証科学は現象のそうした合理的連関をとらえようとするものであるが,実証主義を徹底しようとするマッハなどは,近代物理学の基本概念の一つである因果概念でさえも物体間の力の授受という実証不可能な関係を想定する形而上学的概念だとして退け,あくまで現象相互間の関数関係の記述だけに終始しようとする〈現象学的物理学〉を提唱した。その立場は〈現象主義〉とも呼ばれる。フッサールの〈現象学〉も,〈還元〉という方法的操作をおこなった上でのことであるが,意識現象の記述を目ざす。といっても,流れ過ぎる個々の意識現象をではなく,それらの現象のそなえている本質構造を記述するのである。ここでも,現象とは何ものかの現れとしてではなく,それ自体のうちに記述可能な本質構造をそなえたものと考えられている。今日ではこのような意味での現象一元論が支配的である。
現象学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「現象」の意味・わかりやすい解説

現象
げんしょう
Phänomen ドイツ語
Erscheinung ドイツ語

形式的にはわれわれの意識主体に現れている事実一般をいう。しかし現れている「すがた」がどうとらえられるかによって、現象はさまざまな意味をもつ。

(1)知識の対象となるすべての経験的事実を意味し、自然現象、社会現象、心的現象などといわれる。

(2)「或(あ)るものの現れ」として、それが現れることによってそれ自身とは別のあるものを指示する。たとえば煙という現象は火を指示している。火の存在は「火の現れ」としての煙という現象を通して知ることができる。

(3)仮象としての現象。現象が本質と分離・対立させられ、現象は本質、真の実在を覆い隠すものとされる。現象のうちにはいかなる真理もないとされ、本質、真の実在は現象を通して((2)のように)ではなく、仮象としての現象を取り除くことによって認識される。

(4)カントにおける現象。現象と本質との区別という枠組みを前提し、しかし(3)と異なり本質そのものの認識は原理的に不可能であるとされる。カントにおいて人間が認識できるのは、直観形式である時間・空間とカテゴリーによって秩序づけられた現象のみである。現象は単なる仮象ではなく経験的実在である。物自体はけっして認識されえない。

(5)現象と本質との統一。ヘーゲルにおいて現象こそが本質を示すのであり、すべての本質は現象する。絶対者自身が現象することがヘーゲル哲学の根本をなしている。

(6)現象学における現象。ハイデッガーギリシア語phainomenonに立ち返り、現象を「自己をそれ自身に即して示すもの」とした。現象はその背後にけっして現象とはならない本質を隠しているのではないが、現象がさしあたり隠蔽(いんぺい)されていることはありうる。現象学はその覆いを取り除き、現象を開示することをその課題とする。ハイデッガーにおいて、現象学の現象は存在者の存在であり、存在論は現象学としてのみ可能である。

[細川亮一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「現象」の意味・わかりやすい解説

現象
げんしょう
phenomenon

ギリシア語の phainomenonに由来し,「現れ」ないし「現れるもの」の意。ギリシアでは現象は感性的認識の対象と考えられ,ヘラクレイトス,プラトンでは存在それ自体とは区別され,パルメニデスなどエレア派では消極的な形で存在自体と区別されたが,アリストテレスでは現象界とイデア界との二元論は否定され,一元論の立場が取られた。カントでは現象は時間,空間内に現出し,悟性形式としての範疇によって構成される可能的認識の対象であり,物自体は英知界の対象として認識不可能なものとされた。ヘーゲルでは世界は絶対的精神の弁証法的展開として考えられたが,しかし現象を離れて絶対者はありえないとされた。 E.フッサールでは現象は意識の相関者であり,現象学的還元による超越論的意識に世界の意味が問われた。

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普及版 字通 「現象」の読み・字形・画数・意味

【現象】げんしよう

ありさま。

字通「現」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の現象の言及

【アラトス】より

…ギリシアの詩人。《現象》と題する詩の作者。この詩は現存する。…

【現象主義】より

…われわれの認識の対象は知覚的現れ,すなわち〈現象〉の範囲に限られるとする哲学的立場。ヒュームにおいて一つの明確な哲学的主張となって現れ,現代の経験主義に受け継がれている。…

※「現象」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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