典礼劇
てんれいげき
liturgical drama 英語
liturgisches Drama ドイツ語
drame liturgique フランス語
10世紀ごろから15世紀にかけてヨーロッパで行われた中世の宗教劇の総称。知識をもたない民衆に、キリスト教の教義を可視的な形で教示するために行われ、音楽が重要な役割を果たした。
10世紀ごろ、復活祭やクリスマスなどの大祝日におけるミサ典礼にトロープスを付加した、素朴な問答体の形で始まったが、11世紀から13世紀にかけて、聖書中のキリスト降誕物語や復活物語、あるいは預言者や聖人たちの物語が、聖職者だけでなく、一般市民や学生たちも加わった多くの信者の手で、聖堂の内部、さらには聖堂の玄関や前庭、町の広場などで歌い演じられた。14、15世紀には教会の典礼から大きく離れ、祝祭的な性格をもつスペクタクル音楽劇に変質し、ミステール(聖史劇)とよばれるようになった。しかし、16世紀以後、こうした宗教劇への関心が急速に失われ、一部の地域で民俗芸能として存続するのみになった。
[今谷和徳]
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世界大百科事典(旧版)内の典礼劇の言及
【イギリス演劇】より
…イギリス演劇は,カトリック教会で復活祭やクリスマスに行われた典礼劇に始まる。これは聖書の事跡をラテン語の簡単な対話に仕立て,僧侶が唱したもので,素朴ではあっても他者を演ずるという行為を含む点でミサとは異なっていた。…
【キリスト教音楽】より
…ゴシック時代はまた,宗教音楽の内部に演劇的な精神が浸透した時代でもあった。受難や復活に関する聖書のくだりを,福音史家(中声),キリスト(低音),その他の人物(高声)に分けて朗唱する典礼劇や,旧約聖書の題材,諸聖人の物語を劇化してページェントの形で歌い演じる神秘劇(ミュステリウム)もこの時代に起こった。 つづく14世紀は,教皇権の落と初期ルネサンスの思潮をうけた世俗音楽の興隆を背景として,宗教音楽は全般的に振るわなかった。…
【宗教劇】より
…古来,演劇は宗教,あるいは宗教的・祭儀的なものと密接に結びついており,古代[ギリシア演劇]はいうまでもなく,インドのサンスクリット古典劇([インド演劇])にせよ,あるいは日本の[能]にせよ,濃厚に宗教的・祭儀的色彩を帯びるものであったし,この内在的伝統は今日もなお何らかの形で生き続けていると考えることができるだろう。だが演劇史的にみて,そのような〈宗教性〉を帯びた演劇が最も直接的・典型的な形で隆盛となったのは,中世ヨーロッパにおけるさまざまなキリスト教劇(典礼劇,受難劇,聖史劇,神秘劇,奇跡劇など)の場合であり,今日,〈宗教劇〉という語が用いられる場合に,固有名詞的にこれらを総称していうのが普通である。 中世ヨーロッパにおけるキリスト教宗教劇は,概括していえば,[イエス・キリスト]の生誕,受難,復活などのそれぞれの場面や,それら場面の連続,あるいはその生涯の全体,また,使徒や聖者の言行,さらには旧約聖書中の物語,エピソードなどを劇化したものであるが,それはもともと,10世紀初めころに,復活祭典礼の交誦(こうしよう)tropusから発生したといわれている。…
【中世音楽】より
…12~13世紀には,聖書の物語を扱ったラテン語の劇が盛んで,対話が単旋律で歌われたりした。この種の劇は,今日,典礼劇と呼ばれている。 850年ころ著されたとされる《音楽の手引きMusica enchiriadis》は,多声音楽の譜例が示されている最古の文献である。…
※「典礼劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」