日本大百科全書(ニッポニカ) 「前兆すべり」の意味・わかりやすい解説
前兆すべり
ぜんちょうすべり
pre-slip
地震の発生前にその震源域付近で本震に先駆けておきるある種のすべり(ずれ)のこと。これが時間とともに加速していって本震の発生に至ると考えられている。プレスリップや前駆すべりともいう。実際に前兆すべりがおき、それが観測されれば、直前地震予知の鍵の一つになりうる。将来おこりうるとされている東海地震の予知は、主として、前兆すべりによって生じうる微小な地殻変動を検知することにより行うこととなっている。いくつかの岩石実験や数値計算により、地震の前に前兆すべりがおこる可能性が指摘されており、その可能性を示唆する観測事例もある。しかし、現在のところ観測からその特徴を直接的・定量的に示した事例はない。1944年(昭和19)12月7日の東南海地震(M7.9)直前の掛川(かけがわ)付近の地殻変動が、前兆すべりによるものではないかと解釈される場合もあるが、既存のデータからだけでは確定的なことをいうことはできない。
[山下輝夫]