数学的に問題を解く方法には、大別して(1)解析的解法(数式の変形による解法)、(2)数値的解法(数値の演算による解法)、(3)その他(図式解法など)がある。(2)によって問題を解くこと、およびそのための計算を、数値計算あるいは数値解析という。数値的解法の特長は、解析的方法で解くことのできない問題にも適用でき、適用可能範囲が広いことである。一方、数値的解法の難点は、計算の手間がかかることであるが、コンピュータの利用により、計算上の困難が大幅に緩和されたので、数値的解法が広く用いられるようになった。
数値的に問題を解くには、解析的方法とは違ったアプローチが必要であり、(1)確実に結果が得られること、(2)演算回数が少ないこと、(3)精度がよいこと、が望ましい。そのための各種の技法が開発されている。とくに、以下のような標準的問題に対しては、解法がよく整備されている。
・連立一次方程式
・高次代数方程式
・行列式、逆行列
・固有値問題
・線形計画法
・補間、近似
・微分、積分
・常微分方程式
・偏微分方程式
・フーリエ変換
数値計算の方法には、代数的公式に数値を入れるだけですむものもあるが、粗い近似値を逐次改良していく、関数を簡単な式で近似して計算する、微分方程式を差分方程式で近似して解く、などの方法も必要に応じて併用される。数値計算においては、普通、丸め誤差や近似誤差は避けられないので、なるべく誤差の混入を少なくするように、また、混入した誤差の影響を小さくするように、計算の方法をくふうする必要がある。
連立n元一次方程式の根はクラメルの公式(行列式による表現)を使うと簡単な形に表されるが、この方法は数値計算には向かない。普通はガウスの消去法といって、係数を表の形にまとめ、表の操作によって未知数を一つずつ消去していく方法が用いられる。n元の方程式を解くに要する演算回数は乗算、減算、各約n3/3回である。
[戸川隼人]
数値計算の歴史は古い。紀元前に書かれたといわれる『九章算術』(中国)に連立一次方程式の解法がみられる。同じころ、西洋ではトレミーの数表(三角関数表)がつくられている。中世にはアラビアで一次方程式、二次方程式の一般解法が確立された。16世紀には対数表が発明され、精密計算が容易になった。その後、微積分学の発展とともに数値計算法も急速に進歩した。とくに大きな貢献をしたのはオイラーとガウスである。20世紀に入ると差分法その他による微分方程式の数値解法が広く用いられるようになった。近年は、コンピュータのおかげで、またコンピュータ活用のために不可欠の技術として、数値計算法は著しい発展を続けている。
現在では、数値計算は、一般の理論計算、技術計算に用いられるほか、シミュレーション(たとえば、原子炉が故障したとき、どのようになるかを数値的に実験する)、データ解析(たとえば、人工地震の反射波の計測値を解析して地下資源を調べる)などの面でも盛んに用いられている。
[戸川隼人]
数値計算のためのよく使われる解法や計算法のプログラム集が汎用(はんよう)数値計算ソフトウェアとして公開されている。代表的なものとしてはIMSL(有料)、NAG(有料)、netlib(無料)などがある。MATHEMATICA(有料)は数式処理のためのプログラムであるが、数値計算やグラフィック表示の機能を含んでいる。線形計算に関しては、MATLAB(有料)も定評がある。
[戸川隼人]
『伊理正夫・藤野和建著『数値計算の常識』(1985・共立出版)』▽『渡部力・名取亮・小国力監修『Fortran77による数値計算ソフトウェア』(1989・丸善)』▽『William H. Press、William T. Vetterling、Saul A. Teukolsky、Brian P. Flannery著、丹慶勝市・奥村晴彦訳『C言語による数値計算のレシピ』(1993・技術評論社)』▽『戸川隼人著『科学技術計算ハンドブック』新装版(1998・サイエンス社)』▽『山本喜一・榊原進・野寺隆志・長谷川秀彦著『これだけは知っておきたい数学ツール』(1999・共立出版)』
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