地殻が時間とともに変形する現象で,その原因が固体地球内部にあるもの。直接の原因が地球外部にある場合でも,広範囲な地殻の変形を誘発する場合ならば,これを地殻変動と呼ぶ。地震動,地球の自由振動,地球潮汐のような振動的変形は地殻変動に含まれない。また堆積,浸食,隕石孔の形成,集中豪雨による地すべりや工業活動に原因する地盤沈下なども地殻変動とは呼ばない。
地殻変動は,断層運動のように短時間に発生する現象から,長い地質時代を通してゆっくりと進行する造山運動まで,幅広い帯域にわたる特徴をもつ。笠原慶一によれば,地殻変動はその帯域幅により次のように分類することができる。
(1)地震帯域の地殻変動 地震に伴って急激に発生する非振動的な地殻変動(地震性地殻変動)で,断層運動に代表される。濃尾地震(1891)の際の根尾谷断層は,最大で上下に6m,水平に2mのずれを発生した。また関東大震災(1923)のときは,南関東一帯に最大2m程度の隆起,1m以上の沈降,4mに及ぶ水平運動があった。これは相模トラフの断層運動の結果である。日本の場合,マグニチュードMが6以上の浅発性地震には地震性地殻変動が伴う。檀原毅によれば,地殻変動域の平均半径r(km)はMとの間に次の関係がある。
log10r=0.51M-2.27
火山活動に伴って発生する地殻変動(火山性地殻変動)にもこの帯域のものが多い。
(2)地球物理帯域の地殻変動 数日から数ヵ月にかけて現れる地殻変動。おもに傾斜計や伸縮計などの連続観測により検出される。傾斜計には,坑道内に水平に置かれた長いU字管に水を満たし,その両端の水位変化によって土地の傾斜を測定する水管傾斜計のほかに,水平振子型あるいは倒立振子型傾斜計がある。後者は土地の一点の傾斜を測定することができるため,坑井内の測定に用いられる。体積ひずみ計も坑井内に設置され,地殻に蓄えられた体積ひずみを管内の油圧変化などにより検出するものである。伸縮計とは,坑道内に水平に置かれた金属あるいはシリカ製の長い棒の一端を土地に固定し,他端を土地から浮かせて,土地に対する他端の相対変位により水平方向の土地の伸縮を測定する計器である。近年,坑道内の2点の距離変化をレーザー光により連続測定するレーザー伸縮計が登場した。
(3)測地帯域の地殻変動 数ヵ月から数十年にわたる地殻の緩慢な運動。水準測量,光波測量,精密重力測量などのくり返しにより検出される。地球物理帯域とともに,この帯域の地殻変動には地震の前兆的あるいは余効的変動が含まれる。そのため地震予知を目的として,この種の地殻変動が常時監視される。日本では,海岸線に沿って約100kmごとに検潮所が設置され,海岸の地震前兆的隆起・沈降を常時監視している。最近では,弧状列島や大陸スケールの広域な測地帯域地殻変動を,VLBI(超長基線電波干渉法)やGPS衛星を利用して検出する方法が実用化されつつある。近年,弧状列島におけるこの帯域の地殻変動には,海溝から列島にかけて,数十cm/年程度の速さで移動する傾向があることが発見された(移動性地殻変動)。
(4)地形帯域の地殻変動 数百年から数千年以上も続く長期間の地殻変動。段丘面,川筋,尾根筋のずれなどを地形学的に測定する方法がとられる。1930年北伊豆地震の際,丹那断層は水平に最大3mのずれを発生した。地形的にみると,この断層のずれは約2kmにも達している。過去における1000回近くの断層運動が累積した結果と推定される。また,氷期が終わって氷床がとけ去ったために,その荷重から解放されて地殻が隆起する運動もこの帯域に属する。スカンジナビア半島のフェノスカンジア隆起やカナダのローレンタイド隆起はアイソスタシー回復運動として有名である。また氷床消失によるユースタチック海面上昇は海水荷重の増加を促し,広範囲に地殻を変形させる。これなども測地帯域から地形帯域にまたがる地殻変動である。
(5)地質帯域の地殻変動 数万年以上のタイムスケールの地殻変動。地質調査により推定される。ヒマラヤ山脈やアルプス山脈,弧状列島などを形成したアルプス造山運動のような全地球的規模の地殻変動である。大陸移動の現象は約3億年前から今日まで続いている数cm/年程度の水平地殻変動であるが,近年の測地計測法の進歩から検出できるようになった。地形・地質帯域の地殻変動でも現在も継続中の運動ならば,一般に測地学的方法で検出できる。
執筆者:萩原 幸男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地球の表面を形づくっている地殻が変形する現象。この変形はゆっくりとおきたり、急激に生じたり、いろいろの場合があり、変形に伴って、地殻の一部が破壊されることもある。地殻変動の結果、土地の隆起や沈降、傾斜や伸縮がおこり、断層や褶曲(しゅうきょく)が生成し、さらに造山運動といった大規模な変形も生じる。このように地殻の動きの結果として生じた構造のことも、地殻変動ということが多い。同じ地殻の動きであっても、地震の振動や地球潮汐(ちょうせき)による周期的変形は、通常は地殻変動には含めない。
地殻変動の生じる原因は明らかではないが、いずれにしても地球の内的エネルギーによるものであり、マントル対流の影響が大きいのではないかと想像されている。大地震に伴って明らかな地殻変動の生じた例は多い。1891年(明治24)の濃尾(のうび)地震の際の根尾谷(ねおだに)断層の生成、1923年(大正12)の関東大地震のときの南関東一帯の隆起と水平移動、1964年(昭和39)の新潟地震に伴う粟(あわ)島の傾動などは有名で、同様な例はほかにも多い。このようにはっきりした変化ではなく、地震を伴わずに、ゆっくりとわずかずつおこっている地殻変動もある。こうした緩慢な変動が存在することは、精密な観測、測量を行うことによって初めてわかってくる。
変動が非常にゆっくりしている場合や、急激に生じたものでも変動量が小さい場合には、あまり大きな影響はないように思われがちである。しかし、それが長期にわたって継続し繰り返されるならば、全体では非常に大きな変動となり、その結果が明らかに観察できるようになる。たとえば、海中で堆積(たいせき)した堆積岩が高山でみられたり、二つの地層の上下が逆転していたり、もともと一つにまとまっていた地質構造が水平断層によって何キロメートルも離れてしまうなどの現象である。現在の大きな山脈は、すべてこうした過去の小さな地殻変動の積み重ねでできたものである。このことは、現在の地殻の形成には、過去の地殻変動が、無視できない大きな役割を果たしてきたことの証明でもある。
現在、地殻変動の観測は、主として地震予知のために行われている。大規模な地震は、その発生に先だって地殻の隆起などの小さな変動を引き起こしていることがあり、新潟地震や1980年の伊豆半島東方沖地震では、地震の前兆と思われる変動が確認されている。そのため、地震の予想される地域で地殻変動を監視することが、地震予知の手段の一つとして重要視されている。そして、精密水準測量、光波測量、精密重力測量などの繰り返し、地下観測坑における地殻の傾斜、伸縮観測が精力的に実施されている。さらに広域の地殻変動を検出する最新の手段として、VLBI(超長基線電波干渉法)やGPS衛星(Global Positioning System=全地球測位システム)を利用して高精度の位置測定をする方法が実用化されつつある。1990年代に入って、かなりの規模の地殻変動が、一瞬におこるのではなく、数十秒の時間をかけて生ずる場合のあることがわかってきた。これはヌルヌル地震などとよばれ、あまり大きな地震を伴わずにおこる。しかし海底でこの変動が生じると津波は押し寄せるので、この種の地殻変動の検出と対策が急がれている。
[長沢 工]
『木村政昭著『地震と地殻変動 琉球弧と日本列島』(1985・九州大学出版会)』▽『木村政昭著『噴火と地震――揺れ動く日本列島 群発地震と火口底上昇で地殻変動を予測する』(1992・徳間書店)』▽『米倉伸之編著『環太平洋の自然史』(2000・古今書院)』▽『木村敏雄著『日本列島の地殻変動 新しい見方から』(2002・愛智出版)』
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…火山活動を機器を用いて観測すること。地震観測,地殻変動観測,電磁気的観測,熱的観測,重力測定等の地球物理学的諸観測のほか,火山ガス,地下水,温泉水等の化学的測定がある。マグマが地下深部から上昇し,マグマ溜りの圧力が増大し,さらに火道を上昇してくるに伴い,諸種の現象が生じる。…
…地震の直後に気象庁が発表する震源地は震央の地名であるから,○○沖地震というように震央が海域の地震でも,震源域は内陸に及んでいることもある。震源域の位置や形は,その地震の後に起こる多数の余震の震源の分布や,地震に伴う地殻変動その他を分析して求められる。 地震には震源がほとんど地表付近のごく浅い地震から,700kmも深い所に起こるものまで,さまざまな深さのものがある。…
…とりわけ三畳紀ではコノドント,ジュラ紀では放散虫,白亜紀では浮遊性有孔虫,ナンノプランクトン,放散虫が化石層位学にきわめて有効であることが知られ,中生代の地史の解明に大いに役立っている。
[地殻変動]
西ヨーロッパの標準地域をはじめ,各大陸の安定した基盤がある地域では,中生代の地層はわずかに傾斜している程度で,ほとんど褶曲や変形を受けていない。これに対して,各大陸の縁辺部の基盤が不安定な地域ではしばしば強く褶曲し,時には変成作用を被った中生層が見られる。…
※「地殻変動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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