地震は地球を構成している岩石の一部分に急激な運動が起こり,それに伴って地震波が発生する現象である。地震波は地球の内部あるいは表面を伝わる弾性波動で,P波(縦波),S波(横波),および表面波があり,上記の順で伝わる速度が大きい。地震波が到着した地点では地面が揺れる。この揺れのことを地震動というが,一般には地震動のことも地震と呼んでいる。
マグニチュードと震度
地震には,数百kmの範囲にわたって強い地震動をもたらし,大災害を生じるような巨大地震から,地震動は人体に感じられず,高感度の地震計だけが記録するような微小地震まで,大小さまざまなものがある。地震の大きさ(規模)はマグニチュードによって表示される。一方,ある地点における地震動の強さは震度によって表示される。マグニチュードも震度もその定め方には種々の方式がある。日本では気象庁の方式によって定められた数値が発表されるが,外国では別の方式によっている。マグニチュードはふつうMと略記するが,本項目におけるMの値は,日本の地震については気象庁の方式により,外国の地震については表面波マグニチュード(ただしきわめて大きい地震についてはモーメント・マグニチュード,深い地震については実体波マグニチュード)というものによっている。震度は気象庁では0から4,5弱,5強,6弱,6強,7の10階級を用いているが,外国では1から12までの12階級を用いている。
日本ではM7以上を大地震,5以上7未満を中地震,3以上5未満を小地震,1以上3未満を微小地震,1未満を極微小地震と呼ぶことにしている。巨大地震あるいは大規模地震ということばも使われるが,M7.8ないし8.0程度よりも大きいものを指すことが多い。1982年までに起こった世界の巨大地震を7位まで挙げると,次のように1950年代~60年代に集中している。(1)1960年チリ地震(M9.5),(2)1964年アラスカ地震(M9.2),(3)1957年アリューシャン地震(M9.1),(4)1952年カムチャツカ地震(M9.0),(5)1906年エクアドル地震(M8.8),(6)1965年アリューシャン地震(M8.7),(7)1950年アッサム地震(M8.6)。これらのうち(3)(4)(6)は災害面からはそれほど著しいものではない。一方,M7クラスあるいはそれ以下でも,都市の直下に起こると数万人の死者を出す大震災となることがある(地震災害)。
震源
地震の直接の原因である岩石の急激な運動は,岩石の破壊によって起こる。この破壊が生じた領域を震源域という。地震波は震源域全体から発生する。大地震では震源域の寸法は数十kmから数百kmに達するから,その位置を点で示すことは無理である。震源とは震源域内で破壊が最初に発生した点であり,震源域の中心ではなく,縁に近いことが多い。震源の真上の地表の点を震央という。地震計による観測から求められるのは震源の位置(震央と震源の深さ)である。地震の直後に気象庁が発表する震源地は震央の地名であるから,○○沖地震というように震央が海域の地震でも,震源域は内陸に及んでいることもある。震源域の位置や形は,その地震の後に起こる多数の余震の震源の分布や,地震に伴う地殻変動その他を分析して求められる。
地震には震源がほとんど地表付近のごく浅い地震から,700kmも深い所に起こるものまで,さまざまな深さのものがある。震源の深さが70km(または60km)未満の地震を浅発地震,70km(または60km)以上300km未満をやや深発地震,300km以上を深発地震ということが多い。しかし70kmあるいは300kmの深さを境として地震の性質が急に変わるわけではないので,この分類はまったく便宜的なものである。
大きい地震が起こると,その直後からその震源域内に(ときには震源域の周辺にも),小さい地震が多数発生する。これを余震といい,初めに起こった大きい地震を本震(または主震)という。本震の前に本震の震源の近くに小さい地震が起こることがある。これが前震である。すなわち,ある地域に地震が群をなして起こったとき,そのうちの一つが特に大きければ,それが本震,その前と後に起こった地震が前震と余震になる。本震と呼べるような一つだけ特に大きい地震がない場合は群発地震と呼ばれる。
地震は自然に発生するものであるが,人為的な原因,たとえば火薬の爆発,核実験,あるいは重い物体の落下による衝撃などによっても,地震と似た現象が起こる。これを人工地震という。また,深い井戸に大量の水を注入したり,高いダムを造って貯水したりすると,その付近に地震が起こることがある。この種の地震は誘発地震と呼ばれている。
地震動
ある地点の地震動を記録する器械が地震計である。地震動は図1のように複雑な波形をしており,微小地震では周期が0.1秒以下の波が卓越するが,大地震では数十~数百秒という長い周期の波も含まれる。大地震の震源域付近では地震動の振幅が1mをこえることもありうるが,極微小地震の地震動は数十万倍に拡大してようやく認められる。このように広い周期・振幅の範囲を,1台の地震計ですべて記録することは容易でない。地震計には,記録する周期の範囲(周波数特性)や倍率が異なる種々の型式のものがあり,目的に応じて使い分けている。震源の位置やマグニチュードを求め発震機構を調べるためには,多くの地点に地震計を設置して,地震観測網を構成する。近年は,各地の地震計の電気的出力を電話線または電波にのせて観測センターに送り,多くの地点の地震動を1ヵ所で集中記録するテレメーターシステムが広く採用されている。
地震計の記録を見ると,地面はつねに揺れ動いていることがわかる。これは常時微動または雑微動と呼ばれるもので,市街地では交通機関や作業場などから出る振動が卓越するが,人里離れた場所でも,遠くの海岸に打ち寄せる波など自然の原因による微動が必ず存在する。常時微動のうち,周期がほぼ一定で単純な波形の振動が続くものは脈動と呼ばれる。
地震の起こる場所
地震の発生は,地球内部の地表から700kmまでの部分,すなわち地殻と上部マントルに限られている。700kmより浅い部分でも,いたるところに起こるわけではない。図2に示すように,地域的にみると,世界の地震の大部分は地震帯と呼ばれる帯状の地帯に集中している。太平洋をとりまく環太平洋地震帯とインドネシアからミャンマー,ヒマラヤ山脈,中東を経て地中海地方へ至るユーラシア地震帯の存在は19世紀から知られていたが,大洋の底を延々と連なる地震帯の詳細が明らかになったのは20世紀半ば以降である。
これらの地震帯は,プレートテクトニクスという学説におけるプレートの境界とその付近に当たる。この学説によれば,地球の表層を構成する厚さ数十ないし100km程度の固い部分(地殻と最上部マントル)は,ユーラシアプレート(その日本に近い部分は中国プレートと呼ばれる),太平洋プレート,北アメリカプレートというようにいくつかのプレートに分かれて,それぞれ水平方向に動いている。プレートの境界には次の3種類があり,それぞれ特徴ある地震の分布がみられる。(1)二つのプレートが収斂(しゆうれん)する境界。日本列島や南米大陸の西岸のように,大洋側に海溝をもつ島弧や海岸山脈の地帯では,大洋側のプレートが大陸側のプレートの下にもぐり込んでいる。両プレートは海溝付近から大陸側に向かって傾斜している面で接しており,この境界面上で多数の浅発地震が発生し,巨大な地震も起こる。浅発地震は境界面上に限らず,その周辺の大陸・大洋両プレートの中にも起こる。また,もぐり込んだ大洋プレートの中には,やや深発地震,深発地震が起こる。したがってこの地帯における震源の立体的分布には,図3に見られるように,海溝から大陸側に向かってしだいに深くなるという著しい規則性がみられる。ヒマラヤ山脈のような大褶曲山脈は,二つの大陸プレートが押しあっている境界に当たり,このような地域では,境界からかなり離れたプレート内部にまで大きな地震が分布している。(2)二つのプレートが分離する境界。中央海嶺では,二つのプレートが分かれていき,その隙間に下から熱い岩がわき出してきて盛り上がり,冷えて新しいプレートが生成されている。ここでは浅発地震のみが起こるが,巨大地震はほとんど起こらない。(3)二つのプレートが水平にすれ違って動いている境界。この境界面をトランスフォーム断層という。北米西岸のカリフォルニア州を縦走するサン・アンドレアス断層はこの例である。ここでも浅発地震だけが起こり,場所によってはM8程度の巨大地震も発生する。
プレート境界から遠く離れた大陸内部や大洋底では,地震は概して少なく,大地震はほとんど起こらない。ただし特別な地域(アフリカ東部,ハワイ諸島など)では,かなり大きい地震が起こることがある。
日本の地震
日本には416年の河内地震以来,多くの大地震の記録が残っている。1880年ころ地震計が開発され,観測が始まったが,明治初年以前については,今後,古文書等の調査が進めば新しく大地震が見いだされたり,現在推定されている震源地やマグニチュードが訂正されることもありえよう。図3には地震計による観測から定められた1901年以降のM6.0以上の地震の震央が示されている。日本付近の地震活動には,太平洋プレート,ユーラシアプレート(中国プレート),フィリピンプレート,北アメリカプレートが関係している。ユーラシアプレートと北アメリカプレートの相対運動は日本付近では小さいので,その境界は明瞭でないが,その他のプレートの境界では海溝またはトラフが発達し,その内側で多くの地震が起こっている。特に日本海溝と千島海溝の内側の海域では地震活動が著しく活発で,M8クラスの巨大地震も珍しくない。日本の内陸部から日本海沿岸にかけての地震活動は,この海域に比べれば概して弱いが,震源が浅いとM6クラスの地震でも被害を伴い,M7クラスでは大震災となる。南海トラフ,琉球海溝の内側の地震活動は常時はそれほど活発ではないが,東海道から南海道沖にかけてはM8クラスの巨大地震が間欠的に起こっており,琉球海溝沿いにも巨大地震の起こることがある。このような地震の分布を反映して,各地で地震動を感じる回数にはかなりの地域差があり,表に見られるように東日本の太平洋側が多いが,西日本でも和歌山のように付近に小地震が多発するため,異常に回数の多い地点もある。
南千島・北海道の地震
千島海溝と南千島・北海道の間,および日本海溝と青森県の間の海域には,M8前後の巨大地震が数十~100年程度の間隔でくり返し起こっている。歴史が浅いので300年以上前のことはわからないが,これらの巨大地震には活動期があり,150~300kmの幅をもつ震源域が互いにほとんど重なりあわず次々とこの海域を埋めていくような起こり方をする。近年では1952年から73年にかけて一連の活動があり,6回の大地震によって全海域が埋まった。このうち1952年十勝沖地震(M8.2),1968年十勝沖地震(M7.9,震源域は青森県沖)の両地震はかなりの被害を伴った。北海道の内陸部は大地震は少ないが,M7.0程度までは起こる。北海道の日本海岸沖合にも,ときには1940年積丹半島沖地震(M7.5)のような大地震があり,津波による被害が発生する。
東北地方の地震
三陸沖には大地震が多く津波を伴う。869年(貞観11),1611年(慶長16),1677年(延宝5),1896年,1933年の各年に起こったものは特に大きく,沿岸に大津波による大災害をもたらした(三陸沖地震)。これらはM8をこえているが,M7クラスでも海岸に近いと,例えば1978年宮城県沖地震(M7.4)のように,地震動による被害が避けられない。東北地方内陸部から日本海岸の沖合にかけても,1833年(天保4)の庄内沖地震,1896年陸羽地震(M7.2),1983年日本海中部地震(M7.7),2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2),2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)など,M7.0~7.7程度の大地震がいくつか知られている。
関東地方の地震
関東地方南部は太平洋プレートのもぐり込みに伴う地震と相模トラフからもぐり込むフィリピンプレートに関連する地震とが入りまじっており,震源の立体的分布は複雑である。茨城・千葉両県の東方沖は地震活動が活発で,M7強までの地震が多いが,M8クラスの巨大地震の記録はない。房総半島沖の相模トラフ沿いにはM8クラスの巨大地震も起こる。1923年関東地震(M7.9)は相模トラフの北端部に起こったもので,日本史上最大の震災となった(関東大震災)。1703年(元禄16)の元禄地震も同じタイプの地震であるが,規模はより大きく,震源域はさらに南東方に及んでいた。首都圏に災害をもたらす地震には,このような相模トラフの大地震のほか,首都圏の直下に起こるM7前後の地震がある。1855年(安政2)の安政江戸地震(安政地震)や1894年東京地震(M7.0)などが後者の例である。関東地方で最も地震の多いのは茨城県南西部,千葉県北部・中部の地下50~90km付近であるが,これらは震源がやや深いので大災害を伴うことはまずない。しかし浅い地震も伊豆諸島を含め各都県に起こりうるので安心はできない。
中部・近畿地方の地震
南海トラフの内側,すなわち静岡,愛知,三重,和歌山の各県から高知県を含めその沿岸,沖合の一帯を震源域として,M8クラスの巨大地震が100~200年程度の間隔で,くり返し発生している。1707年(宝永4)の宝永地震は,長さ600kmに及ぶこの地帯全域を震源域として起こったものとみられるが,1854年(安政1)の安政地震のように東海道沖と南海道沖の二つの地震に分かれ,東側から先に起こることが多い。1944年の東南海地震(M7.9)と1946年の南海道地震(M8.0)もこの例であるが,このときは南海トラフの東端(駿河トラフと呼ばれる)までは震源域が広がらず,駿河湾から御前崎沖にかけては,安政地震以後破壊せず残っているものと考えられる。内陸部から日本海岸沖合にかけても,M7前後の大地震による災害が比較的多く,昭和年代以降にも1927年丹後地震(M7.3),1930年北伊豆地震(M7.3),1945年三河地震(M6.8),1948年福井地震(M7.1),1964年新潟地震(M7.5),1995年兵庫県南部地震(M7.2)などが数えられる。特に岐阜県とその周辺は745年(天平17)の天平地震,1586年(天正14)の天正地震,1891年濃尾地震(M8.0)のようにM8前後の巨大地震も起こる(〈新潟県中越地震〉〈阪神・淡路大震災〉〈東日本大震災〉の項参照)。
中国・四国地方の地震
南海トラフ沿いの巨大地震の震源域は高知県沖に及んでいるが,四国・中国の内陸部では,大地震は概して少ない。しかし,日本海側には1872年(明治5)の浜田地震,1943年鳥取地震(M7.2),2000年鳥取西部地震(M7.3)のような例もあり,また瀬戸内海西部でも1905年芸予地震(M7.1)のようなかなりの大地震が起こる。
九州・沖縄地方の地震
琉球海溝の内側にも,場所によっては1911年奄美大島沖地震(M8.0)のようにM8クラスの巨大地震が起こる。1771年(正徳1)の八重山列島沖地震は巨大な津波を伴い,石垣島で85mに達し,住民の80~90%が流亡した(八重山地震津波)。日向灘も地震が多いが,最大でもM7.5程度と思われる。九州内陸部にはM6.5~7.0程度でかなりの被害を伴う地震が起こる。近年のものとしては,2005年の福岡県西方沖地震(気象庁暫定値でM7.0)が知られる。
世界の地震
最近50年間(1931-80)に全世界に起こったM7.0以上の浅発地震は490回(うちM8.0以上は18回)である。同じ期間に日本付近(図3の範囲)に起こったM7.0以上の浅発地震は68回(うちM8.0以上は5回)であるから,日本付近はM7.0以上の大地震の数では,全世界の約14%を占めている。一般にMのレベルを1.0だけ下げると,地震数は数倍ないし10倍になるから,M7以下の地震の比率もほぼ同じであろう。ただし,地震のエネルギーとしては,M9クラスの地震が日本付近には起こっていないため,過去100年間に日本付近に起こった全地震のエネルギーを合わせても,1960年チリ地震1回にはるかに及ばない。
北アメリカの地震
アレウト(アリューシャン)列島を含むアラスカ州の太平洋岸は,島弧型の地震活動が活発で,今世紀にもM8~9クラスの巨大地震が5回起こっている。この地域の大地震はハワイ諸島にも大津波をもたらす。アメリカ西部,特にカリフォルニア,ネバダの両州は地震が多い。1906年サンフランシスコ地震(M8.3)や1857年フォルト・テホン地震(ロサンゼルス北方)などは,サン・アンドレアス断層に起こった巨大地震である。中部,東部にもまれには大地震が起こる。1811年ミズーリ州ニューマドリッド地震,1886年サウス・カロライナ州チャールストン地震のMは8に近いと推定されている。
中央アメリカの地震
メキシコ,グアテマラからコスタリカにかけては島弧型の大地震が起こる。内陸部に起こる地震はM6クラスでも,1972年ニカラグア地震(M6.2)のような大災害となることがある。グアテマラは北アメリカプレートとカリブプレートの境界をなすトランスフォーム断層が横断しており,1976年の地震(M7.5)はこの断層の活動で起こった。西インド諸島,ベネズエラなどカリブプレートの縁も地震活動が活発である。
南アメリカの地震
南米大陸の太平洋岸は,ココスプレートの南アメリカプレートの下へのもぐり込みに伴う巨大地震が発生する。1960年チリ地震(M9.5)は過去100年間における世界最大の地震で,震源域の長さは1000km近くに達し,発生した津波は全太平洋に波及した。日本やハワイ諸島は,この地震や1868年と1877年のペルー・チリ国境沖の地震などによる津波で大きな被害をこうむっている。1970年のペルーの地震(M7.6)は氷河なだれに端を発した土石流による大災害が発生し,7万に近い死者が出た。
南太平洋の地震
ニュージーランドからケルマデク,トンガ,ニューヘブリデス,サンタ・クルーズ,ソロモンの各諸島を経てニューギニアに至る地帯は,太平洋プレートとインドプレートの境界に当たり,島弧型の地震活動が活発で,M8.0程度以下の地震の発生数はかなり多い。しかし死者数万人というような大震災は知られていない。
東南アジアの地震
フィリピン,インドネシア,ミャンマーは地震国であり,おもに島弧型の地震活動が盛んである。20世紀にM8.0以上の巨大地震は台湾付近に1回,フィリピン付近に3回,インドネシア地域に4回,ミャンマーに3回起こっている。1976年フィリピンのミンダナオ島南方沖地震(M8.2)が地震動,津波の双方による大被害をもたらしている。2006年に発生したインドネシアのジャワ島中部地震(M6.3)は直下型地震で,5700人以上の死者を出した。
インド・中国とその周辺の地震
ヒマラヤ山脈に沿っては,インドとユーラシアの両プレートの衝突に伴う地震が起こり,1897年アッサム地震(M8.7)などの巨大地震も起こる。地震は両プレートの内部にも広がっており,インド,パキスタン,アフガニスタン各国の北部から,中国の西部,タジキスタン,キルギス両国とその周辺にも大地震が起こる。さらに活動は中国東部,モンゴルからバイカル湖周辺にまで及んでいる。中国には古代から大地震の記録が多数残っているが,1668年郯城地震(山東省),1920年海原地震(寧夏回族自治区,M8.6,死者20万余)などは特に大きかった。また1556年華県地震(陝西省)は83万をこえる死者が記録されている。1976年唐山地震(河北省,M8.0)が20世紀最多の死者24万2000人を出した。2008年に発生した四川大地震は四川省を中心に大きな被害を出し,マグニチュードは7.9~8.0とされている。
中東の地震
イラン,トルコはアラビアプレートとユーラシアプレートの境界に当たり,地震災害の多い国である。イランでは今世紀だけで,死者が数千ないし1万人以上の大震災が9回起こっているが,Mは7クラスである。近年のものとしては1978年タバス地震(M7.7,死者1万5000)がある。トルコでは東西に800kmにわたって延びている北アナトリア断層上に,1939年エルジンジャン地震(M8.0,死者3万3000)以後,M7クラスの地震が1~10年おきに6回発生し,大被害を出している。この断層以外にも大地震は少なくない。
地中海周辺の地震
ギリシア,アルバニア,ユーゴスラビア,イタリア,アルジェリア,モロッコなどには大災害を伴う地震が起こる。これらはアフリカとユーラシアの両プレートの相互作用によるものであるが,両プレートの境界線は必ずしも明瞭ではない。ギリシアの地震活動は活発で,やや深発地震が多く,ときにM8に近いものも起こる。中小の被害地震も多いが,死者1000人をこえるような大震災はまれである。イタリアの地震活動はそれほど高くないが,歴史上多くの大震災が記録され,死者数万人という事例がいくつかある。1908年メッシナ地震(M7.2,死者11万)では,メッシナ,レッジョ両市の人口の半分以上が死亡した。東アフリカの地中海岸にも大震災がある。1960年アガディール地震(M5.8)は,小さい地震でも条件が悪いと1万人をこえる死者が出る例として引用される。ジブラルタル海峡から大西洋のアゾレス諸島にかけては,M8程度の巨大地震が起こる。1755年リスボン地震はこの系統のもので,Mは9に近いと推測される。
地震活動の性質
地震は1日のどの時間帯にも,1年のどの月にも,まんべんなく起こるものである。月の満ち欠け(月齢)や太陽活動の11年周期などとも,特に関係はない。一部の地域では,ある季節に大地震が比較的多いとか,地球潮汐や海洋の潮汐と関連して小地震の数が変動するなどの傾向がみられることもあるが,広い地域にわたって共通に認められる現象ではない。地震の発生を支配するものは,震源域における応力状態と岩石の物性であるが,潮汐,海流の変動,気圧変化,降雨による地下水の変化などが,応力状態をわずかに変化させ,いわゆる引金作用として地震の発生に多少の影響を及ぼすことは考えられなくはない。しかしこの種の影響について一般的な規則性が認められているわけではない。
大地震が起こると,その震源域にはしばらくの間は余震が起こるが,同じ震源域から同じような大地震が続いて起こることはまずない。しかし,その震源域に隣接する地域あるいはやや離れた地域で群発地震が起こったり,ときにはかなりの大地震が起こることがある。したがって震源域は異なるが,ほとんど同じ地域から大地震が続発して,同じ場所が続けて被害をこうむることはありうる。島弧やトランスフォーム断層型のプレート境界では,いくつかの大地震が,その震源域を互いにほとんど重ね合わすことなく,境界地帯を次々と埋めるように起こることがある。日本の太平洋岸沖の巨大地震の前の10年~数十年間と,後の数年~10年間は,その震源域の周辺,特にその内側の日本内陸部で地震活動が活発化する傾向がある。
大きな地震は同じ震源域からある間隔をおいてくり返し発生するといわれる。この性質は後で述べる地震発生の機構から考えても当然予想されるものである。しかしこれを,地震発生に周期性がある,というと誤解を生じやすい。くり返しの間隔は一定でなく,大きくばらつくのがふつうだからである。島弧やトランスフォーム断層型のプレート境界では,大地震が数十~数百年の間隔でくり返していることが歴史上の記録から確かめられる地域もあるが,日本の内陸部などプレート内部に起こる大地震は,間隔が1000年程度以上と考えられるので,同じ震源域から大地震が2回発生したという歴史上の記録はほとんど見いだせない(活断層)。
地震に伴う現象
大地震は自然界および人間社会に大きな影響を及ぼす。地震に伴う自然現象のうち,特に著しいものは地殻変動であろう。地震発生のもとである断層の変位が地表に及んで,地盤の食違いが何十kmにもわたって現れたり,海岸では地盤が海面に対して数mも隆起したり沈降したりする。変動が目撃されなかった地域でも,地震後,測量を行うと数十cm,ときには数mにも及ぶ大地の上下あるいは水平方向の移動が確認されることがある。断層は岩盤のずれがかなりの深さまで達しているものであるが,地割れや山崩れ,地すべりは地表の現象である。これらは地殻変動に伴って生じる場合もあるが,多くは強い地震動が原因である。崩壊した多量の土砂,岩石,氷河などは,ときに土石流となって谷を非常な速さで流れ下る。山崩れが川をせきとめて湖をつくることもあり,しばらく後にせきが決壊して洪水となることもまれではない。ある種の地盤では,地震動によって地下水と砂が混じりあって,地盤の液状化が起こり,水や砂が噴き出ることもある(クイックサンド)。
海底の地殻変動は海水にじょう乱を与え,津波という周期数分~数十分の海の波を発生し,ときには地震動以上の災害をもたらす。海底の地震動は海水中にも伝わり,海上の船を振動させる。これが海震である。大地震のとき,地震波に含まれる長周期の成分に共振して,湖などの水がゆっくりと振動することがある。これが地震によるセイシュseiche(静振)で,巨大地震の際には地震動を感じない遠隔地の湖でセイシュが目撃されることがある。海底の斜面が地震動によって地すべりを起こし,土砂が混濁流として非常な遠方まで運ばれることもある。短周期の地震動が地表から空気中に伝わり,音として聞こえることがある。これが地鳴りである。大地震に伴う地殻変動や強い地震動によって地下水の状態が変わり,井戸の水位や水温・水質,温泉や冷泉の湧出量や温度・成分などに変化がみられた例は多い。夜間の大地震のときには,雷のときのように空が光る発光現象が見られることがある。そのほか,測定器による観測によれば,地震に伴って土地のひずみ,傾斜,電気抵抗や,地磁気,地電流,重力などが変化した例が多数知られている。これら土地のひずみ,傾斜,地下水,地磁気の変化などは,地震の前にその前兆として出現することもあるので,地震の発生状況や地盤の昇降などとともに,地震予知の資料として利用される。
執筆者:宇津 徳治
地震の原因
地震は地球内部の一部に急激な破壊が起こり,これによって生じた地震波が伝搬する現象であることは,今日ではよく知られている。しかし地震がなぜ起こるかその原因については古くから種々の仮説があり,地下空洞の陥落説,マグマの貫入説,地下火山の爆発説,熱機関説,岩石の相転移による破壊説,構造的断層地震説などが提唱されていた。そして20世紀半ばになっても,これらの地震,すなわち地下で破壊を発生させる原動力がどこからくるのかという問題は未解決であった。地球の内部,すなわち地殻や上部マントルの一部で急激な破壊が起こるためには,破壊の前には応力がこの部分に働いており,この応力が徐々に増加することによってこの部分を構成する岩石の内部に大きいひずみが蓄積され,これがある限界をこえることが必要である。1960年代後半から70年代前半にかけて,世界的な地震観測網が飛躍的に発展し,地震発生に関する多くの確実なデータが蓄積されるとともに理論地震学が著しく進歩し,さらに固体地球物理学にプレートテクトニクスの概念が導入されるに及んで,地震発生の原因については一気に解明に近づいたといえよう。
すなわち,世界的な震源分布の研究やP波初動分布などによるメカニズムの研究,地震に伴って生ずる地震波の波形や地殻変動の観測データの詳しい解析,弾性転位論(ディスロケーション・モデルあるいは食違い弾性論とも呼ばれる)の地震学分野への応用などの最近の地震発生機構に関する理論的研究が,地震発生原因の究明に著しい貢献をもたらしたということができる。そしてこれらの研究の結果,浅発地震の直接の原因が,地殻や上部マントルの岩石内に起こる破壊面の発生,それも多くの場合は既存の断層の急激なすべりによることが証明され,今ではほとんど疑う余地がなくなるに至った。地震を発生させる力,すなわち断層を動かす力がどこから生ずるかという長年の問題も,プレートテクトニクスの考え方に立てば,地球表面全体をおおういくつかのプレートの相対運動によって生ずるものと理解することができるようになった。
これを裏づけるのは次のような観測事実である。(1)地震発生の場所 前述のように,全地球的規模でみた地震の起こる場所は主として以下の地域に限られる。(a)大西洋中央海嶺,インド洋海嶺,東太平洋海膨などの海底下の中央海嶺。(b)南米大陸の西側や日本列島を含む西太平洋地域の海溝・島弧地帯。(c)二つの海嶺にはさまれた東太平洋地域などの断裂帯(トランスフォーム断層をなす)。(2)地震のメカニズム プレート境界で発生する地震のメカニズムがプレート間の相互運動を示すこと。(a)中央海嶺下で起こる地震のメカニズムは正断層型であって,これらの地震が海嶺と直角方向に両側へ引っ張る張力によって,すなわちこの境界でプレートが両側へ分離することによって起こされたことを示している。(b)海溝・島弧下の浅い部分で起こる大部分の浅発巨大地震のメカニズムは低角の逆断層型であって,これらの地震は海洋プレートが大陸プレートへ沈み込むときにその接触面の浅い部分で起こされたことを意味する。しかし,まれには沈み込むプレートの張力によって起こされたと思われる正断層型巨大地震や,プレートのたわみに基因して海溝に平行な方向の張力によると思われる正断層型地震もある。(c)トランスフォーム断層に起こる大部分の地震のメカニズムは水平横ずれ断層型であって,二つのプレートがすれ違うことによって起こされたことを示している。(3)この三つの型の地震のメカニズムから断層のすべり方向(スリップ・ベクトルという)を推定することができるが,この水平成分を,二つのプレート間の相対的回転運動の軸を極とするメルカトル図に投影すると,これらはすべて緯度線に平行になることがわかる。この事実は,海嶺とトランスフォーム断層で境された二つのプレートの相対運動が,地球の中心を通る一つの軸の周りの剛体的回転運動として表現できることを意味する。そしてこのことは,これらの地震が二つのプレートの相対運動によってその境界面またはその付近で発生した破壊現象であることを示している。
以上のプレート境界に起こる地震のほか,境界から遠く離れた大陸あるいは海洋プレートの内部,たとえば中国大陸や北米大陸中東部などで発生する地震も存在する。このようなプレート内地震の起こる原因については,大局的には,海洋プレートの進行に伴って大陸プレート内に生じた圧縮力によるものと考えられている。一方,海溝・島弧地域の下に沈み込む海洋プレート内に発生する深発地震の原因については,なお若干の議論が残っている。それは岩石実験の結果によれば,深発地震が起こっている深さでは地球内部の高温・高圧のために岩石は流動を起こし,急激な脆性(ぜいせい)破壊は起こらないし,また既存の破壊面があっても,圧力が高いため破壊面に働く摩擦力は大きなものとなり,摩擦に打ち勝つだけのすべりが起こりえないと思われるからである。このため深い地震の原因は岩石の脆性破壊ではなく,急激な相転移またはクリープ的不安定によるすべりとする説もある。しかし現在のところ最も確からしく思われているのは,ラリーC.B.RaleighとパターソンM.S.Patersonの実験結果にもとづく考え方である。すなわち高温下では岩石中の含水鉱物の脱水作用によって水を生じ,これが破壊面付近の空隙の水圧を上昇させる。そのため空隙にかかる有効圧力が低下する。したがって破壊面の摩擦強度が低下し,断層の急激なすべりが起こると考えられている。
地震の発生機構
地震のメカニズムとは,地殻や上部マントルの中でどのような条件のもとで破壊が起こり,断層運動が形成され,これに伴って地震波や地殻変動を生ずるかという震源で起こる過程を意味する。20世紀に入って地震の発生機構の解明につながる二つの重要な発見があった。一つは地震によって発生したP波の初動方向の分布が明瞭な規則性を示すことである。この分布が震源で互いに直交する二つの平面で分けられる場合を〈象限型〉と呼ぶ。象限型初動分布は理論的には,点とみなせるような小さい震源に1組の偶力(シングル・カプルsingle couple),あるいは2組の偶力(ダブル・カプルdouble couple)が働くと考えると説明できる。そしてこの偶力の方向あるいはこれと同等な主圧力と主張力の方向が,種々の地学的現象と密接な関係をもつことも明らかになった。もう一つは1906年のサンフランシスコ大地震の際に,延長約400kmにも及ぶサン・アンドレアス断層に沿って平均4mもの土地の水平ずれが生じ,付近の地殻にも大きい水平変動が見られたことである。リードF.F.Reidはこの現象を説明するために,地殻が弾性応力によって徐々にひずみ,このひずみがある限界をこえると断層の両側の地殻がひずみを解消する方向に急激にずれ動いて地震波を発生するという〈弾性反発説〉を提出した。そしてこのような断層を動かす力としてシングル・カプルが考えられた。しかし1960年代前半までに得られたS波や表面波の観測の結果はすべてダブル・カプル型のメカニズムが正しいことを明らかにした。
このころに至って地震学に〈食違い弾性論〉が導入され,地震発生機構の研究は飛躍的に進展し,定量的な震源モデルが確立した。ひずみのある弾性体に割れ目ができると,その両側はこの付近に加わっている応力によってひずみのない状態に戻ろうとして,割れ目の両側に横ずれ型の食違いを生ずる。これを〈剪断(せんだん)型の食違い〉という。この食違い弾性論によって,小さい剪断型の食違いは震源から十分離れた場所では震源に働くダブル・カプルと同じ作用を及ぼすことが証明され,この結果,地震がある大きさをもった剪断型食違い,すなわち断層運動によって発生することが確かめられた。またこれによって弾性反発説が正しいことも裏づけられた。
ダブル・カプルと断層モデルが等価であることから,一つの重要な関係が導かれる。すなわちダブル・カプルのモーメントM0は,断層面積S上の平均変位量Dと地殻の剛性率μの積M0=μDSで表される。M0は地震モーメントと呼ばれ,地震の強さを表す最も基本的な量であって,一般に観測される地震波の振幅はモーメントに比例する。また断層運動生成前に断層面に働いていた剪断応力σ0と生成後の応力σ1の差⊿σ=σ1-σ0を応力降下量と呼び,DとS,またはM0とSの関数として表すことができる。このようにして断層運動を物理的に規定する主要な量,すなわちいくつかの断層パラメーターによって,地震発生の状況を完全に表現できるようになった。
これらのパラメーターのうち,断層面の走向・傾斜と断層運動の方向(スリップ・ベクトル)は地震を発生させる断層の型を表現する。縦ずれ正断層,縦ずれ逆断層,右横ずれあるいは左横ずれ断層などである。実際の断層運動は縦ずれ成分と横ずれ成分の両方を含むことが多い。このほかの物理的パラメーターは,先の断層面積,平均変位量,地震モーメント,応力降下量のほか,断層形成時間,あるいは断層すべり速度,破壊進行速度などである。このようなすべての断層パラメーターがわかれば,この断層から発生し,地球内部を伝搬して任意の観測点に達し,特定の観測計器に記録される地震波の波形を,理論的に計算することが可能である。このように理論的に期待される記象を理論地震記象という。また同時に断層の比較的近くで起こる地殻の静的な上下・水平変動やひずみ,傾斜の変化も計算できる。実際には,遠距離の多数の観測点で観測された長周期の実体波や表面波,震源域に近い観測点で観測された強震地動などの波形・振幅をそれぞれの理論地震記象と比較する。また浅い大地震の場合には,これらとともに地震前後の水準・三角測量から求められる地殻の上下・水平変動を理論値と比較したり,余震が発生した領域の面積や,海底地震の場合は津波の波源面積や波高などのデータを用いたりして,断層パラメーターを推定することが多い。最近では,Mが6.5をこえるような大きい大部分の地震については詳しい断層パラメーターが決定されている。これまでに起こった世界最大の地震である1960年チリ地震の場合,断層の長さ800km,幅200km,平均変位量21m,地震モーメント2.4×1030dyn・cm,応力降下量90bar,断層形成時間450秒,破壊進行速度3.5~4.5km/sと見積もられている。多くの浅発地震の場合の応力降下量はだいたい10~100bar程度であるが,海溝付近の地震の場合には内陸部の地震に比べて平均してこの量は多少小さいといわれている。深発地震の際の応力降下量は約100~1000barであり,浅い地震の場合に比べて1けたほど大きい。
断層を動かして地震を発生させるのは直接的には断層面に平行に働く剪断応力であって,この応力が岩石の剪断破壊強度あるいは摩擦強度をこえたときに断層面の最も弱い場所から破壊が始まるものと考えられる。いったん破壊が始まると,隣接する領域の応力が増加してさらにここで破壊を生じ,これが次々と伝搬して断層面全体を破壊する。このような断層の動的な破壊と地震波の発生過程は,剪断クラックの立場から最近研究されるようになった。この場合には,断層の破壊に関係する物理量は初期剪断応力,破壊強度(または静止摩擦強度)およびすべり摩擦強度であって,これらの量の空間分布によって先に述ベた断層パラメーターは規定される。これらの応力と強度が断層面上で不均一な場合には断層の破壊はきわめて複雑になり,破壊しない部分が残ることがある。本震すなわち主破壊が終わった後,残留応力の分布が不規則であると,余震が発生する。
地殻あるいは上部マントルを構成する岩石の破壊強度は場所によってかなり異なると思われるので,地震を発生させる初期剪断応力の大きさも場所により必ずしも一定ではない。この大きさを直接的に決定することは難しいが,地震波や地殻変動の観測データから求められる応力降下量と,岩石摩擦実験から推定される静止摩擦強度とすべり摩擦強度の比を用いて求めた次のような見積りもある。この見積りによれば,初期応力はプレート境界地震の場合は100~200bar程度,プレート内部地震の場合は300~600bar程度,沈み込む海洋プレート内の数百kmの深さで2~3kbar程度といわれる。しかしこの推定には多くの仮定が含まれるため,かなりの問題があろう。
執筆者:三雲 健
月の地震
アメリカ航空宇宙局(NASA(ナサ))がアポロ計画により1969年から72年にかけて月面5ヵ所に設置した地震計は,数年以上にわたって記録を地球に送り続け,これにより月の地震(これを月震と呼ぶ)の発生状況や月の内部構造がかなりの程度までわかっている。月震は地球の地震に比べ規模が小さく,ほとんどが極微小地震程度であり,深さ800kmあたりに多発するが,月面は常時微動がほとんどないので,明瞭に記録される。火星でも地震観測が試みられたが,成功していない。
執筆者:宇津 徳治
民俗
大地震が起こると,関西地方では〈世直り世直り〉,関東地方では〈万歳楽万歳楽〉などと唱えたという伝承がある。いずれもこの世が変わるという潜在意識の表現であり,民衆の地震観をよく示している。世界を支えている動物がおり,その動物が動くと大地震が起こるという信仰が人類文化に共通して存在している。東南アジアや東アジアには,世界魚または世界蛇が多い。茨城県鹿島地方の鹿島神宮には要石(かなめいし)があって,鹿島明神が世界魚である鯰(なまず)の頭と尾を押さえつけているという俗信がある。要石が鯰を押さえている釘(くぎ)で,これがゆるくなると鯰が動き地震が起こるというのである。〈揺ぐともよもや抜けじの要石鹿島の神のあらん限りは〉という和歌が地震除けのまじないとして伝承されている。鯰以前は大蛇であったという。島国日本を大蛇がぐるりととり巻いている絵が,1198年(建久9)に作られた暦の表紙に描かれている。この大蛇が鯰に変化したのは江戸時代中期だったらしい。日本の昔話には〈物言う魚〉のモティーフがあり,これは魚王が人間に対して自然界の災厄を予知するという信仰を基底に成り立っている。この場合,鰻(うなぎ),鯰,岩魚(いわな)などが多い。1855年(安政2)10月に起こった大地震は江戸市中を破壊したが,その直後に流布した瓦版として鯰絵がある。鯰絵の図柄は鹿島明神と要石と鯰が題材となっており,一般に知られているのは鹿島明神が要石で鯰を押さえ込む構図である。地震を〈地新〉と表記し,世界が新しくなるという理解のあったことがわかる。これは世直りの観念と揆(き)を一にしている。一方,大鯰が鯰男の姿となり,海の彼方から出現してきて金持ちの悪徳商人たちをたたきのめしている図もあり,これは〈世直し鯰〉として包括されている。〈世直り〉とか〈世直し〉という日本語は,江戸時代の初期にはすでに存在していたらしい。
執筆者:宮田 登