即自・対自・対他(読み)そくじたいじたいた

日本大百科全書(ニッポニカ) 「即自・対自・対他」の意味・わかりやすい解説

即自・対自・対他
そくじたいじたいた

ドイツの哲学者ヘーゲルが用いた哲学用語。「即自」an sichは物事の直接態、他とのかかわりによって規定される段階にまで達していない未発展の相をさす。したがって、認識する主観に対してまだ発現していない「潜勢態」、また自己自身への反省的関係を欠くという意味で「無自覚態」の意ともなる。たとえば、子供は理性の即自態である。「即自」は、他と交渉し、そこに自己の自立性を失う「対他」für andersへと発展する。子供が大人の命令に従うのは、自己の内なる理性を、他者の側にもつからである。さらに「対他」から、自己自身と関係することによって、自己を取り戻す段階である「対自」für sichへと発展する。子供は理性を身につけることによって自立する。理性を身につけるということは、自己の内なる即自的理性を自覚することである。理性を自覚することは、身に即して理性を発揮することである。他人とのかかわり(対他)のなかで、そのかかわりを自分の内に取り込んで自己を普遍化することによって自立する。「対自」には「自立」と「自覚」という意味が含まれる。

加藤尚武

『R・ハイス著、加藤尚武訳『弁証法の本質と諸形態』(1970・未来社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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