自己でないものが他者である。したがって,他者はつねに自己との関係のもとで理解される。すなわち,自己を自己として認める際に,必ずそこに他者認定が介在しており,また他者を他者と了解する場合にも自己認識が介入していると言える。嬰児が生後8ヵ月ころから自我形成を行う際には,愛すべき他者としての母親の認知が同時に並行して行われるのである。自己とのかかわりで他者を考えると,他者には人格的他者と非人格的他者との二つを区別することができる。非人格的他者とは,観察する自己にとって対象化される他者であり,客観的に認識される事物である。この事物的他者は,必ずしも物質や動植物に限られず,科学的な解明の対象となっている個人や集団の人間であってもよいし,傍観者として眺めているできごとの中での他人であることもありうる。ここでは自己と他者の関係が,主観と客観の間柄であり,一人称と三人称の関係である。これに対して人格的他者とは,良かれ悪しかれ自己の人格に食い込んでくるような仕方で立ち現れる他者である。たいせつに育てた草花や日ごろ愛用の道具や愛玩動物などに人格的な類比を認める場合もありうるが,一般には自己と同じ人格をもちつつ自己とは異なる他人として接している相手の人間である。それは,目前にいない人や歴史上の人物である場合もありうる。この人格的他者と接する際には,しばしば仲間意識や敵対意識が働き,好悪や愛憎の感情が支配し,対話や相克の関係が成立する。ここでは自己と他者の関係が主体と主体の間柄であり,一人称と二人称の関係になる。自己が他者に対して自由と責任の主体としてふるまうのであるから,他者をもまた自由と責任の主体として扱わなければ矛盾が生じる。この事態を相互主体性inter-subjectivityの関係ないし相互承認の関係と呼ぶ。この他者には,さらに人間一般にとっての他者である神(絶対他者)を含めることもできる。
→他我問題
執筆者:柏原 啓一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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