改訂新版 世界大百科事典 「反精神医学」の意味・わかりやすい解説
反精神医学 (はんせいしんいがく)
antipsychiatry
1960年代に現れた精神医学における思想的潮流で,伝統的精神医学の疾病論を否定する立場をさす。この主張の代表的人物として,アメリカのサスT.Szasz,イギリスのクーパーD.CooperとR.D.レイン,フランスのマノーニM.Mannoniらをあげることができる。反精神医学は,従来の伝統的精神医学が身体病にならって築きあげてきた疾病論を批判し,これに基づいて精神病者を収容し治療することへの異議を唱え,狂気の社会(政治)的共謀因説を主張するものであるが,とりわけその対象とする疾患は精神分裂病(統合失調症)である。この思想と理論には,精神分析的心因論に基づく家族研究から社会因への発展の軌跡をうかがうこともできるが,同時に反科学主義的な社会思潮の影響もみられる。日本においても,70年代前半に,この思想を基礎にした若い世代の精神科医たちから大学精神医学講座や学会への批判が盛んに行われた時期がある。
執筆者:武正 建一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報