統合失調症(読み)とうごうしっちょうしょう

精選版 日本国語大辞典 「統合失調症」の意味・読み・例文・類語

とうごう‐しっちょうしょう トウガフシッテウシャウ【統合失調症】

〘名〙 精神病の一つ。多く青年期に発病する代表的な内因性精神病。現実との接触を失い、意識や感情の働きが鈍くなり、幻覚、幻聴、妄想などの症状が特徴的で、慢性化するとぼけの症状を示す。破瓜型、緊張型、妄想型などの病型がある。精神分裂病という名称が昭和一二年(一九三七)より用いられてきたが、平成一四年(二〇〇四)よりこの語に改められた。

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デジタル大辞泉 「統合失調症」の意味・読み・例文・類語

とうごうしっちょう‐しょう〔トウガフシツテウシヤウ〕【統合失調症】

schizophrenia》内因性精神疾患の一。病状や経過はいろいろあるが、自閉・感情鈍麻・興奮・妄想・幻聴や精神機能の分解などがみられる。青年期に発病するものが多い。早発性痴呆、精神分裂病を改称。

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EBM 正しい治療がわかる本 「統合失調症」の解説

統合失調症

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 統合失調症(とうごうしっちょうしょう)は、かつて精神分裂病(せいしんぶんれつびょう)と呼ばれていた病気です。以前の病名では、精神そのものが分裂してしまうとの誤解や偏見を生じやすいことから、日本精神神経学会が2002年8月に名称を変更しました。新しい病名は、この病気がいくつかの異なった病気の集まりと考えられることや、一時的に調子を崩しているだけで回復の可能性があるといった、この病気の性質をふまえ、精神機能の統合が乱れている状態であることを表しています。
 統合失調症は脳の働きが障害されるためにおこるもので、20歳前後に発病し、慢性に進行します。発病直後の急性期には、実在しない人の声が聞こえる幻聴(げんちょう)、ありえない現象を信じる妄想(もうそう)、支離滅裂(しりめつれつ)な思考など特徴的な症状が現れます。周囲の働きかけに反応しなくなったり、逆に理由なく興奮したりすることもあります。
 自閉的になってひきこもり、気力が減退して身辺の清潔を保てなくなるなど陰性症状(いんせいしょうじょう)と呼ばれる状態が、発病後しばらく続きます。周囲の人からコミュニケーションがうまくとれないと思われる人に、幻聴や自閉的な傾向がでてきて統合失調症と診断されることが少なくありません。
 発病してから5年ほどは幻聴や妄想、興奮状態などの激しい症状がでますが、発病から10年程度で次第に落ち着いてきます。ただし、再発しやすいので注意が必要です。なお、本人は病気を自覚していません。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 原因は不明ですが、脳の機能異常と心理的なストレスなどが相互に関係していると考えられています。遺伝的な素因が関係している場合もありますが、親族にこの病気の患者さんがいなくても発病することがあり、決定的な要因ではありません。発育段階における環境要因も関係するとされています。また、家族関係による強いストレスが、発病を促進するのではないかとの指摘もあります。

●病気の特徴
 2008年の厚生労働省の調査によると、この病気で治療を受けている人が全国に約80万人います。一生のうちにこの病気にかかる人は、およそ100人弱に1人とされています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]抗精神病薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 統合失調症発症から1~2週間以内に抗精神病薬による治療を開始することが推奨されています。もっとも一般的な治療で、早期治療により予後がよいことがわかっています。また、継続して内服することで再発を予防する効果も報告されています。これらの効果については、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(1)~(4)

[治療とケア]精神療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 何種類かある精神療法のなかで、ものの見方を再検討し、それに基づいて行動を変える認知行動療法と、家族関係をよりよい方向に変化させるための介入は、症状の改善、再発の防止などに効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし、確実に効果があるかどうかはさらなる研究が必要とする報告もあります。(5)~(8)


よく使われている薬をEBMでチェック

フェノチアジン系
[薬名]コントミン/ウインタミン(クロルプロマジン塩酸塩)(9)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] もっとも知られた治療法であり、非常に信頼性の高い臨床研究によってクロルプロマジン塩酸塩の効果が確認されています。しかし、副作用として振戦(ふるえ)、不随意運動などをおこすパーキンソン症候群、体重増加などが認められるので、注意が必要です。

ブチロフェノン系
[薬名]セレネース(ハロペリドール)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] ハロペリドールは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。しかし、筋肉の一部がひきつってしまうジストニア、じっとしていられないアカシジアなどの不随意運動や、体がこわばったり、ふるえやよだれがでたりするパーキンソン症候群の副作用があるため、ほかの選択肢がない場合に用いるのが一般的です。

ベンズアミド系
[薬名]ドグマチール/アビリット/ミラドール(スルピリド)(11)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] スルピリドは信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。しかし、質の高いさらなる研究が必要と思われます。

[薬名]バルネチール(スルトプリド塩酸塩)
[評価]☆☆
[評価のポイント] スルトプリド塩酸塩は専門家の意見や経験から支持されています。ほかの選択肢がない場合に考慮されます。

[薬名]エミレース(ネモナプリド)(12)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 臨床研究によってネモナプリドの効果が確認されています。ほかの選択肢がない場合に考慮されます。

非定型抗精神病薬
[薬名]リスパダール(リスペリドン)(13)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] リスペリドンは信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。ハロペリドールと比較して、症状をより改善し、副作用としてのパーキンソン症候群を中心とする錐体外路症状(すいたいがいろしょうじょう)(筋肉の緊張を調節する神経経路が障害される)はより少ないと報告されています。しかし、体重増加はハロペリドールよりも多くなっています。

[薬名]ルーラン(ペロスピロン塩酸塩水和物)(14)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ペロスピロン塩酸塩水和物は臨床研究によって効果が確認されています。

[薬名]ジプレキサ(オランザピン)(15)(16)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によってオランザピンの効果が確認されています。副作用としての錐体外路症状はハロペリドールより少ないですが、体重増加は多いことも報告されています。

[薬名]セロクエル(クエチアピンフマル酸塩)(17)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] プラセボ(偽薬)と比較する非常に信頼性の高い臨床研究によって、クエチアピンフマル酸塩の効果が確認されています。また、ハロペリドールよりやや効果が高いといわれています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
精神療法は個々の状況に応じた手法で
 統合失調症は脳の働きが障害されるためにおこるもので、20歳前後に発病し、慢性に進行します。周囲の人からなんとなくコミュニケーションがうまくとれないと思われる人に、幻聴や自閉的な傾向がでてきて統合失調症と診断されることが少なくありません。
 治療には、精神療法と薬物療法があります。精神療法は精神科医の専門性がもっとも発揮される領域で、統合失調症に有効との研究結果が報告されています。精神療法にはいくつかの手法があり、一人ひとりの患者さんの症状や置かれている状況に合わせた方法が採用されます。

薬は有効性と副作用を考慮して選ぶ
 しかし、治療の主流は薬物療法といえます。コントミン/ウインタミン(クロルプロマジン塩酸塩)や、セレネース(ハロペリドール)、リスパダール(リスペリドン)、ジプレキサ(オランザピン)など、非常に信頼性の高い臨床研究で、高い有効性が確認されている抗精神病薬が多数開発されてきました。しかし、これらには、パーキンソン症候群、体重増加などの副作用が、多かれ少なかれおこります。したがって、それぞれの患者さんにおける有効性と副作用の強さを考慮して、もっとも望ましい薬を使っていくことになります。

必ず精神科医の治療を
 薬物療法では、一般医では使いこなせないような量と種類の抗精神病薬が必要になります。精神療法だけでなく薬物療法においても、必ず精神科医の治療を受けることが大切です。

(1)Lieberman JA, Phillips M, Gu H, et al. Atypical and conventional antipsychotic drugs in treatment-naive first-episode schizophrenia: a 52-week randomized trial of clozapine vs chlorpromazine. Neuropsychopharmacology. 2003;28:995-1003.
(2)Spohn HE, Lacoursiere RB, Thompson K, et al. Phenothiazine effects on psychological and psychophysiological dysfunction in chronic schizophrenics. Arch Gen Psychiatry. 1977;34:633-644.
(3)Shopsin B, Klein H, Aaronsom M, et al. Clozapine, chlorpromazine, and placebo in newly hospitalized, acutely schizophrenic patients: a controlled, double-blind comparison. Arch Gen Psychiatry. 1979;36:657-664.
(4)Schultz SH, North SW, Shields CG. Schizophrenia: a review. Am Fam Physician. 2007 Jun 15;75(12):1821-9.
(5)Pilling S, Bebbington P, Kuipers E, et al. Psychological treatments in schizophrenia: I. Meta-analysis of family intervention and cognitive behaviour therapy. Psychol Med. 2002;32:763-782.
(6)Cormac I, Jones C, Campbell C, et al. Cognitive behaviour therapy for schizophrenia (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2 2003. Oxford: Update Software.
(7)Pharoah FM, Mari JJ, Streiner D. Family intervention for schizophrenia (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2 2003. Oxford: Update Software.
(8)Pilling S, Bebbington P, Kuipers E, et al. Psychological treatments in schizophrenia: II. Meta-analyses of randomized controlled trials of social skills training and cognitive remediation. Psychol Med. 2002;32:783-791.
(9)Thornley B, Rathbone J, Adams CE, et al. Chlorpromazine versus placebo for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev. 2003;(2).
(10)Joy CB, Adams CE, Lawrie SM. Haloperidol versus placebo for schizophrenia (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2 2003. Oxford.
(11)Soares BGO, Fenton M, Chue P. Sulpiride for schizophrenia (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2 2003. Oxford: Update Software.
(12)Satoh K, Someya T, Shibasaki M. Nemonapride for the treatment of schizophrenia.Am J Psychiatry. 1997;154:292.
(13)Hunter RH, Joy CB, Kennedy E, et al. Risperidone versus typical antipsychotic medication for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev. 2003;(2): CD000440.
(14)Onrust SV, McClellan K. Perospirone. CNS Drugs. 2001;15:329-337.
(15)Duggan L, Fenton M, Dardennes RM, et al. Olanzapine for schizophrenia (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2 2003. Oxford: Update Software.
(16)Davis JM, Chen N, Glick ID. A Meta-analysis of the Efficacy of Second-Generation Antipsychotics.Arch Gen Psychiatry. 2003;60:553-564.
(17)Schulz SC, Thomson R, Brecher M. The efficacy of quetiapine vs haloperidol and placebo: a meta-analytic study of efficacy. Schizophr Res. 2003;62:1-12.
女性の病気

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家庭医学館 「統合失調症」の解説

とうごうしっちょうしょう【統合失調症 Schizophrenia】

◎青年期に発症する
[どんな病気か]
◎内因性(ないいんせい)の精神病
[原因]
◎幻覚、妄想、意欲の低下が主症状
[症状]
◎薬物療法が主体
[治療]

[どんな病気か]
 10歳代後半から30歳代前半の間に発症し、徐々に進行します。症状は、幻覚(げんかく)、妄想(もうそう)のほか、無為(むい)(意欲が低下し、何もしなくなる)、自閉(じへい)(他人と交流をもたなくなり引きこもりがちになる)がおこってきます。人格も、病気になる前と比べて、創造的で生き生きした部分がなくなります。2002年に精神分裂病より呼称が変わりました。

[原因]
 およそ120人に1人の割合(0.8%)で発症します。かなり高い頻度であり、けっして「珍しい病気」ではないのです。
 脳内の神経と神経の間ではたらいている物質が関係しているといわれていますが、明らかな原因はまだわかっていません。ストレスや環境の変化など、外部の因子でおこったのではなく、脳の中に原因があるという意味で、統合失調症と躁(そう)うつ病は、内因性精神病(ないいんせいせいしんびょう)ともいいます。
 両親の一方が統合失調症の場合、その子どもが統合失調症になる割合は約16%といわれ、一般人口中の統合失調症になる割合より高いことから、発症には、ある程度遺伝が関係していると考えられています。
 しかし、一卵性双生児(いちらんせいそうせいじ)の1人が統合失調症であっても、もう1人が統合失調症である確率は100%ではなく、約60%であり、このことは、統合失調症の発症には、遺伝だけではなく、それ以外の要因も関係していることを示しています。

[症状]
 幻覚、妄想、意欲の低下がおもな症状です。
 そして、幻覚、妄想、興奮(こうふん)などの派手(はで)な症状(陽性症状(ようせいしょうじょう))と、意欲の低下、自閉、感情鈍麻(かんじょうどんま)といった目立たない症状(陰性症状(いんせいしょうじょう))に分けられます。病気の初期には、陽性症状が主体ですが、徐々に陰性症状が主体になってきます。
 抗精神病薬は、陰性症状よりも、陽性症状によく効きます。陰性症状に対しては、薬物療法だけでなく、作業療法やデイケアなどを行なっていきます。
●幻覚
 実際にはないものをあると知覚することを幻覚といいます。知覚の内容によって、幻聴(げんちょう)、幻視(げんし)などに分けられます。たとえば「人の声が聞こえる」(幻聴)、「物が見える」(幻視)などと訴えます。
 統合失調症でもっともよくみられる幻覚は、幻聴です。幻聴の多くは人の声です。話される内容はさまざまですが、「……しろ」と命令したり、本人の悪口や本人を迫害するような内容が多く、このことで患者さんは非常に不安な気持ちになったり、被害妄想(ひがいもうそう)を抱いたりすることがあります。
●妄想
 事実ではないことを、本当であると確信することを妄想といいます。周りの人が、「それはちがう」と説得しても、訂正できません。内容によって、被害関係妄想(ひがいかんけいもうそう)(無関係なことを自分自身に関係があると被害的に確信します。たとえば「あの人がせきをしたのは自分へのあてつけだ」など)、注察妄想(ちゅうさつもうそう)(「誰かから家の中を監視されている」など)、被毒妄想(ひどくもうそう)(「食べ物に毒を入れられている」など)、血統妄想(けっとうもうそう)(「自分は天皇家の子孫だ」など)、誇大妄想(こだいもうそう)(「自分はすごい発明をした」など)と名前がつけられています。
●意欲の低下
 統合失調症では、徐々に意欲がなくなっていくのが特徴です。程度の差はありますが、多くの患者さんにみられます。仕事をてきぱきできなくなるという軽いものから、学校や職場を休みがちになる、家でごろごろするようになる、入浴をいやがったり、身の回りをかまわなくなるなどさまざまです。
 意欲の低下がひどくなると、1日中ボーッとして、ほとんど何もしない状態となり、これを「無為(むい)」と呼んでいます。
●自閉(じへい)
 他人との交流が乏しくなります。友人との付き合いを避け、家にこもりがちとなることで、気がつかれます。
●感情の鈍麻(どんま)
 喜怒哀楽(きどあいらく)の豊かな感情が少なくなります。テレビをおもしろく感じなくなったり、笑顔がみられなくなったり、悲しいときも平然としていたりします。
●思路(しろ)(思考過程)の障害
 患者さんの話し方でわかります。よくみられるものに「思路弛緩(しろしかん)」があります。話が徐々に別の話題にそれていったり、唐突に別のことを言い出したりします。重症になると、他の人にはまったく話の意味が理解できない「滅裂思考(めつれつしこう)」になります。
●身体症状
 不眠が多くみられます。病気の初発症状や、再発するときの最初の症状であることが少なくないので、注意が必要です。身体面には何も異常がないのに、動悸(どうき)、頭痛、倦怠感(けんたいかん)などの、いわゆる身体愁訴(しんたいしゅうそ)を訴えることもあります。
●表情に現われる症状
 ぶつぶつ独(ひと)り言(ごと)をいう独語(どくご)や、おかしくもないところで笑う空笑(くうしょう)がみられます。しかめ顔(がお)(顔をしかめる)、ひそめ眉(まゆ)(眉をひそめる)がみられることもあります。感情が鈍くなる感情鈍麻のため、顔の表情が乏しくなります。
◎病型
 大きく、破瓜型(はかがた)、妄想型(もうそうがた)、緊張型(きんちょうがた)に分かれます。
●破瓜型
 破瓜期とは思春期のことをさします。3型のなかでも発症年齢が低く、思春期によく発症します。統合失調症のもっとも典型的な病態といわれています。幻覚、妄想といった陽性症状もありますが、むしろこれより意欲の低下、自閉といった陰性症状が目立ちます。急に症状が出るのではなく、ゆっくりと現われてきます。1~2年たって、発症に気がつくことすらあります。
 初めは学校を休みがちになったり、友人と遊ばなくなったりします。家族も、「なまけ」ぐらいに考えているうちに、ほとんど家にこもるようになり、家族とも話をしなくなります。また、入浴や着替えをいやがり、不潔でいても平気になるなど、だんだん病状が進行するにつれて、人格の水準が下がってきます(コラム「人格とは」)。
●妄想型
 妄想が主症状です。発症年齢は3型のなかでも高く、20歳代後半から30歳代に多くみられます。破瓜型のように、人格水準が徐々に下がることは少なく、比較的人格が保たれています。
●緊張型
 興奮、滅裂な言動あるいは緘黙(かんもく)(押し黙ること)、幻覚、妄想が急速に(数日から数週の間に)おこってきます。
 症状は非常に激しいのですが、持続は短く、1~3か月もすれば、ほぼ落ち着きます。病状が落ち着いた後は、破瓜型のような人格の低下はあまりみられません。ただし、再発しやすいのが特徴です。
◎経過
 経過はさまざまですが、最初は幻覚や妄想、落ち着かない状態で始まり、薬物療法で幻覚や妄想がおさまっても、その後で意欲の低下した状態が続く場合が多くあります。
 薬物をやめてしまった後や、ときには薬物服用中でも、再び落ち着かない状態になり、病気が再燃(再発)することがあります。このような再燃は何回かくり返すことがあります。
 意欲の低下や自閉は、経過とともに徐々に強くなっていき、病気になる以前より人格の水準が落ちます。これを欠陥状態(けっかんじょうたい)と呼んでいます。
 ほぼ完全によくなる場合が3分の1、欠陥状態になる場合が3分の1、人格の荒廃(こうはい)(コラム「人格とは」)をきたす場合が3分の1といわれています。

[治療]
 薬物療法が治療の中心です。抗精神病薬という薬を飲みます。この薬は、とくに幻覚や妄想によく効きます。
 幻覚や妄想が薬で消失した後に、軽度の抑うつ状態になることがあります。抑うつ状態が改善しても、意欲の低下した状態が続きます。
 この時期には薬物療法に並行して、軽作業やレクリエーションなどを行なう、作業療法やデイケアに通うなどして、意欲や自発性の低下を改善するようにします。
 抗精神病薬の副作用として、手足の動きがかたくなったり、手の指が細かく震(ふる)えたり、足がむずむずしたりする症状が出ることがあります。このため、パーキンソン病の治療に使う薬を飲んで副作用を防ぎます。また、便秘(べんぴ)、眠け、目が見えづらいといった副作用が出ることもあります。
 このような症状が出たときは、医師に相談して、副作用を防止する薬を出してもらったり、薬を調節してもらったりします。副作用が出たからといって、勝手に薬を中断するのはやめましょう。
 薬は再発予防の効果もあるので、病状が落ち着いても、飲み続けることが多いのです。病状が落ち着いた時期でも、よくなったからといって、薬を勝手にやめないようにしてください。
 心理的にはたらきかける精神療法も、薬物療法や作業療法に並行して行なわれます。身体的治療法の電気けいれん療法は以前に比べて、行なわれることが少なくなりました。
●家族はどう対応すればよいか
 精神科、神経科(神経内科ではありません)、精神神経科を標榜(ひょうぼう)している病院もしくは診療所を受診します。患者さんは病識(びょうしき)(コラム「病識とは」)がないので、受診をいやがることがあります。このときは、まず家族だけが病院に行って相談してもかまいません。また保健所でも、相談にのってくれます。
 診察しても、すぐに統合失調症と診断できないこともありますが、この場合は医師が経過をみていきます。統合失調症のような症状をだしながら、別の病気(脳炎(のうえん)、脳腫瘍(のうしゅよう)、その他のからだの病気)が原因のこともあります。
 統合失調症の症状が軽いときや、家族が家で看(み)られる場合は、外来治療になります。
 患者さんの苦痛がひどいときや、症状が激しく家族が家で看られない場合は、入院になります。
「統合失調症」といわれた場合、非常に驚くでしょうが、前でも述べたようにまれな病気ではありません。就職などなんらかのストレスの後で発症することもありますが、これはあくまでも引き金でしかないと考えられています。ストレスや環境とかの外的要因でおこる病気ではありません。ましてや、親の育て方が悪かったためにおこった病気ではないのです。
 病気はよくなったり悪くなったりをくり返すことがあるので、あまり一喜一憂しないほうがよいでしょう。長期戦と思って、どっしり構えてください。そのほうが家族も疲れませんし、患者さんにとってもよい影響を与えます。
 精神障害者対象の福祉関係の制度も、積極的に利用するとよいでしょう。条件を満たせば、障害基礎年金(しょうがいきそねんきん)の支給が受けられます。通院費の公費負担や精神障害者手帳の交付の制度もあります。かかりつけの病院、保健所、役所の国民年金課などで相談してみてください。
●社会復帰のために
 幻覚や妄想などの症状が軽快して、意欲の低下が強くなった場合、入院患者さんには、作業療法を行なうこともあります。簡単な作業をしたり、レクリエーションや趣味的なことをするなどさまざまです。
 入院患者さんまたは通院中の患者さんに、生活技能訓練(SST)という社会復帰のための教育をすることもあります。
 通院患者さんのためのデイケアは、医療機関のほか、保健所でも行なわれています。
 そこでは、スポーツ、料理などいろいろなプログラムがあり、サークル活動のような雰囲気のなかで、社会性や対人関係の改善を目ざします。
 通所授産施設(つうしょじゅさんしせつ)、共同作業所は、一般の就労がまだむずかしい人が作業をするところです。
 ひとりで生活することができない人のために、生活訓練施設(援護寮(えんごりょう))、福祉ホーム、グループホームといった、患者さんが共同で住める施設も、少しずつですができてきています(「精神保健福祉法と入院形態」)。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「統合失調症」の意味・わかりやすい解説

統合失調症
とうごうしっちょうしょう
schizophrenia

代表的な精神疾患の一つ。19世紀末ドイツの精神医学者クレペリンにより早発性痴呆(ちほう)dementia praecoxといわれたものであるが、1911年スイスのブロイラーが精神病理学的にとらえ直しスキゾフレニアschizophreniaという名を提唱した。日本ではschizophreniaを直訳した精神分裂病という名称が1937年(昭和12)より用いられてきた(精神乖離(かいり)症、精神分裂症といわれたこともある)。しかし、精神それ自体の分裂と誤解されやすいこと、患者の人格否定につながるなどの理由から、2002年(平成14)schizophreniaを訳しなおした「統合失調症」に改められた。

 思春期から青年期に発症する例が多く、放置すると徐々に増悪を繰り返しながら経過し、やがて特有な人格の変化をきたし、周囲に無関心となって自分だけの世界に閉じこもってしまうもの(自閉)である。しかし、早期発見と適切な治療により回復可能であり、再発を防ぐ努力もなされ、以前よりも重篤な状態におちいることが少なくなった。原因は今日なお不明であるが、発生頻度は100人当り1人といわれている。

[保崎秀夫]

症状

おもな症状を、患者自身が訴えるもの、周囲の人がわかるもの、専門医がみてわかるものに分けて述べる。

 患者自身が訴える症状は、幻聴や妄想を中心に、幻触、させられ体験(作為体験)、思考への影響体験、考想伝播(でんぱ)などがあげられる。幻聴には、だれもいないのに自分の言動を非難し批判する声が聞こえたり、自分の考えていることが声になって聞こえる思考化声があり、妄想には、病的な確信をもっていて周りの人が説得しても訂正不能であり、周囲のできごとに意味づけをする関係妄想、自分の地位・生命・財産が脅かされるという被害(迫害)妄想、心身の状況について病的に悩む心気妄想、大きなことをいう誇大妄想、連れ合いの不貞を確信する嫉妬(しっと)妄想などがある。させられ体験は、自分の考えや動作が他人により支配され操られていると感ずるもので、思考への影響体験は、自分の考えを抜き取られたり、他人から考えを入れられたりしていると感ずるものである。また考想伝播は、自分の考えが周囲に広まりわかってしまうと感ずるものである。

 周囲からみてわかる症状は、話の筋(すじ)が乱れたり支離滅裂であり、表情の硬さ、冷たさ、ひとりごとやそら笑い、周囲にそぐわない感情の反応、周囲への無関心、ときにみられる緊張病性興奮、奇妙な症状、たとえばなんでも拒否する拒否症状、口をきかない緘黙(かんもく)症、拒食症、拒薬症やおうむ返しをする反響症状、同じことを繰り返す常同症、わざとらしくて奇妙な衒奇(げんき)症、とらされた姿態をとり続けるカタレプシーcatalepsyのほか、自分だけに通用する言語をつくる造語症や、なんでもいわれたとおりに行動する命令自動症などがある。また、進行した時期にみられるやる気のない(無為)状態もある。幻覚や妄想、させられ体験などを陽性症状、無為や不適切な感情反応などを陰性症状とよぶこともある。また、自ら病気であるという自覚がない(病識欠如)。

 重要なのは専門医が患者に接してみて初めてわかる症状で、心のなかに入れない非疏通(そつう)性や共感できないこと、病気らしい特有な印象(プレコックスpraecox感)がある。

[保崎秀夫]

分類

症状や経過によっていくつかに分けられているが、代表的なものは次の三つである。

(1)破瓜(はか)型・解体型(破瓜病) 比較的若いころから徐々に始まり、放置すると慢性に経過して人格の荒廃に陥ってしまうもので、統合失調症の中心的な型である。初めは幻覚や妄想があっても、やがてなにもしなくなり周囲に無関心となってしまう。

(2)緊張型(緊張病) 若いころから発病し、激しい興奮があったかと思うとなにもしなくなる(昏迷(こんめい)状態)というような行動面での動きが目だつものである。

(3)妄想型 前二者よりも遅く発症し、幻覚や妄想が目だち、比較的人格の崩れの少ない型である。

 これらの型のほかに、症状があまり目だたない単純型、神経症や性格異常と区別しにくく境界例に近い偽(ぎ)神経症型あるいは偽性格異常型、そううつ病の症状が前景に出て非定型精神病に近い分裂・情動型、精神遅滞のうえに分裂病が発症した接枝分裂病などがあり、年齢層による分類も行われている。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)では、妄想型、破瓜型、緊張型、鑑別不能型(分類不能型)、分裂病後抑うつ、残遺型などに分けられている。

[保崎秀夫]

予後

経過と予後は、3分の1は治癒し(寛解という)、3分の1は悪化し、残り3分の1は一進一退を繰り返し、よいときは仕事を続けられるが、ときに入院あるいは外来で治療を行うといわれている。一般には、ときどき悪化するという波形の経過をたどるものが多い。

[保崎秀夫]

治療

今日では抗精神病薬療法が中心で、できるだけ外来通院で家庭や地域で治療する方法がとられており、やむをえないときに入院加療を行う。

 抗精神病薬としては、フェノチアジン系剤、ブチロフェノン系剤、ベンザミド系剤、イミノジベンジル系剤などの定型抗精神病薬に加えて、ベンズイソキサゾル系等の非定型抗精神病薬が投与されており、服薬しながら通学や通勤していることが多い。電撃療法は限られた必要時だけ行われ、インスリンショック療法、脳外科的手術はまったく行われない。

 精神面での支え(精神療法)や環境の調整も重要で、家族や学校、勤務先の協力が治療上欠かせない。なお、規則正しい生活に戻し、社会復帰を図るために、生活指導、生活技能訓練(SST)、集団精神療法、作業療法(各種の段階がある)、レクリエーション療法や芸術療法などが症状に応じて行われ、病院から直接自宅へ帰れない場合は、とりあえず社会復帰のための施設に入って指導を受けたり、自発性の回復、自立の援助のための試みがなされている。自宅にあっても、昼間に施設や病院で指導を受けるデイ・ケア療法が行われており、社会とつねに接触しながら治療するための早期退院、外来通院療法、社会復帰施設の利用、地域内での治療などが積極的に行われている。

[保崎秀夫]

『保崎秀夫著『新精神医学』(1990・文光堂)』『保崎秀夫著『うつに悩む方へ』(1995・主婦の友社)』『保崎秀夫編『幻覚』(1999・ライフサイエンス)』『保崎秀夫著『うつ病の人の気持ちがわかる本』(2001・主婦の友社)』『伊藤順一郎著『統合失調症/分裂病とつき合う』(2002・保健同人社)』『福西勇夫編著『統合失調症がわかる本――正しい理解と対処のすべて』(2002・法研)』『朝田隆・高橋清久著『セカンド・オピニオン精神分裂病/統合失調症Q&A』(2002・医学書院)』『C・S・エイメイソン著、松島義博・荒井良直訳『再発防止のためのサイコエデュケーション』(2003・星和書店)』『P・J・ワイデン他著、藤井康男・大野裕訳『新薬で変わる統合失調症治療』(2003・ライフサイエンス)』『森山公夫著『統合失調症――精神分裂病を解く』(ちくま新書)』

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改訂新版 世界大百科事典 「統合失調症」の意味・わかりやすい解説

統合失調症 (とうごうしっちょうしょう)
schizophrenia

躁うつ病と並ぶ〈二大精神病〉の一つ。主として青年期に発生し,妄想や幻覚など特異な症状を示し,しばしば慢性の経過をたどり,やがて人格の特有な変化を残す。原因がなお不明なうえ,発現の頻度が高く,しかも治療がむずかしいなどの理由から,精神病のなかでも中心的な位置を占め,精神医学および精神医療の最も重要な対象とみなされる。ただし,この病気が〈Schizophrenie〉の名で西欧精神医学の前面に登場するのはやっと20世紀に入ってからである。その前身の〈早発(性)痴呆〉(早発(性)認知症)でさえ19世紀半ばからで,躁うつ病が〈マニア〉と〈メランコリア〉の名で古代ギリシアの昔から一貫して記述されてきたのに比べると,はなはだしい不均衡があり,それだけ時代の狂気観にさらされていたことになる。

むろん,今日の統合失調症(精神分裂病)に相当すると考えられる先行形態は人間の歴史とともに存在したはずで,ギリシア医学でもアレタイオスAretaiosやソラノスによって近似の病像が描かれている。とはいえ,中世から17,18世紀ごろまでは病像の医学的記述に見るべきものがなく,この貧困さに対して,オルレアンの処女ことジャンヌ・ダルク,シェークスピア《ハムレット》のオフィーリア,宗教家スウェーデンボリらの例は当時の統合失調症のありようを生き生きと伝えて余すところがない。

 今日の統合失調症につながる概念はやっと19世紀後半に相次いで現れるようになる。まず,フランスのB.A.モレルがその《臨床研究》(1852)で,若年者に発症し急速に痴呆状態へと進行する精神病を〈早発痴呆Démence précoce〉と名づける一方,ドイツではK.L.カールバウムが1874年(63年説もある)に精神運動性の興奮と昏迷という相反する状態をふくむ病像を〈緊張病Katatonie〉と名づけた。またE.ヘッカーが1871年に思春期に始まって感情鈍麻や意欲減退を示しながら欠陥状態へと至る病像を〈破瓜病Hebephrenie〉と命名し,最後にE.クレペリンが1899年の彼の《精神医学教科書》第6版であとの二つをまとめ,これに〈妄想痴呆〉を加えて〈早発痴呆Dementia praecox〉と呼んだ。しかし,症例の観察を重ねていくと,普通の意味の〈痴呆〉が生ずるのでも,つねに青年期に始まるのでもなく,問題は精神機能の分裂にあることから,スイスのE.ブロイラーが〈精神分裂病Schizophrenie〉という新語を使いはじめ,主著《早発痴呆または精神分裂病群》(1911)を通じてこれが世界中へ広まった。

 このように,分裂病(統合失調症)が〈疾患〉として成立してから西欧ではまだ100年にも満たないが,東洋,とくに中国の医学には紀元前に早くも〈狂〉の概念が明確に打ち出され,これが一貫して受け継がれて,6,7世紀には日本にも伝えられた。明治以後は西欧の用語が入り,〈早発欠損狂〉→〈早発痴狂〉→〈早発痴呆〉→〈精神乖離(かいり)症〉(または〈精神分離症〉)と変転したのち,第2次大戦後になって初めて〈精神分裂病〉の呼称が定着した。

 2002年8月,日本精神神経学会は〈精神分裂症〉の呼称が患者への偏見をもたらすなどの理由から,〈統合失調症〉と改称した。

症状は千差万別で,知・情・意,すなわち知覚,思考,言語,感情,意志,欲求など,人間の精神機能のほとんどすべてにわたりうるが,その際,人格の自律性が障害され,周囲との自然な交流ができなくなるのが,共通の特徴とされる。病者はまず,まわりの世界がいつもと変わって,なにか起こりそうだと感じ(妄想気分),周囲のできごとをみな自分に結びつける(関係妄想)。街へ出ると,他人から変な目で見られ(注察妄想),あとをつけられ(追跡妄想),家では,食べものが変な味で(幻味),毒が入っていると思い(被毒妄想),食事をとらない(拒食)。自室にこもるようになるが(自閉),自分の悪口を言う声が聞こえ(幻聴),または自分の考えることが外から声として聞こえ(考想化声),自分のことが周囲に漏れていると感じ(考想伝播),動静がまわりの人にわかるのは部屋のどこかに盗聴器やカメラが仕掛けられているためと考える(説明妄想)。そのほか,行動が他人にあやつられ(させられ体験=作為体験),自分の考えが抜き取られ(思考奪取),他人の考えが吹き込まれる(思考吹入)と感じるなど,見えない相手に翻弄され,ときには興奮して突飛な行動に出たり,いっさいの自発性を失って昏迷状態に落ちこんだりする。

 慢性期に移ると,不安や危機感は減るかわり,妄想幻覚などの症状は固着して,それに対する確信が強まり(病識欠如),独語や独り笑い(空笑)も加わる。ときに自分ひとりにしか通用しない言葉や文字を作る(造語症=言語新作)。このように,病者の生活はそれだけで閉ざされた一つの特異な世界を築き上げ,それだけ日常世界から遊離したものになっていく。

これらの症状や経過はしかし病型によって少しずつ異なる。年齢的にいちばん早いのが〈破瓜型〉で,17,18歳ごろから20歳前後にかけて特別の誘因なく緩慢に発症し,妄想や幻覚などの〈陽性症状〉は目だたず,能動性の減退と感情の鈍麻を主徴とし,自閉的で,独語・空笑がみられ,無為無関心の毎日を送る。経過は多く進行性で,3病型のうちでは予後もいちばん良くない。

 この〈破瓜型〉と逆に,最も精神病らしい外観を呈するのは〈緊張型〉で,20歳前後から20歳代前半にかけてなんらかの誘因により急性に発症し,了解不能な激しい興奮(運動心迫)を示すかと思うと,昏迷に落ちこんで,わずかに強硬症(受動的にとらされた姿勢をいつまでもとりつづけること)や命令自動(命令されたとおりに従うこと)がみられるだけとなる。数週ないし数ヵ月で回復し,予後は必ずしも悪くないが,再発も多い。

 〈妄想型〉は20歳代後半から30歳代にかけて現れ,文字どおり妄想,幻覚を主徴とし,多少とも体系立った被害妄想,ときに誇大妄想の世界をつくり上げる。治療により数ヵ月で回復することも少なくないが,なかには長期化して,数年の経過をたどる場合もある。

 しかしこれら3病型は明瞭に区分しにくいことも多く,また同一病者に複数の病型が現れるなどの理由から,慢性進行性の中核的な統合失調症と予後の良い非定型分裂病に二分する立場もある。

分裂病の原因はなお不明だが,以前のように遺伝や素質だけを重視する見方は後退し,人格特性をふくめた状況的・環境的要因に注意をはらう立場が現在では一般化しつつある。発生頻度はあらゆる民族,あらゆる時代を通じ不変で,0.7~0.9%程度とされ,日本でも同様だが,1963年の全国調査以後は信頼できる統計がなく,近年の頻度に増減があるか否かは明らかではない。しかし,治療法の進展によって分裂病の回復率が高まったことは確かで,以前はせいぜい30%前後だった治癒率が,向精神薬(抗精神病薬)の使用,精神療法的対応,生活面の指導や援助などの適切な組合せで,今では60~70%程度に上昇している。この数字は早期発見と早期治療によりさらに高まるものと期待される。

分裂病に罹患したとみなされる人には,ドイツ・ロマン派の詩人F.ヘルダーリン,フランス・ロマン派の作家G.deネルバル,スウェーデンの自然主義作家J.A.ストリンドベリ,ロシアの短編小説家V.M.ガルシン,ノルウェーの画家E.ムンク,ロシアの舞踊家V.ニジンスキーなど芸術家も多い。彼らの場合,分裂病の体験が人間存在の深淵を自覚する契機となり,ひいては新たな芸術的創造へと導いていることはまちがいない。かつてK.ヤスパースは〈18世紀以前のヨーロッパの歴史では,その時代に対して文化的意義をもったのはみなヒステリー者で,統合失調症者はひとりも見られないが,19世紀以後,ヒステリーと統合失調症の役割が完全に入れかわった〉ことを強調した。このように近代の統合失調症は,人間の精神を崩壊と悲惨へ向かわせる一方で,創造と文化の高みへ導いてもいるといえる。
躁うつ病
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六訂版 家庭医学大全科 「統合失調症」の解説

統合失調症
とうごうしっちょうしょう
Schizophrenia
(こころの病気)

どんな病気か

●統合失調症は脳をはじめとした神経系に生じる慢性の病気である

 統合失調症は、さまざまな刺激を伝えあう脳をはじめとした神経系が障害される慢性の疾患です。詳細は不明な部分もあるものの、ドーパミン系やセロトニン系といった、緊張­リラックスを司る神経系や、意欲やその持続に関連する系列、情報処理・認知に関する何らかの系列にトラブルが起きているといわれています。

●特殊な病気ではなく、100人にひとりくらいの割合でかかっている人がいる

 世界各国で行われたさまざまな調査により、統合失調症の出現頻度は地域や文化による差があまりなく、およそ100人にひとりは、かかった体験をもっていることがわかりました。これは、統合失調症が奇病の(たぐい)ではなく、誰しもが体験しうるような病気のひとつであるということです。

症状の現れ方

陽性症状(ようせいしょうじょう)は安心感や安全保障感を著しく損なう

 急性期に生じる患者さんの感覚は「眠れなくなり、とくに音や気配に非常に敏感になり、まわりが不気味に変化したような気分になり、リラックスできず、頭のなかが騒がしく、やがて大きな疲労感を残す」、あるいは「自分のことが周囲の人に筒抜(つつぬ)けになり、常に人から見張られていて、悪口を言われ非難中傷されている」というような体験のようです。

 誰も何も言っていないはずなのに、現実に「声」として悪口や命令などが聞こえてしまう「幻聴(げんちょう)」や、客観的にみると不合理であっても本人にとっては確信的で、そのために行動が左右されてしまう「妄想(もうそう)」といった症状が代表的です。

 これらの症状を「陽性症状」と呼びます。陽性症状は、安心感や安全保障感を著しく損ない、一度、症状が現れるとそこからの回復過程は緩やかで、十分な時間を必要とします。

陰性症状(いんせいしょうじょう)は自信や自己効力感を奪う

 一方、根気や集中力が続かない、意欲がわかない、喜怒哀楽(きどあいらく)がはっきりしない、横になって過ごすことが多いなどの状態として現れるものがあります。「一見、元気にみえるのに、なぜか仕事や家事が続かない」といわれるような状態です。

 また、込み入った話をまとめてすることが苦手になったり、会話を快活に続けることに困難を感じたり、考えがまとまらなかったり、話が飛びやすくなったりして、しばしば、自分でいろいろなことを決めて生活を展開していくことが大変難しく感じられます。

 これらの症状を「陰性症状」と呼びます。陰性症状は、なかなか症状として認知されづらく、怠けや努力不足とみられてしまう場合があります。

 陰性症状を「症状」と理解して対応しなかった場合は、生活上のさまざまな失敗や挫折を招くことが多く、生活をしていく自信や「自分はやれている」といった自己効力感を損ないやすくなります。これが、リハビリテーションをしたり、社会生活を維持するうえで要点となるところです。

治療の方法

●薬物療法の進歩は目覚ましい

 統合失調症の症状が、ドーパミン系やセロトニン系といった神経系で作用している神経伝達物質のアンバランスと関連が深いことが認められて以来、多くの治療薬が開発されてきました。とくに近年、第2世代の抗精神病薬と呼ばれる治療薬が開発され(リスパダール、ジプレキサ、ルーラン、セロクエル、エビリファイなど)、より好ましい成果をあげつつあります。

 これらの薬の特徴は、陽性症状に効果があるばかりでなく陰性症状にも効果があるといわれていることと、錐体外路(すいたいがいろ)症状と呼ばれる、手の震えや体のこわばりといった生活に支障を起こしやすい副作用が少ないことです。

 また、使用方法として、①原則として、1種類の薬で処方し、同じような効き目の何種類もの薬を重ねてのむような方法はとらないこと、②「適用量」があり、多量の処方は、副作用ばかりが増えて効果が増えるわけではなく、意味がないことが明らかにされています。

 日本では、かつて多種類の薬物を大量に処方する習慣がありました。第2世代の抗精神病薬は、このような処方の方法論にも影響を与えています。

●地域のなかで普通に暮らすことがリハビリテーションの目標である

 統合失調症にかかると、陽性症状や認知障害のため、「本人が病気であることを理解するのが難しい」といわれてきましたが、それは偏見です。適切な方法でていねいに伝えれば、病気の療養に必要な情報を患者さんに与えることはできます。

 知ることや、病気への対処を学ぶことによって、そして病気を抱えながら生活する練習をすることによって、人は病気からの回復に進んで取り組めるようになります。

 病気について本人や家族が理解することの最大のメリットは、再発に対して適切に対処する、あるいは再発を予防することが可能になることです。たとえばこの(やまい)は、緊張­リラックスを司る神経の系列の障害であるので、対人関係や不意の出来事といった生活上の事柄が再発を招くことがあります。そのため、事前に苦手なことを知っていることで、ある程度ストレスへの対処が可能になります。

 また、対処や生活の練習は、症状の特徴として、「1を知って10を知る」というようにはなかなかなりません。生活の現場での具体的な工夫こそが意味をもちます。したがって、延々と入院しているよりは、早期に退院して生活を始め、生まれてくる課題についていろいろと工夫を重ねていくのがよいでしょう。

 近年、日本でも「地域中心の精神医療」ということがいわれていますが、統合失調症の場合、生活の場で本人と家族、それに仲間や専門家が出会って、よりよい工夫を考える機会をつくることのメリットは、はかり知れません。

 また、症状はしばしば慢性的に残存します。これを「障害」と呼びますが、障害の部分に対するサポートが行われることによって、また、本人の長所や得意な能力を伸ばすことによって、社会生活を楽しみ、維持する力が増す可能性が増えます。

 障害がありながらも、サポートや工夫によって、地域社会のなかで「普通の人」として生活していけるようになることが、私たちの目指すあり方ということができるでしょう。

病気の予後について

●長期予後では50%以上の人が回復したり軽度の障害のみですんでいる

 以前から「統合失調症は予後不良である」とか、「人格が荒廃(こうはい)することがある」などといわれてきましたが、研究の成果は必ずしもそれを示していません。

 チオンピ博士が1976年に行った30年の長期予後調査では、「回復」と「軽度」の障害の状態と判断された人が併せて49%にのぼっています。別の調査では、初回入院のあと5年間安定した生活を続けられた人の場合、68%がこの予後良好群に入るとの結果もあります。

 さらに、適切な薬物療法とリハビリテーションが行われた場合は、回復の度合いはさらに良好です。ハーディング博士が1987年に実施した30年長期予後調査によれば、適切な薬物療法とリハビリテーションの組み合わせで40%の人が過去1年間に就労経験をもち、68%の人でほとんどの症状が消失し、73%の人が充実した生活を送っていると答えました。

 (やまい)は時として、自尊心や生活に対する興味をも失わせてしまいます。病を抱えながらも生活を維持していくことを大切に考え、地域社会のなかで医療や生活支援などを受けながら、周囲の人々との適切な関わりが交わされることで、再び社会のなかで人生を積極的に生きていくことができるのです。

伊藤 順一郎

統合失調症
とうごうしっちょうしょう
Schizophrenia
(子どもの病気)

どんな病気か

 内因性(ないいんせい)精神病といわれるものに属し、慢性の経過をたどることが多い病気です。発症は10歳以下では極めてまれですが、10歳を過ぎて中学生の年齢になるとまれな病気ではなくなります。一般的には18~20歳を過ぎると急増するといわれています。

原因は何か

 遺伝子や胎生期(たいせいき)から生後の環境因子も含めて、多くの因子が複雑に(から)み合って病気が形成されると考えられています。遺伝的因子に限ってみれば、一卵性双生児の一方が発症した時にもう一方が発症する率は50%前後と、それほど高くはありません。

症状の現れ方

 子どもの統合失調症は、急性の発症よりもゆっくりと発症してくることが多いといわれています。そのような場合では、数カ月から数年にわたって、不登校、強迫症状、うつ状態、摂食障害、問題行動、チックなどいろいろな症状が続いたあとに発症します。

 発症後の症状は、幻聴(げんちょう)(自分の噂話が聞こえるなど)、被害妄想(ひがいもうそう)(悪口を言われている、狙われているなど)、関係妄想(かんけいもうそう)(テレビで自分のことを言っているなど)、独り言、空笑(くうしょう)などが多く、まとまらない言動を示す場合もあります。

検査と診断

 子どもの場合も大人と同じ診断基準を用いているため、診断には幻覚(げんかく)あるいは妄想の存在が重要な要素になっています。そのため、過去の経過、行動や会話のまとまりのなさなどから統合失調症が強く疑われる場合でも、国際的な診断基準を適用すると、統合失調症とは診断できない場合が少なからずあります。そのような場合には、統合失調症のスペクトラム(範囲)にある障害として、統合失調症に準じて慎重に対応し、経過を追います。

 検査は、脳の器質的な障害を除外したい場合には頭部CTあるいはMRI、脳波測定を行います。症状が少し落ち着いた段階で、各種の心理検査を行います。

治療の方法

 薬物療法が中心になります。現在は、従来使用されてきたハロペリドールやクロルプロマジンではなく、より副作用の少ないリスペリドン(リスパダール)、オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)、ペロスピロン(ルーラン)、アリピプラゾール(エビリファイ)、ブロナンセリン(ロナセン)の6つの新しいタイプの抗精神病薬が、子どもでも第一選択薬になっています。

 急性期を乗り越えたあとは、彼らが学齢期にあるために教育が新たな問題として浮上してきます。各地域の社会的な資源(教育・療育施設や社会福祉制度など)の利用も考慮に入れて、病状に合わせて医師や教師と相談していくことが重要です。

病気に気づいたらどうする

 軽快・再発を繰り返すことが多く、慢性の経過をたどる病気です。長期戦を覚悟しなければなりませんが、発症の初期に適切な治療を行えば、その後の経過は比較的良好である場合が決して少なくありません。

 まず専門医(児童精神科医)の診察を受け、薬物療法の内容について本人と親が納得するまで十分に説明を受けて、治療を開始することが大切です。社会復帰の時期についても、決して焦ることなく主治医と相談しながら進めていってください。

松本 英夫

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最新 心理学事典 「統合失調症」の解説

とうごうしっちょうしょう
統合失調症
schizophrenia

青年期に発症し,120人に1人が患う精神疾患であり,幻覚,妄想,自我障害などの陽性症状と感情鈍磨,社会的引きこもりなどの陰性症状を呈する症候群である。発症後の予後に大きくかかわる認知機能障害を伴い,慢性に経過することが多い。脳の神経ホルモンのバランスが乱れて生じる病気であり,クレペリンKraepelin,E.が1899年に早発性痴呆と統合失調症を定義してから現在に至るまで,その原因ははっきりとはしていない。日本における患者数は79万人(厚生労働省の2008年度調査)にも及んでおり,社会的・経済的影響は非常に大きい。かつては精神分裂病とよばれていたが,疾患についての理解や治療が深まったこともあり,2002年に統合失調症と呼称変更がなされた。

【原因と発症】 統合失調症は遺伝的要因が大きく影響するといわれるが,一つの遺伝子によって説明ができる病気ではない。遺伝的素因が見られる場合に,高血圧や糖尿病などと同様にさまざまな因子が重なり合って発症すると考えられている。思春期に抑うつ,不安,集中困難,社会的引きこもりなどの非特異的な症状を呈する前駆期が認められ,その後,陽性症状を呈して思春期後期から青年期に発症する。発症年齢は15歳~35歳が大半を占めており,平均発症年齢は男性は21歳,女性は27歳と男性の方が早く発症する傾向がある。発症後,治療を開始するまでの精神病未治療期間duration of untreated psychosis(DUP)が短いほど予後が良いといわれている。その後,エピソード(症状の再燃)を繰り返していくうちに,陰性症状や認知機能障害が進行するといわれている。病状の基盤となる,統合失調症の脳構造異常は発症早期から認められており,病状の進行に伴い,進行性の異常が認められることが報告されている。

【症状】 統合失調症では多彩な症状が見られる。すべての症状がすべての患者で見られるわけではないが,以下に比較的よく見られる症状を挙げる。まずは急性期に目立ちやすい,幻覚,妄想,自我障害,思考障害が陽性症状といわれる。幻覚の中でも,「他人の声が聞こえてくる」という幻聴が最もよく見られる。対話性の幻聴,自分の考えていることが声になるという考想化声なども見られやすい。また,「身体がとけてしまう」といった体感幻覚が見られることもある。妄想とは理解できない考えのことであり,「なんか周囲がおかしくて不安」という妄想気分,「車が止まったのは神のお告げである」という妄想知覚,突然了解不能な考えを思いついて確信する妄想着想などが挙げられる。何かを自分と関係づける関係妄想,被害感の強い被害妄想,見られているという注察妄想,つけられているという追跡妄想,毒が入っているという被毒妄想などさまざまな不安と恐怖を伴った考えが生じることが多い。また「自分が自分でない感じ」という自我障害もよく見られ,自分の考えでない考えが頭に勝手に浮かんでくるという自生思考,だれかに身体を動かされるというさせられ体験,考えを吹き込まれるという思考吹入,考えが抜き取られるという思考奪取などが自我障害に伴う症状である。また思考障害として,会話がまとまらなくなる連合弛緩などが見られることもある。陽性症状と比して,慢性期に見られやすい陰性症状としては,感情鈍麻,感情の平板化,自発性減退,引きこもりなどが認められる。感情鈍麻もしくは平板化とは喜怒哀楽の表出が乏しくなり,声も単調となるようなことをいう。さらに現実から離脱して自閉気味となり社会的に引きこもることが多く見られる。慢性期が続くと一日中臥床していることが見られるようになり自発性の減退が著しくなる。

 これらの陽性症状や陰性症状のほかに,社会的予後や治療のうえでとくに重大な症状として,認知機能障害と病識の欠如がある。病識の欠如は,統合失調症に特徴的であり,服薬のアドヒアランスなどに大きな影響を与える。「何かがおかしい」「薬を飲むとその状態は少しは楽になる」というような病感をもつことはほとんどの患者に見られるが,「これは病気だから治療しないといけない」という病識を獲得するまでには時間がかかることが多い。また,言語性記憶,実行機能,注意機能を主とした認知機能障害が認められ,さらに社会的認知機能も低下することが報告され,それらは生活機能に大きく影響を与えることから,治療の対象ともなっている。

【診断】 統合失調症に特異的な検査方法などはまだ開発されていないため,本人または家族との問診によって得られた情報をもとに診断を行なう。症状がいつどのように現われたのか,その後の症状はどのように変化していったのか,日常生活の上でどのような変化があったのか,というような現病歴,それまでの生育歴,既往歴,家族歴などさまざまな情報を基に総合的に判断される。広く用いられている診断基準とも照らし合わせることが多く,その診断基準にはWHO(世界保健機関)による1990年の『国際疾病分類』第10版(ICD-10)と,アメリカ精神医学会による1994年の『精神障害の診断と統計の手引き』第4版(DSM-IV)の二つがある。両方を併用して診断を行なうことが多いが,比較的多く用いられる,2000年の同第4版の修正版(DSM-IV-TR)の診断基準を以下に示す。

【統合失調症の診断基準】

(A)特徴的症状:以下のうち二つ(またはそれ以上),おのおのは1ヵ月の期間(治療が成功した場合はより短い)。 ほとんどいつも存在:⑴妄想。⑵幻覚。⑶まとまりのない会話(頻繁な脱線または滅裂)。⑷ひどくまとまりのない,または緊張病性の行動。⑸陰性症状,すなわち感情の平板化,思考の貧困,または意欲の欠如(注,妄想が奇異なものであったり,幻聴がその者の行動や思考を逐一説明するか,または二つ以上の声が互いに会話しているものであるときには,基準Aの症状を一つ満たすだけでよい)。

(B)社会的または職業的機能の低下:障害の始まり以降の期間の大部分で,仕事,対人関係,自己管理などの面で一つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している(または,小児期や青年期の発症の場合,期待される対人的,学業的,職業的水準まで達しない)。

(C)期間:障害の持続的な徴候が少なくとも6ヵ月間存在する。この6ヵ月の期間には,基準Aを満たす各症状(すなわち,活動期の症状)は少なくとも1ヵ月(または,治療が成功した場合はより短い)存在しなければならないが,前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では,障害の徴候は陰性症状のみか,もしくは基準Aに挙げられた症状の二つまたはそれ以上が弱められたかたち(風変わりな信念,異常な知覚体験)で表わされることがある。

(D)統合失調感情障害と気分障害の除外:統合失調感情障害と「気分障害,精神病性の特徴を伴うもの」が以下の理由で除外されていること。

⑴活動期の症状と同時に,大うつ病,躁病,または混合性のエピソードが発症していない。

⑵活動期の症状中に気分のエピソードが発症していた場合,その持続期間の合計は活動期および残遺期の持続期間の合計に比べて短い。

(E)物質や一般身体疾患の除外:障害は,物質(乱用薬物,投薬)または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。

(F)広汎性発達障害との関係:自閉性障害や他の広汎性発達障害の既往歴があれば,統合失調症の追加診断は顕著な幻覚や妄想が少なくとも1ヵ月(または,治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。

【治療法】 統合失調症の治療では,精神症状の軽減,再発防止,生活機能低下の防止などが目標となる。そのためには,抗精神病薬を主とした薬物療法,心理療法,リハビリテーション・地域支援活動が行なわれている。抗精神病薬は,妄想,幻覚などの症状を軽減し,かつ継続的な服用によって再発防止につながる。いかに薬物療法を受け入れさせるかが治療者の務めでもある。新しいタイプの非定形抗精神病薬を単剤で使用することが推奨される。そのような薬物療法への理解や家族の疾患への理解・協力を得ていくためには,心理療法が欠かせない。近年では心理療法を併用して,できる限り少ない量での薬物療法を行なうことが目標とされている。また,急性期からのリハビリテーションと地域社会で生きていくためのさまざまな支援活動も欠かせない。 →気分障害 →心理療法 →認知機能リハビリテーション →パーソナリティ障害 →不安関連障害
〔荒木 剛〕

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百科事典マイペディア 「統合失調症」の意味・わかりやすい解説

統合失調症【とうごうしっちょうしょう】

スキゾフレニア(schizophrenia)の訳語。精神分裂病に代わる名称として,2002年日本精神神経学会によって決定された。精神分裂病という訳語が,病気の実態や患者に対する誤解・差別などを生んできたという認識にもとづく。
→関連項目インシュリンインシュリン・ショック療法LSD緘黙症境界例拒絶症緊張病化粧療法行動療法誇大妄想昏迷錯乱神経症精神障害精神病精神分析療法精神療法電気ショック療法投射破瓜型パラノイア被害妄想不眠症分裂気質耳鳴り離人症ロボトミー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「統合失調症」の意味・わかりやすい解説

統合失調症
とうごうしっちょうしょう
schizophrenia

代表的な精神障害で,他人に監視されたり他人の考えが吹き込まれたりするという妄想や幻覚,まとまりのない思考と奇異な行動が急性期の特徴。慢性期になると感情や意欲が乏しくなるという人格の変化や孤立して社会的な関係が他と結べなくなるなどの傾向が出てくる。ヒトの歴史以来あったはずで,痴呆と同一視されたこともあるが,精神機能の分裂が問題となることから「スキゾ (分離) フレニア (精神) 」と名づけたのはスイスのオイゲン・ブロイラーである (1908) 。有病率は世界的に1%程度である。好発年齢は思春期から青年期とされる。予後は改善をみる場合から長期的な人格崩壊の場合まで多様である。原因はまだ確定していないが,遺伝的素因があること,対人的なストレスのある環境などが発症に関係することなどが指摘されている。神経生理学的には神経伝達物質など脳の基本的機能の異常が考えられる。根本的な治療はいまだできていないが,妄想や幻覚などの陽性症状を抑えるには抗精神病薬が効果がある。そのほか,精神科的なリハビリテーションなども行なわれる。 2002年,日本精神神経学会は 1937年以来使ってきた精神分裂病のことばには人格否定的なニュアンスがあるとして「統合失調症」に名称を変更した。

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知恵蔵 「統合失調症」の解説

統合失調症

精神分裂病に代わる新名称。2002年8月、日本精神神経学会が正式決定し、新名称の使用を関係行政機関に働きかけた。国際語としては、schizophrenia(スキゾフレニア=分裂した精神状態の意)が使われる。知覚や思考、感情、行動などの広い範囲に症状が現れ、10歳代後半〜30歳代半ばに発症することが多い。幻聴や妄想がよく見られ、その内容は被害的、迫害的であることが多い。自他の境界があいまいになり、外から考えを吹き込まれる(思考吹入)、自分の考えが周囲に伝わる(考想伝播)、何かに操られている(作為体験)などの体験があり、心が休まらなくなる。それらは陽性症状と呼ばれ、抗精神病薬が有効である。一方、意欲の減退や感情の平板化、思考の貧困化などの陰性症状は、主に精神科リハビリテーションによって治療する。いくつかの類型があるが、幻覚や妄想が強い妄想型、急に興奮したり、奇妙な姿勢や表情を示す緊張型、感情の乏しさや意欲の減退が主症状で、思春期から成人期初期に発病する破瓜(はか)型などがある。統合失調症は治療により病状が推移し、治療を行えば症状が強く出る期間は意外と短い。再発防止のためにも長期服薬が望ましい。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「統合失調症」の解説

統合失調症

 →精神分裂病

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