脳の働きをまとめる能力が低下し、幻覚や妄想などの「陽性症状」、意欲低下などの「陰性症状」が現れる疾患。薬の進歩で病状をコントロールしやすくなった。約100人に1人が発症し、思春期や青年期に多い。原因は不明だが、強いストレスがきっかけの一つになるとされる。厚生労働省によると、入院患者は2021年6月時点で全国に約13万4千人。かつては「精神分裂病」と呼ばれた。日本では02年、差別や偏見を助長するとして名称を変更した。
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女性の病気
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
代表的な精神疾患の一つ。19世紀末ドイツの精神医学者クレペリンにより早発性痴呆(ちほう)dementia praecoxといわれたものであるが、1911年スイスのブロイラーが精神病理学的にとらえ直しスキゾフレニアschizophreniaという名を提唱した。日本ではschizophreniaを直訳した精神分裂病という名称が1937年(昭和12)より用いられてきた(精神乖離(かいり)症、精神分裂症といわれたこともある)。しかし、精神それ自体の分裂と誤解されやすいこと、患者の人格否定につながるなどの理由から、2002年(平成14)schizophreniaを訳しなおした「統合失調症」に改められた。
思春期から青年期に発症する例が多く、放置すると徐々に増悪を繰り返しながら経過し、やがて特有な人格の変化をきたし、周囲に無関心となって自分だけの世界に閉じこもってしまうもの(自閉)である。しかし、早期発見と適切な治療により回復可能であり、再発を防ぐ努力もなされ、以前よりも重篤な状態におちいることが少なくなった。原因は今日なお不明であるが、発生頻度は100人当り1人といわれている。
[保崎秀夫]
おもな症状を、患者自身が訴えるもの、周囲の人がわかるもの、専門医がみてわかるものに分けて述べる。
患者自身が訴える症状は、幻聴や妄想を中心に、幻触、させられ体験(作為体験)、思考への影響体験、考想伝播(でんぱ)などがあげられる。幻聴には、だれもいないのに自分の言動を非難し批判する声が聞こえたり、自分の考えていることが声になって聞こえる思考化声があり、妄想には、病的な確信をもっていて周りの人が説得しても訂正不能であり、周囲のできごとに意味づけをする関係妄想、自分の地位・生命・財産が脅かされるという被害(迫害)妄想、心身の状況について病的に悩む心気妄想、大きなことをいう誇大妄想、連れ合いの不貞を確信する嫉妬(しっと)妄想などがある。させられ体験は、自分の考えや動作が他人により支配され操られていると感ずるもので、思考への影響体験は、自分の考えを抜き取られたり、他人から考えを入れられたりしていると感ずるものである。また考想伝播は、自分の考えが周囲に広まりわかってしまうと感ずるものである。
周囲からみてわかる症状は、話の筋(すじ)が乱れたり支離滅裂であり、表情の硬さ、冷たさ、ひとりごとやそら笑い、周囲にそぐわない感情の反応、周囲への無関心、ときにみられる緊張病性興奮、奇妙な症状、たとえばなんでも拒否する拒否症状、口をきかない緘黙(かんもく)症、拒食症、拒薬症やおうむ返しをする反響症状、同じことを繰り返す常同症、わざとらしくて奇妙な衒奇(げんき)症、とらされた姿態をとり続けるカタレプシーcatalepsyのほか、自分だけに通用する言語をつくる造語症や、なんでもいわれたとおりに行動する命令自動症などがある。また、進行した時期にみられるやる気のない(無為)状態もある。幻覚や妄想、させられ体験などを陽性症状、無為や不適切な感情反応などを陰性症状とよぶこともある。また、自ら病気であるという自覚がない(病識欠如)。
重要なのは専門医が患者に接してみて初めてわかる症状で、心のなかに入れない非疏通(そつう)性や共感できないこと、病気らしい特有な印象(プレコックスpraecox感)がある。
[保崎秀夫]
症状や経過によっていくつかに分けられているが、代表的なものは次の三つである。
(1)破瓜(はか)型・解体型(破瓜病) 比較的若いころから徐々に始まり、放置すると慢性に経過して人格の荒廃に陥ってしまうもので、統合失調症の中心的な型である。初めは幻覚や妄想があっても、やがてなにもしなくなり周囲に無関心となってしまう。
(2)緊張型(緊張病) 若いころから発病し、激しい興奮があったかと思うとなにもしなくなる(昏迷(こんめい)状態)というような行動面での動きが目だつものである。
(3)妄想型 前二者よりも遅く発症し、幻覚や妄想が目だち、比較的人格の崩れの少ない型である。
これらの型のほかに、症状があまり目だたない単純型、神経症や性格異常と区別しにくく境界例に近い偽(ぎ)神経症型あるいは偽性格異常型、そううつ病の症状が前景に出て非定型精神病に近い分裂・情動型、精神遅滞のうえに分裂病が発症した接枝分裂病などがあり、年齢層による分類も行われている。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)では、妄想型、破瓜型、緊張型、鑑別不能型(分類不能型)、分裂病後抑うつ、残遺型などに分けられている。
[保崎秀夫]
経過と予後は、3分の1は治癒し(寛解という)、3分の1は悪化し、残り3分の1は一進一退を繰り返し、よいときは仕事を続けられるが、ときに入院あるいは外来で治療を行うといわれている。一般には、ときどき悪化するという波形の経過をたどるものが多い。
[保崎秀夫]
今日では抗精神病薬療法が中心で、できるだけ外来通院で家庭や地域で治療する方法がとられており、やむをえないときに入院加療を行う。
抗精神病薬としては、フェノチアジン系剤、ブチロフェノン系剤、ベンザミド系剤、イミノジベンジル系剤などの定型抗精神病薬に加えて、ベンズイソキサゾル系等の非定型抗精神病薬が投与されており、服薬しながら通学や通勤していることが多い。電撃療法は限られた必要時だけ行われ、インスリンショック療法、脳外科的手術はまったく行われない。
精神面での支え(精神療法)や環境の調整も重要で、家族や学校、勤務先の協力が治療上欠かせない。なお、規則正しい生活に戻し、社会復帰を図るために、生活指導、生活技能訓練(SST)、集団精神療法、作業療法(各種の段階がある)、レクリエーション療法や芸術療法などが症状に応じて行われ、病院から直接自宅へ帰れない場合は、とりあえず社会復帰のための施設に入って指導を受けたり、自発性の回復、自立の援助のための試みがなされている。自宅にあっても、昼間に施設や病院で指導を受けるデイ・ケア療法が行われており、社会とつねに接触しながら治療するための早期退院、外来通院療法、社会復帰施設の利用、地域内での治療などが積極的に行われている。
[保崎秀夫]
『保崎秀夫著『新精神医学』(1990・文光堂)』▽『保崎秀夫著『うつに悩む方へ』(1995・主婦の友社)』▽『保崎秀夫編『幻覚』(1999・ライフサイエンス)』▽『保崎秀夫著『うつ病の人の気持ちがわかる本』(2001・主婦の友社)』▽『伊藤順一郎著『統合失調症/分裂病とつき合う』(2002・保健同人社)』▽『福西勇夫編著『統合失調症がわかる本――正しい理解と対処のすべて』(2002・法研)』▽『朝田隆・高橋清久著『セカンド・オピニオン精神分裂病/統合失調症Q&A』(2002・医学書院)』▽『C・S・エイメイソン著、松島義博・荒井良直訳『再発防止のためのサイコエデュケーション』(2003・星和書店)』▽『P・J・ワイデン他著、藤井康男・大野裕訳『新薬で変わる統合失調症治療』(2003・ライフサイエンス)』▽『森山公夫著『統合失調症――精神分裂病を解く』(ちくま新書)』
躁うつ病と並ぶ〈二大精神病〉の一つ。主として青年期に発生し,妄想や幻覚など特異な症状を示し,しばしば慢性の経過をたどり,やがて人格の特有な変化を残す。原因がなお不明なうえ,発現の頻度が高く,しかも治療がむずかしいなどの理由から,精神病のなかでも中心的な位置を占め,精神医学および精神医療の最も重要な対象とみなされる。ただし,この病気が〈Schizophrenie〉の名で西欧精神医学の前面に登場するのはやっと20世紀に入ってからである。その前身の〈早発(性)痴呆〉(早発(性)認知症)でさえ19世紀半ばからで,躁うつ病が〈マニア〉と〈メランコリア〉の名で古代ギリシアの昔から一貫して記述されてきたのに比べると,はなはだしい不均衡があり,それだけ時代の狂気観にさらされていたことになる。
むろん,今日の統合失調症(精神分裂病)に相当すると考えられる先行形態は人間の歴史とともに存在したはずで,ギリシア医学でもアレタイオスAretaiosやソラノスによって近似の病像が描かれている。とはいえ,中世から17,18世紀ごろまでは病像の医学的記述に見るべきものがなく,この貧困さに対して,オルレアンの処女ことジャンヌ・ダルク,シェークスピア《ハムレット》のオフィーリア,宗教家スウェーデンボリらの例は当時の統合失調症のありようを生き生きと伝えて余すところがない。
今日の統合失調症につながる概念はやっと19世紀後半に相次いで現れるようになる。まず,フランスのB.A.モレルがその《臨床研究》(1852)で,若年者に発症し急速に痴呆状態へと進行する精神病を〈早発痴呆Démence précoce〉と名づける一方,ドイツではK.L.カールバウムが1874年(63年説もある)に精神運動性の興奮と昏迷という相反する状態をふくむ病像を〈緊張病Katatonie〉と名づけた。またE.ヘッカーが1871年に思春期に始まって感情鈍麻や意欲減退を示しながら欠陥状態へと至る病像を〈破瓜病Hebephrenie〉と命名し,最後にE.クレペリンが1899年の彼の《精神医学教科書》第6版であとの二つをまとめ,これに〈妄想痴呆〉を加えて〈早発痴呆Dementia praecox〉と呼んだ。しかし,症例の観察を重ねていくと,普通の意味の〈痴呆〉が生ずるのでも,つねに青年期に始まるのでもなく,問題は精神機能の分裂にあることから,スイスのE.ブロイラーが〈精神分裂病Schizophrenie〉という新語を使いはじめ,主著《早発痴呆または精神分裂病群》(1911)を通じてこれが世界中へ広まった。
このように,分裂病(統合失調症)が〈疾患〉として成立してから西欧ではまだ100年にも満たないが,東洋,とくに中国の医学には紀元前に早くも〈狂〉の概念が明確に打ち出され,これが一貫して受け継がれて,6,7世紀には日本にも伝えられた。明治以後は西欧の用語が入り,〈早発欠損狂〉→〈早発痴狂〉→〈早発痴呆〉→〈精神乖離(かいり)症〉(または〈精神分離症〉)と変転したのち,第2次大戦後になって初めて〈精神分裂病〉の呼称が定着した。
2002年8月,日本精神神経学会は〈精神分裂症〉の呼称が患者への偏見をもたらすなどの理由から,〈統合失調症〉と改称した。
症状は千差万別で,知・情・意,すなわち知覚,思考,言語,感情,意志,欲求など,人間の精神機能のほとんどすべてにわたりうるが,その際,人格の自律性が障害され,周囲との自然な交流ができなくなるのが,共通の特徴とされる。病者はまず,まわりの世界がいつもと変わって,なにか起こりそうだと感じ(妄想気分),周囲のできごとをみな自分に結びつける(関係妄想)。街へ出ると,他人から変な目で見られ(注察妄想),あとをつけられ(追跡妄想),家では,食べものが変な味で(幻味),毒が入っていると思い(被毒妄想),食事をとらない(拒食)。自室にこもるようになるが(自閉),自分の悪口を言う声が聞こえ(幻聴),または自分の考えることが外から声として聞こえ(考想化声),自分のことが周囲に漏れていると感じ(考想伝播),動静がまわりの人にわかるのは部屋のどこかに盗聴器やカメラが仕掛けられているためと考える(説明妄想)。そのほか,行動が他人にあやつられ(させられ体験=作為体験),自分の考えが抜き取られ(思考奪取),他人の考えが吹き込まれる(思考吹入)と感じるなど,見えない相手に翻弄され,ときには興奮して突飛な行動に出たり,いっさいの自発性を失って昏迷状態に落ちこんだりする。
慢性期に移ると,不安や危機感は減るかわり,妄想や幻覚などの症状は固着して,それに対する確信が強まり(病識欠如),独語や独り笑い(空笑)も加わる。ときに自分ひとりにしか通用しない言葉や文字を作る(造語症=言語新作)。このように,病者の生活はそれだけで閉ざされた一つの特異な世界を築き上げ,それだけ日常世界から遊離したものになっていく。
これらの症状や経過はしかし病型によって少しずつ異なる。年齢的にいちばん早いのが〈破瓜型〉で,17,18歳ごろから20歳前後にかけて特別の誘因なく緩慢に発症し,妄想や幻覚などの〈陽性症状〉は目だたず,能動性の減退と感情の鈍麻を主徴とし,自閉的で,独語・空笑がみられ,無為無関心の毎日を送る。経過は多く進行性で,3病型のうちでは予後もいちばん良くない。
この〈破瓜型〉と逆に,最も精神病らしい外観を呈するのは〈緊張型〉で,20歳前後から20歳代前半にかけてなんらかの誘因により急性に発症し,了解不能な激しい興奮(運動心迫)を示すかと思うと,昏迷に落ちこんで,わずかに強硬症(受動的にとらされた姿勢をいつまでもとりつづけること)や命令自動(命令されたとおりに従うこと)がみられるだけとなる。数週ないし数ヵ月で回復し,予後は必ずしも悪くないが,再発も多い。
〈妄想型〉は20歳代後半から30歳代にかけて現れ,文字どおり妄想,幻覚を主徴とし,多少とも体系立った被害妄想,ときに誇大妄想の世界をつくり上げる。治療により数ヵ月で回復することも少なくないが,なかには長期化して,数年の経過をたどる場合もある。
しかしこれら3病型は明瞭に区分しにくいことも多く,また同一病者に複数の病型が現れるなどの理由から,慢性進行性の中核的な統合失調症と予後の良い非定型分裂病に二分する立場もある。
分裂病の原因はなお不明だが,以前のように遺伝や素質だけを重視する見方は後退し,人格特性をふくめた状況的・環境的要因に注意をはらう立場が現在では一般化しつつある。発生頻度はあらゆる民族,あらゆる時代を通じ不変で,0.7~0.9%程度とされ,日本でも同様だが,1963年の全国調査以後は信頼できる統計がなく,近年の頻度に増減があるか否かは明らかではない。しかし,治療法の進展によって分裂病の回復率が高まったことは確かで,以前はせいぜい30%前後だった治癒率が,向精神薬(抗精神病薬)の使用,精神療法的対応,生活面の指導や援助などの適切な組合せで,今では60~70%程度に上昇している。この数字は早期発見と早期治療によりさらに高まるものと期待される。
分裂病に罹患したとみなされる人には,ドイツ・ロマン派の詩人F.ヘルダーリン,フランス・ロマン派の作家G.deネルバル,スウェーデンの自然主義作家J.A.ストリンドベリ,ロシアの短編小説家V.M.ガルシン,ノルウェーの画家E.ムンク,ロシアの舞踊家V.ニジンスキーなど芸術家も多い。彼らの場合,分裂病の体験が人間存在の深淵を自覚する契機となり,ひいては新たな芸術的創造へと導いていることはまちがいない。かつてK.ヤスパースは〈18世紀以前のヨーロッパの歴史では,その時代に対して文化的意義をもったのはみなヒステリー者で,統合失調症者はひとりも見られないが,19世紀以後,ヒステリーと統合失調症の役割が完全に入れかわった〉ことを強調した。このように近代の統合失調症は,人間の精神を崩壊と悲惨へ向かわせる一方で,創造と文化の高みへ導いてもいるといえる。
→躁うつ病
執筆者:宮本 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
●統合失調症は脳をはじめとした神経系に生じる慢性の病気である
統合失調症は、さまざまな刺激を伝えあう脳をはじめとした神経系が障害される慢性の疾患です。詳細は不明な部分もあるものの、ドーパミン系やセロトニン系といった、緊張リラックスを司る神経系や、意欲やその持続に関連する系列、情報処理・認知に関する何らかの系列にトラブルが起きているといわれています。
●特殊な病気ではなく、100人にひとりくらいの割合でかかっている人がいる
世界各国で行われたさまざまな調査により、統合失調症の出現頻度は地域や文化による差があまりなく、およそ100人にひとりは、かかった体験をもっていることがわかりました。これは、統合失調症が奇病の
●
急性期に生じる患者さんの感覚は「眠れなくなり、とくに音や気配に非常に敏感になり、まわりが不気味に変化したような気分になり、リラックスできず、頭のなかが騒がしく、やがて大きな疲労感を残す」、あるいは「自分のことが周囲の人に
誰も何も言っていないはずなのに、現実に「声」として悪口や命令などが聞こえてしまう「
これらの症状を「陽性症状」と呼びます。陽性症状は、安心感や安全保障感を著しく損ない、一度、症状が現れるとそこからの回復過程は緩やかで、十分な時間を必要とします。
●
一方、根気や集中力が続かない、意欲がわかない、
また、込み入った話をまとめてすることが苦手になったり、会話を快活に続けることに困難を感じたり、考えがまとまらなかったり、話が飛びやすくなったりして、しばしば、自分でいろいろなことを決めて生活を展開していくことが大変難しく感じられます。
これらの症状を「陰性症状」と呼びます。陰性症状は、なかなか症状として認知されづらく、怠けや努力不足とみられてしまう場合があります。
陰性症状を「症状」と理解して対応しなかった場合は、生活上のさまざまな失敗や挫折を招くことが多く、生活をしていく自信や「自分はやれている」といった自己効力感を損ないやすくなります。これが、リハビリテーションをしたり、社会生活を維持するうえで要点となるところです。
●薬物療法の進歩は目覚ましい
統合失調症の症状が、ドーパミン系やセロトニン系といった神経系で作用している神経伝達物質のアンバランスと関連が深いことが認められて以来、多くの治療薬が開発されてきました。とくに近年、第2世代の抗精神病薬と呼ばれる治療薬が開発され(リスパダール、ジプレキサ、ルーラン、セロクエル、エビリファイなど)、より好ましい成果をあげつつあります。
これらの薬の特徴は、陽性症状に効果があるばかりでなく陰性症状にも効果があるといわれていることと、
また、使用方法として、①原則として、1種類の薬で処方し、同じような効き目の何種類もの薬を重ねてのむような方法はとらないこと、②「適用量」があり、多量の処方は、副作用ばかりが増えて効果が増えるわけではなく、意味がないことが明らかにされています。
日本では、かつて多種類の薬物を大量に処方する習慣がありました。第2世代の抗精神病薬は、このような処方の方法論にも影響を与えています。
●地域のなかで普通に暮らすことがリハビリテーションの目標である
統合失調症にかかると、陽性症状や認知障害のため、「本人が病気であることを理解するのが難しい」といわれてきましたが、それは偏見です。適切な方法でていねいに伝えれば、病気の療養に必要な情報を患者さんに与えることはできます。
知ることや、病気への対処を学ぶことによって、そして病気を抱えながら生活する練習をすることによって、人は病気からの回復に進んで取り組めるようになります。
病気について本人や家族が理解することの最大のメリットは、再発に対して適切に対処する、あるいは再発を予防することが可能になることです。たとえばこの
また、対処や生活の練習は、症状の特徴として、「1を知って10を知る」というようにはなかなかなりません。生活の現場での具体的な工夫こそが意味をもちます。したがって、延々と入院しているよりは、早期に退院して生活を始め、生まれてくる課題についていろいろと工夫を重ねていくのがよいでしょう。
近年、日本でも「地域中心の精神医療」ということがいわれていますが、統合失調症の場合、生活の場で本人と家族、それに仲間や専門家が出会って、よりよい工夫を考える機会をつくることのメリットは、はかり知れません。
また、症状はしばしば慢性的に残存します。これを「障害」と呼びますが、障害の部分に対するサポートが行われることによって、また、本人の長所や得意な能力を伸ばすことによって、社会生活を楽しみ、維持する力が増す可能性が増えます。
障害がありながらも、サポートや工夫によって、地域社会のなかで「普通の人」として生活していけるようになることが、私たちの目指すあり方ということができるでしょう。
●長期予後では50%以上の人が回復したり軽度の障害のみですんでいる
以前から「統合失調症は予後不良である」とか、「人格が
チオンピ博士が1976年に行った30年の長期予後調査では、「回復」と「軽度」の障害の状態と判断された人が併せて49%にのぼっています。別の調査では、初回入院のあと5年間安定した生活を続けられた人の場合、68%がこの予後良好群に入るとの結果もあります。
さらに、適切な薬物療法とリハビリテーションが行われた場合は、回復の度合いはさらに良好です。ハーディング博士が1987年に実施した30年長期予後調査によれば、適切な薬物療法とリハビリテーションの組み合わせで40%の人が過去1年間に就労経験をもち、68%の人でほとんどの症状が消失し、73%の人が充実した生活を送っていると答えました。
伊藤 順一郎
遺伝子や
子どもの統合失調症は、急性の発症よりもゆっくりと発症してくることが多いといわれています。そのような場合では、数カ月から数年にわたって、不登校、強迫症状、うつ状態、摂食障害、問題行動、チックなどいろいろな症状が続いたあとに発症します。
発症後の症状は、
子どもの場合も大人と同じ診断基準を用いているため、診断には
検査は、脳の器質的な障害を除外したい場合には頭部CTあるいはMRI、脳波測定を行います。症状が少し落ち着いた段階で、各種の心理検査を行います。
薬物療法が中心になります。現在は、従来使用されてきたハロペリドールやクロルプロマジンではなく、より副作用の少ないリスペリドン(リスパダール)、オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)、ペロスピロン(ルーラン)、アリピプラゾール(エビリファイ)、ブロナンセリン(ロナセン)の6つの新しいタイプの抗精神病薬が、子どもでも第一選択薬になっています。
急性期を乗り越えたあとは、彼らが学齢期にあるために教育が新たな問題として浮上してきます。各地域の社会的な資源(教育・療育施設や社会福祉制度など)の利用も考慮に入れて、病状に合わせて医師や教師と相談していくことが重要です。
軽快・再発を繰り返すことが多く、慢性の経過をたどる病気です。長期戦を覚悟しなければなりませんが、発症の初期に適切な治療を行えば、その後の経過は比較的良好である場合が決して少なくありません。
まず専門医(児童精神科医)の診察を受け、薬物療法の内容について本人と親が納得するまで十分に説明を受けて、治療を開始することが大切です。社会復帰の時期についても、決して焦ることなく主治医と相談しながら進めていってください。
松本 英夫
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(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)
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