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現存在分析を創始したスイスの精神医学者ビンスワンガーの主著で,1957年に単行本の形で刊行された。5例の精神分裂病(統合失調症)のくわしい症例研究からなるが,30年代に著者が独自の人間学的方法を確立したのち,数十年にわたる臨床活動の総決算として44年から53年にかけて集成したもの。ここでは,分裂病は人間存在に異質な病態としてではなく,人間から人間へ,現存在から現存在への自由な交わりをとおして現れる特有な世界内のあり方として記述される。同時期の《失敗した現存在の三形式》(1956)とともに著者の分裂病論の頂点をなすだけでなく,ヨーロッパの分裂病研究史でも際だった位置を占めている。なお,邦訳は2巻本として1960年と61年に出た。
執筆者:宮本 忠雄
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…ロシアのペテルブルグに生まれ,ミュンヘン大学で医学を学び,1914年にチューリヒ大学医学部精神科に入ってE.ブロイラーに師事したが,第1次大戦ではフランス軍に従軍した関係で,その後はおもにパリで生活し,臨床と研究,専門誌の編集などに専念した。27年の《精神分裂病》はブロイラーの精神分裂病の概念をフランスに初めて紹介するとともに,分裂病の基本障害を〈現実との生ける接触の喪失〉としてとらえたことで有名で,その後の《生きられる時間》(1933),《宇宙論の方へ》(1936)と並ぶ精神病理学の古典的著作である。夫人のミンコフスカFrançoise Minkowska(?‐1951)もやはりロシア生れの精神科医で,癲癇(てんかん)の系譜学と性格学,ゴッホの病跡,ロールシャハ・テストの研究などで知られる。…
…理論的にはある精神障害の原因として家族が役割を果たしているかどうか,果たしているとすればどのような次元においてかが問われる。対象となるのはふつう内因性精神障害(精神分裂病と感情病ならびにその関連病態)と心因性精神障害(神経症ならびにその関連病態)であって,脳実質の障害に原因のあることが明らかな器質性,外因性,中毒性,老年性精神障害の場合にはその原因として家族を取り上げることはしない。精神分裂病や感情病や神経症の家族を取り上げるとき精神医学が問う次元は大きく分けて二つある。…
…神経症(ノイローゼ)と精神分裂病との境界もしくは中間に位置づけられるケースで,単に〈境界例borderline case〉とも略称される。執拗な心気傾向,強迫ないし恐怖,離人など神経症症状を前景としながら,妄想や被影響体験が混じったり,若年者の場合には各種の行動異常(暴力,薬物乱用,自傷行為など)が目だち,治療も時に難渋する。…
…これは個人的につくられた,すなわち私的な意味または音声をもった言葉であり,日常的な言語使用の規範からはずれている。臨床的には精神分裂病者にしばしばみられ,あるものは無意味であるが,あるものはわれわれの言語では適さない,病的な新しい体験を表現するためにつくられたものとして理解することができる。たとえばブロイラーによって報告された妄想患者は,幻覚によって影響される仕方を〈関係書類一式の道〉とよぶ。…
…幻聴に対して患者は不思議な,異様な感じをもつこともあるが(脳幹幻覚症のような脳の一部の障害による幻覚),多くは幻聴を信じ込んでおびえたり,怒ったり,耳をふさいだり,いわれるままに行動したりする。幻聴は精神分裂病に多く,被害的内容のため患者を悩ますもので,考想化声は精神分裂病に特徴的である。そのほか,慢性アルコール中毒(アルコール幻覚症),覚醒剤中毒(幻覚・妄想状態),症状精神病にもみられる。…
…進行麻痺の誇大型でも高揚した感情状態から誇大妄想が生じ,判断力などの知的能力の低下が加わって,グロテスクな内容になることが多い。精神分裂病にもしばしば出現するが,その発生は了解しがたく,被害的色彩をもつことが多い。妄想【小見山 実】。…
…精神医学で扱う自閉症には二つの場合が含まれる。すなわち,(1)精神分裂病に多く現れる症状,(2)幼児・学童にみられる重篤な対人関係障害と特異な行動異常を主徴とする症候群,の二つである。 E.ブロイラーは,従来早発痴呆と呼ばれていた精神病を観念の流れの連合の弛緩と感情における両価性(アンビバレンス)が基本症状であるとして精神分裂病と命名したのであるが,そのさい彼は,頭からすっぽりシーツをかぶり,人を避けるように壁に向かって頭を下げ,目をつぶっている重症の分裂病患者をモデルに〈内的生活の比較的あるいは絶対的優位を伴う現実離脱〉を自閉(症)と名づけた。…
…精神分裂病の一型で,破瓜期,つまり青春期に多く発病するところからこの名がある。始まりは緩慢で,特別な誘因もない。…
…〈精神分裂病Schizophrenie〉という用語を初めて打ち出したスイスの精神医学者。チューリヒ大学で精神科の第3代主任教授を30年間つとめ,多方面に国際的名声を博したが,なかでも1911年刊行の主著《早発痴呆または精神分裂病群》は,E.クレペリンが経過や転帰のいかんに即して構成した疾病概念を心理学的な症状論にもとづいて組みかえたものとして,広く深い影響を及ぼした。…
…こうした〈上昇と落下〉の現象学が具体的に躁病者のあり方に適用されたのが同じくビンスワンガーの論文《観念奔逸》(1931‐32)で,ここでは病者の世界が一つのまとまった意味あるものとして理解される。しかし,現存在分析が最も大きな意味をもったのは精神分裂病に対してであって,ここでもビンスワンガーのあげた功績は大きい。彼は5症例の克明な分析を1957年にまとめているが(《精神分裂病》),ここでは分裂病は,自然な経験の一貫性が破綻して,かたくなな二者択一に分裂し,これをひねくれやわざとらしさ,もしくは思い上がりで隠蔽しようとしながら,最後に力がつきて危機場面から身を引き上げてしまうといった現存在過程として理解される。…
…さらにハイデッガーの影響下でその現存在分析論Daseinsanalytikに立脚した人間存在の解明を試み,《夢と実存》(1930)を発表して,〈上昇と落下〉の人間学的本質特徴を描き出す。これ以後30年代の努力を経て現存在分析の方法をしだいに確立し,40年代に入ると《精神分裂病》(1944‐53)や《失敗した現存在の三形式》(1949‐56)を相次いで発表して,ドイツ語圏を中心とした精神医学に広範な影響をあたえた。晩年にはふたたびフッサールの後期の著述に関心を強め,それをもとに《メランコリーと躁病》(1960),《妄想》(1965)を発表するなど,最後まで研究者の姿勢を崩さなかった。…
※「精神分裂病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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