取り敢ふ(読み)トリアウ

デジタル大辞泉 「取り敢ふ」の意味・読み・例文・類語

とり‐あ・う〔‐あふ〕【取り敢ふ】

[動ハ下二]
余裕をもって取る。ちゃんと取る。多く、あとに打消しの表現を伴って用いる。
「蓑も笠も―・へで、しとどにぬれて惑ひ来にけり」〈伊勢・一〇七〉
前もって用意する。準備する。
「かねてしも―・へたるやうなり」〈胡蝶
ちょうどその場にある。また、当座に間に合わせる。
「―・へたるに従ひて参らせたり」〈松風
こらえる。耐える。
「木の葉よりけにもろき御涙は、まして―・へ給はず」〈・葵〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「取り敢ふ」の意味・読み・例文・類語

とり‐あ・う‥あふ【取敢】

  1. 〘 他動詞 ハ行下二段活用 〙
  2. 取りおおせる。取ることができる。しっかりと手に持つ。
    1. [初出の実例]「蓑も笠もとりあへで、しとどに濡れて惑ひ来にけり」(出典:伊勢物語(10C前)一〇七)
  3. 間に合うように取る。行なうのに時間的余裕をもつ。多くは下に打消を伴って、急ぐさま、あわただしいさまなどを表わす。
    1. [初出の実例]「このたびはぬさもとりあへずたむけ山紅葉の錦神のまにまに〈菅原道真〉」(出典:古今和歌集(905‐914)羇旅・四二〇)
  4. あり合わせてある。ちょうど持ち合わせる。また、その場にいあわせる。
    1. [初出の実例]「御ともの人は、とりあへけるに従ひて、京のうちの御ありきよりも、いとすくなかりつると」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
  5. 問題にしてとりあげる。関心を抱く。相手になる。
    1. [初出の実例]「取あへぬ返事に、かさねて寄添言葉もなく」(出典:浮世草子・好色一代女(1686)一)

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