胡蝶(読み)コチョウ

デジタル大辞泉 「胡蝶」の意味・読み・例文・類語

こちょう【胡蝶/蝴蝶】[書名・曲名]

源氏物語第24帖の巻の名。貴公子たちが求愛する玉鬘たまかずらに養父源氏までが懸想するさまを描く。
胡蝶楽」の略。
謡曲三番目物観世宝生金剛流。旅僧が梅を見ていると、胡蝶の精が現れ、梅花にだけ縁のないことを嘆くが、法華経功徳くどくの力で縁ができる。
長唄鏡獅子」の舞踊に登場する役名。前段と後段の間のつなぎに二人で登場して舞い、また後段では獅子ししに絡む。
蝴蝶山田美妙の小説。明治22年(1889)発表。壇ノ浦を舞台に、平家方の女房蝴蝶と、源氏方の間諜かんちょうとの悲劇を描く。

こ‐ちょう〔‐テフ〕【××蝶/××蝶】

昆虫チョウ別名 春》「夕日影町半まちなかにとぶ―かな/其角
紋所の名。チョウの形を図案化したもの。
[補説]作品名別項。→胡蝶

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精選版 日本国語大辞典 「胡蝶」の意味・読み・例文・類語

こ‐ちょう‥テフ【胡蝶・蝴蝶】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 昆虫「ちょう(蝶)」の異称。《 季語・春 》
      1. [初出の実例]「数群胡蝶飛乱空、雑色紛紛花樹中」(出典:文華秀麗集(818)下・舞蝶〈嵯峨天皇〉)
      2. 「胡蝶にもならで秋ふる菜虫哉〈芭蕉〉」(出典:俳諧・己が光(1692))
      3. [その他の文献]〔荘子‐斉物論〕
    2. 紋所の名。蝶の形を図案化したもの。
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ]こちょうらく(胡蝶楽)」の略。
      1. [初出の実例]「四人はこてう。左右に立ち出でて、いとをかしう舞ふに」(出典:宇津保物語(970‐999頃)楼上下)
    2. [ 二 ] 源氏物語第二四帖の名。光源氏三六歳の三、四月。六条院での舟楽(ふながく)、歌舞、季の御読経などを背景に、玉鬘(たまかずら)の周囲に懸想人が集まり、源氏までも懸想してしまうさまを描く。玉鬘十帖の第三。
    3. [ 三 ] 謡曲。三番目物。観世・宝生・金剛流。観世小次郎信光作。旅僧が都一条大宮近くの古宮で盛りの梅をながめていると、一人の女性が現われ、自分は胡蝶の精なのだが、早春に咲く梅花にだけ縁のないのが悲しいので御僧の読経によって成仏したいと言って消える。その夜、僧の夢の中に胡蝶の精が現われ、法華妙典の功力で梅花にも縁のできたことを喜び胡蝶の舞を舞う。
    4. [ 四 ] ( 蝴蝶 ) 小説。山田美妙作。明治二二年(一八八九)発表。忠義に縛られ恋を犠牲にする平家方の女房蝴蝶と、源氏の間諜の悲劇を描く。渡辺省亭の裸姿の挿画で話題をよんだ。

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改訂新版 世界大百科事典 「胡蝶」の意味・わかりやすい解説

胡蝶 (こちょう)

(1)雅楽舞楽の曲名。高麗(こま)楽にふくまれ高麗壱越(いちこつ)調。四人舞の童舞(どうぶ)。胡蝶楽,蝶ともいう。番舞(つがいまい)は《迦陵頻》。仏教の法会などで,2曲並んで舞われることも多い。4人の子供が山吹の花をつけた天冠をかぶり,《胡蝶》用の別装束(蝶の紋のついた袴と袍)を身にまとい,背中に蝶の羽をかたどったものを背負い,右手に山吹の花を持って舞う。かわいらしい舞姿の曲。平安時代,延喜8年(908)あるいは延喜6年ともいうが,宇多上皇が子供の相撲を見物したとき,藤原忠房(楽人)がこの曲を作曲,敦実(あつみ親王宇多天皇の子,琵琶を弾き,雅楽に造詣が深い)が舞をつけたという。この2人はほかに《延喜楽》も作舞したという。演奏次第は,《高麗小乱声(こらんじよう)》-《高麗乱声》(舞人登場,出手(ずるて))-《小音取(こねとり)》(高麗笛篳篥(ひちりき)の音頭による)-当曲(四拍子,拍子16)。当曲を奏している間に舞い終わり,舞人は退場する。蝶が飛びかう様を描くように手を振りながら舞台に輪を作り,くるくる回る。

(2)能の曲名。三番目物鬘物(かつらもの)。観世信光作。シテは胡蝶の精。旅の僧(ワキ)が都の古跡をたずね,今を盛りの梅の花をながめているところへ,1人の女性(前ジテ)があらわれる。実は胡蝶の精で,四季に咲く花と戯れることができるのに,早春に咲く梅の花だけは縁が薄いと嘆き,旅の僧の読経によって成仏したいと頼んで消え去る(サシ,クセ)。その夜,僧が回向すると夢の中に胡蝶の精(後ジテ)があらわれ,御仏の力により,梅の花とも遊ぶことができるようになったと喜び,胡蝶の舞を舞う(〈中ノ舞〉)。美しくかわいらしい曲である。《胡蝶》の詞章には,中国の《荘子》の胡蝶の夢物語や《源氏物語》の胡蝶の巻(舞楽《胡蝶》と《迦陵頻》に触れる)の文がとられている。
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普及版 字通 「胡蝶」の読み・字形・画数・意味

【胡蝶】こちよう(てふ)

蝶。〔荘子、斉物論〕昔(むかし)に胡蝶と爲る。栩栩然(くくぜん)として胡蝶なり。自ら喩(たの)しみて志に(かな)へる與(かな)、なるを知らざるなり。

字通「胡」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胡蝶」の意味・わかりやすい解説

胡蝶(能)
こちょう

能の曲目。三番目物。観世(かんぜ)、宝生(ほうしょう)、金春(こんぱる)、金剛(こんごう)四流現行曲。ただし金春は明治期の復曲。観世小次郎信光(のぶみつ)作。都に上った僧(ワキ、ツレ)が一条大宮の梅花に見入っていると、女(前シテ)が呼びかけて登場。自分が蝶(ちょう)の精であることを明かし、梅に縁のない身の上を嘆く。荘子(そうし)の夢のなかの胡蝶の話や、光源氏の胡蝶の舞の故事などを語って消える。後シテは、法華経(ほけきょう)の功徳で梅の花に戯れる胡蝶の精魂で、軽やかに喜びを舞う。一座の後見職にあった信光が、年少の大夫(たゆう)の練習曲として書いたとも伝える。小品の能だが澄んだ情緒をたたえる佳作である。

[増田正造]


胡蝶(雅楽)
こちょう

雅楽の曲名。別名「花持舞」、略して「蝶」ともいう。高麗壱越調(こまいちこつちょう)に属する楽舞で、童舞(どうぶ)四人舞。左方唐楽(とうがく)の童舞『迦陵頻(かりょうびん)』に対し、日本でつくられた番舞(つがいまい)である。醍醐(だいご)天皇の延喜(えんぎ)6年(906)または8年(908)に宇多(うだ)上皇が童相撲(わらべずもう)を御覧になる際、勅命によって山城守(やましろのかみ)藤原忠房(ただふさ)が作曲し、敦実(あつみ)親王が作舞したといわれる。舞人の稚児(ちご)らは、頭上の天冠(てんがん)には山吹の花、背には蝶の羽をつけ、右手に山吹の小枝を持って舞う。高麗乱声(らんじょう)により登台して「出手(ずるて)」を舞い、当曲で胡蝶の飛び交うさまを舞い、最後には大きな輪をなし実際に飛びながら順次退出する。『迦陵頻』とともにその可憐(かれん)さを尊ばれ、四箇(しか)法要の献供作法にもしばしば取り入れられる。

[橋本曜子]

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デジタル大辞泉プラス 「胡蝶」の解説

胡蝶

宝塚歌劇団による舞台演目のひとつ。1914年、宝塚新温泉内パラダイス劇場にて行われた宝塚少女歌劇団養成会第一回公演で初演された。ダンス作品。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「胡蝶」の解説

胡蝶
〔長唄〕
こちょう

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
明治40.6(東京・歌舞伎座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

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