…さらに,文献や資料を実感的に把握するために,民俗学者としての信夫の知識や民俗的現場の実感が動員せられ,ついに民俗学的国文学といわれる〈折口学〉が打ちたてられるにいたるのである。主著《古代研究》3巻は,1929‐30年に,〈国文学篇〉,〈民俗学篇〉(2冊)が相次いで出された。〈国文学篇〉のなかの主論文〈国文学の発生〉は,神々と古代の村落共同体との交渉の中に文学の発生をきわめようとして,〈まれびと〉=神の来訪とその神授の呪言(じゆごん)なるものをそこに見いだしている。…
… 国文学関係では《古事記》等の文献の内部分析が武田祐吉や高木市之助らによって進められ,倉野憲司,西宮一民の注解や土橋寛,益田勝実らの研究,小林芳規らの国語学的成果となって現れている。さらに折口信夫の《古代研究》3巻(1929‐30)は詩的直観力によって古代的世界とじかに交感しようとするものであった。また西郷信綱は人類学等の隣接諸科学の成果を取り入れて,〈作品〉としての《古事記》の文脈を尊重しながら,神話を構造的に読み解いて《古事記の世界》(1967),《古事記研究》(1973),《古事記注釈》(1975‐89)を著した。…
…また英文学者土居光知の《文学序説》(1922),哲学者和辻哲郎の《日本精神史研究》正続(1926,1935)にみられる幅広い視野からの照明,哲学者阿部次郎の《徳川時代の芸術と社会》(1931)での西鶴,近松への斬新な理解等々は,いずれも日本文学に世界の風を吹きこむ役割を果たした。さらに明治期にはじまる柳田国男の一連の民間伝承研究(《昔話と文学》1938,《民謡覚書》1940など),その影響下に成った折口信夫《古代研究》3冊(1929‐30)が,日本文化・文学の基層に光をあてた業績として特記さるべきであろう。これらと前後しての,岩城準太郎《明治文学史》(1906),伊原敏郎《日本演劇史》(1904),高野辰之《日本歌謡史》(1926),五十嵐力《国歌の胎生及び発達》(1924)や,昭和に入ってからの能勢朝次《能楽源流考》(1938),黒木勘蔵《浄瑠璃史》(1943),久松潜一《日本文学評論史》5冊(1936‐50)など,時代史,ジャンル史の著述は研究の多様な分化・展開を示している。…
※「古代研究」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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