化学辞典 第2版 「塩化ヒ素」の解説
塩化ヒ素
エンカヒソ
arsenic chloride
ヒ素の塩化物には,比較的安定な塩化ヒ素(Ⅲ)のほかに,塩化ヒ素(Ⅴ)も知られているが,同族元素の酸化数5の塩化物,PCl5やSbCl5が比較的安定なのに比べてきわめて不安定である.【Ⅰ】塩化ヒ素(Ⅲ)(arsenic(Ⅲ) chloride):AsCl3(181.28).三塩化ヒ素(arsenic trichloride)ともいう.三酸化二ヒ素As2O3に濃塩酸を作用させるか,ヒ素と塩素の直接反応により得られる.室温では無色の油状液体で,ヒ素バターともよばれる.結晶中にAsCl3分子が存在する.分子はAsを頂点とする三角すい型構造で,As-Cl2.165 Å.∠Cl-As-Cl98.6°.融点-16 ℃,沸点130 ℃.密度2.16 g cm-3.空気中で発煙する.多量の水で加水分解して,亜ヒ酸と塩酸になる.陶磁器工業,有機合成などに使用されるほか,精製したきわめて高純度なものが半導体製造原料として用いられる.刺激臭があり,皮膚,粘膜をおかす.有毒.[CAS 7784-34-1]【Ⅱ】塩化ヒ素(Ⅴ)(arsenic(Ⅴ) chloride):AsCl5(252.18).五塩化ヒ素(arsenic pentachloride)ともいう.AsCl3を-150 ℃ の液体塩素中で紫外線照射すると得られる.きわめて不安定な結晶である.-50 ℃ 以上で分解して,AsCl3と Cl2 になる.[CAS 22441-45-8]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報