紫外線(読み)シガイセン(その他表記)ultraviolet rays

デジタル大辞泉 「紫外線」の意味・読み・例文・類語

しがい‐せん〔シグワイ‐〕【紫外線】

可視光線スペクトルの紫色部より外側にあって、目には見えない光線。波長は1~380ナノメートル程度で、可視光線より短く、X線より長い。太陽光線・水銀灯の中に含まれ、殺菌作用をもつ。また大気中の酸素と反応してオゾンを発生する。化学線。菫外きんがい線。UV(ultraviolet)。ウルトラバイオレットレイ
[補説]波長により近紫外線遠紫外線極紫外線の三つに分けられる。また、近紫外線はさらにUVA(A波)・UVB(B波)・UVC(C波)に分けることもある。
[類語]放射線放射能宇宙線赤外線熱線遠赤外線可視光線アルファ線ベータ線ガンマ線エックス線レントゲン線

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精選版 日本国語大辞典 「紫外線」の意味・読み・例文・類語

しがい‐せんシグヮイ‥【紫外線】

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] ultraviolet rays の訳語 ) スペクトルが可視光線の紫部より短波長側にある光線。その波長はX線よりは長く約三九七〇から数十オングストロームの電磁波。目には見えないが太陽光線中に含まれ、殺菌、日焼けや体内のビタミンD生成などの生理作用や化学作用がある。また、水銀灯からも発生する。菫外線(きんがいせん)。化学線。〔新しき用語の泉(1921)〕

紫外線の語誌

一八〇一年、ドイツの化学者リッターによって発見された。明治二、三〇年代には、「紫外線」のほか、「化学線」「舎密線(せいみせん)」などの語が使われていたが、次第に「紫外線」と「化学線」に集約されていく。大正時代になると、新たに「菫外線」が使われはじめ、結局「紫外線」が訳語として定着するのは、昭和の初めごろのようである。

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改訂新版 世界大百科事典 「紫外線」の意味・わかりやすい解説

紫外線 (しがいせん)
ultraviolet rays

可視光の短波長端(波長約400nm)からX線の長波長端(定義は明確でないが波長10nm程度)に至る範囲の波長をもつ電磁波の総称。光のスペクトルでいうと,紫色の外側に相当するのでこの名がある。区分はまちまちであるが,波長が300nmより長い領域を近紫外線,200nmより短い領域を遠紫外線ということもある。紫外線の波長範囲は,光子エネルギーに直すとほぼ3eVから100eVとなるが,このエネルギーは,分子を解離させ化学反応を誘起したり,原子や分子を電離したり,一部の内殻電子を励起したりするのに十分な値である。このように紫外線は物質との相互作用が強く,いろいろな形でそのエネルギーを失いやすい。やや波長が短い紫外線に対しては透明な物質はほとんどなくなり,また金属の反射率も紫外線に対しては急激に落ちてくる。このためレンズ,窓,フィルター,鏡などで,広い波長範囲で良好な特性をもつ光学器材を得ることは困難である。紫外線の発見は,1801年にドイツのリッターJohann Wilhelm Ritter(1776-1810)が,太陽光のスペクトルの可視部分より短波長側に,塩化銀を黒化させる作用をもつ部分があることを見いだしたのが最初とされている。

実験技術上,紫外線に対しては便宜的な波長区分がよく用いられる。水晶は200nm付近までは透明で紫外線用の光学材料として用いられるのでだいたい300nmから200nmの範囲を水晶領域という。さらに短い波長領域では酸化アルミニウムAl2O3が141nm,フッ化バリウムBaF2が135nm,フッ化カルシウム(蛍石)CaF2が123nm,フッ化マグネシウムMgF2が110nm,フッ化リチウムLiFが104nmまで比較的よい透過特性を示す。すなわち100nm程度までは,紫外線に対して結晶の窓が使用でき,200nmから100nmの範囲をシューマン領域と呼んでいる。波長が100nm以下になると薄い金属膜などが透過材として用いられるが,力学的強度は弱く,これで作った窓は大気圧には耐えられない。だいたい100nmから30nmの範囲を極紫外領域ということもある。この領域までは回折格子に垂直に近い角で紫外線を入射させる直入射型の分光器が使用できるが,これ以下の波長になると,格子面すれすれに光を入射させる,いわゆる斜入射型の分光器でないと良好な反射率が得られない。回折格子分光器の使用できる限界は2nm程度である。波長が185nmより短くなると窒素の強い吸収が現れ,このためこれより短い紫外線の実験は真空容器の中で行わなければならず,真空紫外領域とも呼ばれる。なお,地上に達する紫外線は近紫外の領域に限られるが,これは高層の空気中の酸素分子O2が波長240nm以下の紫外線を,またオゾンO3が1100nm以下の紫外線を吸収するためである。

紫外線の一般的な光源としては,水素,希ガス,水銀などの放電管,炭素アーク灯,火花放電などが用いられてきた。これらの光源の多くは可視から近紫外の領域で強い光を発し,例えば水素放電管では560nmから168nmの範囲の強い連続スペクトルと100nm付近の多数の線スペクトルとが得られる。最近では紫外域で多くのレーザー光源が開発されており,線スペクトル光源としては,窒素レーザー(337nm),カドミウムレーザー(325nm),フッ化クリプトンエキシマーレーザー(250nm),キセノンエキシマーレーザー(175nm),水素レーザー(165nmから110nmの範囲で約200本)がある。また波長可変レーザーとしては窒素レーザー励起の色素レーザーが360nmから可視域にわたって,またフッ化クリプトンレーザー励起の色素レーザーが320nmから370nmの範囲で発振する。実用に供される紫外レーザーの多くはパルス的動作しか行えないが,尖頭出力は数十kWから数百kWに及ぶ。このほか,レーザー光の特徴を生かした光混合の技術を使ってより短い紫外線(波長数十nm程度まで)も発生されており,赤外から紫外,X線領域にわたる強力な光源として,シンクロトロン放射の利用も注目されている。

 紫外線の検出には,紫外線が引き起こす光電効果や,光化学反応を利用した光電管,写真乾板,また内部光電効果や光励起を応用した光起電池,蛍光体などが用いられ,前述のように紫外線は物質との相互作用が強いので,一般に検出感度は高い。
紫外線検出器

物質に紫外線を照射すると,紫外線を吸収した物質は高い励起状態に遷移するか,解離または電離を起こし,物質によっては吸収したエネルギーをその物質特有の蛍光として放出する。この蛍光を利用した身近なものが蛍光灯であり,またこの性質は宝石の鑑定,カビの検出などにも利用されている。紫外線は光化学作用も強く,印刷物などの色素の分解による退色,酸素からのオゾンの生成,殺菌作用,生体におけるビタミンDの生成,皮膚の黒化などはこの作用によるものである。物理や化学の研究面では,原子,分子,結晶の分光学的研究のための光源として用いられ,とくに分子の場合は可視域にほとんど吸収を示さないため,紫外線は分子の電子励起状態の研究に不可欠なものとなっている。紫外線による蛍光の研究からは,高い励起状態の緩和など動的性質が調べられ,紫外線励起による解離,電離状態から化学反応や放電を誘起することにも用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「紫外線」の意味・わかりやすい解説

紫外線
しがいせん
ultraviolet rays

目に見える光の波長領域に続き、その短波長側にある電磁波。1801年、ドイツの化学者J・W・リッターが、太陽光スペクトルで紫の外側(短波長側)に、塩化銀をより強く黒化させる力をもつ光の存在することを確認し、紫外線を発見した。可視光線の波長は、720ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)から380ナノメートルの範囲であるから、380ナノメートルより短い波長の光が紫外線である。さらに200ナノメートルより短い波長の光は、空気によって強く吸収されるので、真空中でしか取り扱うことができず、真空紫外線(または遠紫外線)とよばれる。紫外線は、可視光線よりも量子としてのエネルギーが大きく、化学作用や生理作用が強い。たとえば、水銀灯から出る波長253.7ナノメートルの紫外線は、殺菌光線として使われているが、生理作用が強いので、直接裸眼で見たりすると、急性角膜炎となり、目が痛むことがある。真空紫外線は、空気ばかりでなく、ほとんどすべての物質によって強く吸収され、物質中の電子を励起したり、物質から電子を放出させたりする。一般に、固体物質が高温になると、初め赤熱状態となり、次に白熱状態になり、さらに高温になると青みがかって輝くようになる。これは、表面から放射される光の分布が、しだいに短波長側に寄ってくるためで、絶対温度2000Kくらいになると、紫外線も強く放射される。したがって、溶接作業などではかならず保護眼鏡を必要とする。太陽は、表面温度が絶対温度5000Kにもなっているので、当然紫外線も強く放射されている。地球の地表には、300ナノメートルより波長の短い紫外線はきていない。これは、上層大気中にあるオゾンによって紫外線が吸収されるためである。ただし、人工衛星や宇宙船ではオゾン層の保護がないので対策を必要とする。300ナノメートルより長い波長の紫外線でも、長時間皮膚をさらすと日焼けをおこすことがある。

 なお、生理的作用によって、近紫外線(波長200~380ナノメートル)はA(波長315~380ナノメートル)、B(波長280~315ナノメートル)、C(波長200~280ナノメートル)に分類される。デオキシリボ核酸(DNA)の吸収がある波長250ナノメートル付近の紫外線は、癌(がん)発生の原因となる。200ナノメートル付近の紫外線は、吸収が大きく、皮膚の内部にまで滲入しないので、眼科の治療などに利用される。

[尾中龍猛・伊藤雅英]

『『ニュートンムック 光とは何か?』(2010・ニュートンプレス)』

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百科事典マイペディア 「紫外線」の意味・わかりやすい解説

紫外線【しがいせん】

波長範囲が可視光線とX線の間にある(約1nm〜400nm)電磁波。1801年J.W.リッターが塩化銀の黒化作用から太陽光中に発見。波長300nm以上を近紫外線,200nm以下を遠紫外線という。ふつうのガラスは紫外線をほとんど通さないが,水晶,塩化カリウム,水,空気等は可視部から約200nmまで,また蛍石は120nmまでを通す。水銀放電灯,鉄または炭素アーク灯,水素・キセノン・ヘリウム等の放電管などを光源とし,蛍光(けいこう)板,写真乾板,光電管光電池等で検出する。可視光線より波長が短く光子のエネルギーが大きいため,蛍光・光電効果・写真・化学・生理等の諸作用が強く,一名化学線とも呼ばれる。蛍光作用は蛍光灯・宝石鑑定等に利用され,また物質の紫外線に対する反射率が可視光線の反射率と異なることを古文書鑑定・犯罪捜査等に利用する。生理作用は日焼けや体内のビタミンD生成の原因となり,また殺菌や紫外線療法に用いられる。過度に紫外線にさらされるとやけどや皮膚癌の原因ともなりうるので,注意が必要。太陽光は強い紫外線を含むが,上層大気の酸素・窒素・オゾン等に吸収される。酸素や窒素の分子は遠紫外線を吸収して原子に解離し,オゾン層電離層等をつくる。
→関連項目可視光線蛍光顕微鏡殺菌灯雪眼炎太陽太陽灯電磁波日焼けUVカット商品

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化学辞典 第2版 「紫外線」の解説

紫外線
シガイセン
ultraviolet rays, ultraviolet light

可視光の短波長限界である約390 nm(光量子のエネルギー3.2 eV)以下の短波長の光をいう.理論上は紫外線の短波長側はX線に続くが,波長が短くなるにつれ,紫外線を透過する材料が制限されて実験は困難となり,光化学ではだいたい100 nm(12.4 eV)が限界である.波長領域によりいろいろの区分がなさているが,必ずしも厳密でなく,人により異なる.しかし,390~200 nm を近紫外線,あるいは単に紫外線といい,200 nm 以下を真空紫外線あるいは遠紫外線ということが多い.また,真空紫外線のうちの長波長領域を歴史的にシューマン線ということもある.一般に,紫外線のエネルギーは分子の電子的励起や結合切断を行うに十分であり,分子の電子スペクトルや光化学の研究にきわめて重要である.光化学用紫外光源としては,近紫外線に対しては各種の水銀灯がもっとも広く用いられ,真空紫外線用には希ガス入り放電管がおもに用いられる.また,吸収スペクトル用連続光源としては水素放電管がおもに用いられる.一方,地上の太陽光線(300 nm 以上)に類似した波長分布をもつものとしては,ある種の蛍光灯(ブラックライトなど)やキセノン灯が用いられる.最近は広い紫外領域にわたる強力な連続光源として,シンクロトロン放射の利用が試みられている.人体に生理作用のあるのは太陽光線中の最短波長の300 nm 付近であり,古来ドルノ線とよばれている.殺菌灯は蛍光灯と類似の構造をもつが,蛍光体のかわりに紫外線透過ガラスを用いた水銀灯の一種で,254 nm の水銀線の一部を通す.眼には有害.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「紫外線」の意味・わかりやすい解説

紫外線
しがいせん
ultraviolet ray

菫外線ともいう。スペクトルの紫より短波長側にある不可視光線で,400nm以下の光である。可視光線より波長が短く,X線より波長の長い電磁波で,波長 190nm以下の領域を特に真空紫外線と呼ぶ。ほとんどの光化学変化は紫外線によって引起される。研究上用いられる紫外線の光源としては水銀灯水素放電管,キセノン放電管などがあり,検出には光電池,光電子増倍管,写真乾板などを用いる。

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栄養・生化学辞典 「紫外線」の解説

紫外線

 可視光線より短波長側の電磁波で,通常400nm〜1nmのもの.可視部に近い比較的波長の長いものが近紫外線,可視部から離れた比較的波長の短いものが遠紫外線.

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毛髪用語集 「紫外線」の解説

紫外線

紫色より短い波長の光。日焼け等を起こさせたり、殺菌作用もある。また、皮膚癌を誘発する恐れもある。

出典 抜け毛・薄毛対策サイト「ふさふさネット」毛髪用語集について 情報

世界大百科事典(旧版)内の紫外線の言及

【宇宙環境】より

…実際の人工衛星の飛行高度は,低いものでもその近地点高度は150km程度だが,熱圏を飛行する場合には,同様に大気による抗力を受け,また大気の流れの影響も受けるため,徐々にエネルギーを失っていき,最後には濃い大気に突入する。
[宇宙空間での人間活動と宇宙環境]
 宇宙空間での人間活動に関する環境を考えるとき,人間の永久居住は20年または30年後の研究課題であるから,太陽活動の変動までを考慮する必要は当分なく,現実的な問題となるのは紫外線,X線,宇宙線,宇宙塵,無重量状態などである。紫外線は生物の皮膚に紅斑を生じさせたり結膜炎を発生させる原因となり,有人宇宙船の飛行高度では人間の皮膚が太陽からの紫外線にさらされると,地上の10~50倍の速度で紅斑ができるといわれるが,宇宙船および宇宙服の窓材料を適当に選べば,紫外線を宇宙船内の人間まで通過させなくすることは容易である。…

【オゾン層】より

…中心付近の密度はおよそ5×1012分子・cm-3で,鉛直気柱内の全量は平均8×1018分子・cm-2(0℃,1気圧において0.3cmの厚みに相当)である。オゾンは波長200~300nmの紫外線を強く吸収するので,生物細胞中の核酸を壊してしまう太陽紫外線放射が地上に侵入するのを防いでくれる。それゆえに,オゾン層は地上生物の生存にとって不可欠の存在である。…

【癌】より

…妊婦や乳幼児は,X線検査等はなるべく避けるべきである。 紫外線も皮膚癌をつくる。白人は有色人種に比してとくに感受性が高いが,太陽光線の強い熱帯地方に近い住民ほど皮膚癌の発生率が高くなっている。…

【電磁波】より

…これを電磁波という。電磁波はその波長によって,一般に波長がmm程度以上のものを電波,それより短く1μm程度までを赤外線,0.7μmから0.3μm程度までを可視光,さらに短く数nmまでを紫外線,若干重複して10nmから1pmの範囲をX線,10pmより波長の短い電磁波をγ線と呼んでいる。重複している部分は,電磁波を発生するメカニズムに応じて呼称を変えているのがふつうで,また電波を電磁波と同義に用いることも多い。…

※「紫外線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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