夜と霧(読み)よるときり

改訂新版 世界大百科事典 「夜と霧」の意味・わかりやすい解説

夜と霧 (よるときり)

V.E.フランクルが自分自身の体験をもとに書いたナチスの強制収容所の記録で,ドイツ語の原題は《Ein Psycholog erlebt das Konzentrationslager》。第2次大戦後の1947年に刊行されて人々の感動を呼んだ。ユダヤ人であった彼はナチス・ドイツの手で悪評高いアウシュビッツ(厳密には,その支所)に収容されたが,その時のなまなましい体験を速記記号でひそかに小さな紙片に書き残し,解放後これらを本書のような形にまとめあげた。《夜と霧》は邦訳書の表題で,政治犯の容疑者を家族ぐるみ一夜にして消すというナチスの秘密指令に由来する。本書はしかしアウシュビッツの地獄をただ客観的に叙述したものではなく,原題が示すように,〈一心理学者の体験〉を通して強制収容所という限界状況に生きる人間の姿を鮮烈に描き出したところに大きな意義があり,読者の心を今なお引きつけてやまない理由もまたそこにある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の夜と霧の言及

【フランクル】より

…実存分析を創始したオーストリアの精神医学者。ウィーン大学医学部を卒業後,精神分析を学んだが,第2次大戦中ユダヤ人であるという理由で両親,妻,2人の子どももろとも逮捕され,アウシュビッツの強制収容所へ送られて,苦しみの日々を体験し,この記録(邦訳名《夜と霧》)を戦後に刊行(1947)した。学問的には,S.フロイトの精神分析とA.アードラーの個人心理学を止揚して,人間を自由と責任ある存在としてとらえることにより,独自の実存分析Existenzanalyseとその治療論としてのロゴテラピーLogotherapieを唱え,新ウィーン学派と呼ばれたが,その基底には人間存在を構成する身体‐心‐精神という3次元のうち精神的次元を重視する姿勢がよこたわる。…

※「夜と霧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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