オーストリアの精神医学者。ウィーンに生まれる。ウィーン大学神経科教授、ウィーン市立総合病院精神科部長、さらにカリフォルニア州サン・ディエゴにおいて合衆国国際大学教授を務めるとともに、ロゴテラピー研究所を主宰した。フロイト、A・アドラーに師事するが、実存主義、とりわけヤスパースの影響を受け、最初「実存分析」、のちにはロゴテラピーLogotherapieとよぶ独自の人格的心理療法を提唱した。彼によれば、精神分析や行動主義は神経症を心理・身体次元の因果関係に還元して解釈するが、これは一面的であり、人格次元において把握されるべきであるという。すなわち、人間は状況に束縛されつつも、状況を選ぶ自由をもち、それゆえ人生の意味を求める選択と責任とが生ずるという。かくて治療においては、意味を求める人間として医師と患者との真剣な人格的交わりが必要であると説く。『夜と霧――強制収容所における一心理学者の体験』(1947)は、第二次世界大戦中ユダヤ人として自らが体験したナチスの強制収容所の記録であるとともに、限界状況における人々の心理分析によって彼のロゴテラピー理論の基礎となっている。
[小池英光]
『霜山徳爾訳『夜と霧』新装版(1985/新版・池田香代子訳・2002・みすず書房)』▽『V・フランクル著、真行寺功訳『苦悩の存在論――ニヒリズムの根本問題』新版(1998・新泉社)』
実存分析を創始したオーストリアの精神医学者。ウィーン大学医学部を卒業後,精神分析を学んだが,第2次大戦中ユダヤ人であるという理由で両親,妻,2人の子どももろとも逮捕され,アウシュビッツの強制収容所へ送られて,苦しみの日々を体験し,この記録(邦訳名《夜と霧》)を戦後に刊行(1947)した。学問的には,S.フロイトの精神分析とA.アードラーの個人心理学を止揚して,人間を自由と責任ある存在としてとらえることにより,独自の実存分析Existenzanalyseとその治療論としてのロゴテラピーLogotherapieを唱え,新ウィーン学派と呼ばれたが,その基底には人間存在を構成する身体-心-精神という3次元のうち精神的次元を重視する姿勢がよこたわる。のちに,アメリカのサン・ディエゴにもロゴテラピー研究所をつくるなど,その活躍は多方面にわたり,日本にも招かれて講演したことがある。《神経症》(1956),《精神医学的人間像》(1959)など主要な著書にはおおむね邦訳がある。
→実存分析
執筆者:宮本 忠雄
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…とはいえ,精神分析では,愛の基底に性衝動(リビドー)の発達過程を想定しており,したがって〈愛〉というより〈性愛(セクシュアリティ)〉と呼ぶのがふさわしく,こうした考え方に対して,フロイトは〈愛〉のなかに性欲の二次的上部構造しか見ていないというM.シェーラーの批判や,彼の自然科学的・機械論的体系が〈愛〉をはじめから奇形化してしまったというM.ボスの反論などもある。 シェーラーやボスをふくめて〈愛〉を人間と人間の人格的な関係とみるのが現象学派や人間学派で,たとえば実存分析のV.E.フランクルによると,〈愛する〉とは,交換可能で無名(アノニム)な対象でなく,〈汝〉と呼べる相手の価値をその一回性と独自性において肯定することを指し,その意味で〈愛は盲目〉などでありえない。こうした〈我〉と〈汝〉を結ぶ愛の両数的様態はL.ビンスワンガーでも強調され,すなわちこの様態のなかで〈我〉と〈汝〉はともにみずからの豊かな可能性を実現するだけでなく,世界の無限性と永遠性に参与すると説かれる。…
…《夜と霧》で知られるオーストリアの精神医学者フランクルが第2次大戦後にとなえた学説。人間存在の基盤としての責任性と倫理性に着目しながら,人生の意味と価値を分析していくところに本質があり,その治療理念としてロゴテラピーLogotherapieが生まれた。…
…V.E.フランクルが自分自身の体験をもとに書いたナチスの強制収容所の記録で,ドイツ語の原題は《Ein Psycholog erlebt das Konzentrationslager》。第2次大戦後の1947年に刊行されて人々の感動を呼んだ。…
※「フランクル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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