改訂新版 世界大百科事典 「安房神社遺跡」の意味・わかりやすい解説
安房神社遺跡 (あわじんじゃいせき)
千葉県館山市に鎮座する安房神社を囲繞(いによう)する丘陵裾の諸所にあいた水食洞窟の一つで,1932年の発掘調査により,古墳時代初頭と考えられる人骨22体以上が発見された。洞窟は長さ6m,幅は最大2mほどで,奥壁から支窟へも通じている。内部に堆積した黒色土の下底部から人骨がまとまって出土したが,埋葬された状態を示すものではないらしい。このうち15体の成人骨に抜歯の風習がみられ,これらは上顎の第2切歯と犬歯,下顎のすべての切歯を除去する手法に統一されている。洞窟の入口近くには180個のタマキガイ製の貝輪を含む計200個の貝輪と黒色土中から猪,鹿などの獣骨,鳥骨,魚骨,貝類などが多数出土し,木炭,灰とともになかには火中した遺物も見られる。また滑石小玉3個と,4~5世紀の土師器(はじき)もともに出土しており,埋葬人骨の年代を示すものとみられるが,このころの抜歯の風習はきわめて珍しい。
執筆者:工楽 善通
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報