遺物(読み)いぶつ

精選版 日本国語大辞典 「遺物」の意味・読み・例文・類語

い‐ぶつ ヰ‥【遺物】

〘名〙
死者先人などがのこしたもの。遺品。かたみ。ゆいもつ。
親元日記‐文明一三年(1481)一〇月二五日「父若狭守為遺物刀一腰〈国重進上
後世への最大遺物(1894)〈内村鑑三〉一「後世への最大遺物の中で」
忘れ物。落とし物。遺失物。〔宋史‐李穆伝〕
③ 昔のもので現在まで残っているもの。遺跡から出た大昔品物など。また、比喩的に、時代おくれの物事をもいう。
※大森介墟古物編(1879)〈矢田部良吉訳〉総論「此僅々の遺物と雖も既に就て一旦巧拙の度を審にせば

ゆい‐もつ【遺物】

〘名〙 死者などがのこした物。遺品。かたみ。いぶつ。ゆいもの。
源平盛衰記(14C前)四一「彼御鏡は、先日御遺物(ユイモツ)兵衛佐局御尋ありけるに」

ゆい‐もの【遺物】

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デジタル大辞泉 「遺物」の意味・読み・例文・類語

い‐ぶつ〔ヰ‐〕【遺物】

遺跡から出土・発見された、過去文化を示す物品考古学では、遺跡のうち、生活のための道具器具武器装身具など動産要素をさす。
今に残る昔のもの。また、時代遅れのもの。「前世紀の遺物
死後に残したもの。遺品。形見。ゆいもつ。「故人の遺物を整理する」
落とし物。忘れ物。遺失物
[類語]遺髪遺品形見遺骨

ゆい‐もつ【遺物】

いぶつ(遺物)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「遺物」の意味・わかりやすい解説

遺物
いぶつ

過去の人間の残した物的資料、または人間の活動を表す物的資料であって、その存在している場所を移しても、本来のそれ自体の価値を失わないものを遺物とよぶ。したがって、古墳の石室や窯跡(かまあと)などのような移築が可能なものでも、動かすことによって著しくその価値を損なうものは遺物とはいえない。遺物は、石器、土器、木器、金属器など材質による分類と、飲食器、武器、祭器、農工具など用途による分類、あるいは容器、利器などその機能による分類が行われている。また遺物には、直接人間の手になるものだけでなく、当時の環境を知る手だてとなる植物・動物遺体、および人間の排泄(はいせつ)物、そして人間の遺骸(いがい)自体もこれに含まれる。

[植山 茂]

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世界大百科事典 第2版 「遺物」の意味・わかりやすい解説

いぶつ【遺物】

過去の人間活動の所産で,動産的性格を有し,現在では本来の機能をはたしていないものをいう。遺物は通常地下に埋没しており,発掘によって遺跡から検出されるものが多い。しかし,地上で伝世されたものもある。正倉院宝物は伝世された奈良時代の重要な遺物の一群である。遺物は多く人間が自然物を加工し,あるいはそれを素材にして製作したものだが,食物残滓や運搬交易等によって遠くからもたらされた動植物や鉱物など,人間活動の所産であっても,人間による加工品・製作品とはいいがたい自然の産物も含まれる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遺物」の意味・わかりやすい解説

遺物
いぶつ
remain

人間が生活して残した痕跡のうち,持運びが可能なものをいう。遺跡に持込まれた遺物のなかで,人間が加工したことが明らかなものを人工遺物といい,人間の活動や行為にかかわるが,加工の跡が確認できないものを自然遺物という。人工遺物は通常,材質により土器,石器,金属器,骨角器,木器のように分類されるが,機能により容器,農具,工具のように分類されることもある。考古学は人工遺物を分析し,編年という時間と空間のものさしをつくることに研究の中心があったが,近年,自然遺物からも,生活が復元されるようになった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「遺物」の解説

遺物
いぶつ

過去に人類(集団)がかかわって残した「モノ」の総称。考古学研究に欠かせない基礎資料。広い意味では遺構をも含むが,一般的には建造物や構造物のように固定されたものを除く動産的な「モノ」をさすことが多い。大別して人工遺物と自然遺物がある。人工遺物は各種の器物・道具など加工されたもので,材質によって土器・石器・木器・金属器・骨角器などに分類される。自然遺物は動植物や昆虫・魚介類などの遺存体をいう。

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百科事典マイペディア 「遺物」の意味・わかりやすい解説

遺物【いぶつ】

一般に人類の残した過去の物質をさすが,考古学では遺構に対して,形体が小さくて位置が容易に変更され得るもの,位置を変更移動しても存在価値がほとんど変わらぬものをさす。材質,用途などによって石器・木器・銅器,あるいは木工具・農具・武器などと分類される。→遺跡

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世界大百科事典内の遺物の言及

【遺跡】より

…現在,日本では26万4000ヵ所の遺跡が保護の対象として登録されているが,そのうちほぼ半分近くが地上に顕在している遺跡である。 遺跡は不動産的性格をもつ遺構と動産的な遺物から構成されている。また,遺構と遺物が一定の空間的関係を維持している状況を遺跡とする考えもある。…

【考古学】より

…考古学のもう一つの萌芽はヨーロッパ先史時代の研究である。1820年ころ,C.J.トムセンはコペンハーゲンの国立博物館の収集品を,石器時代,青銅器時代,鉄器時代という三時期区分法によって分類展示し,混沌としていた先史遺物の理解に初めて一つの秩序を与えた。これ以後,先史考古学は自然科学から多くのヒントを得ながら自己の方法を形成してゆく。…

【文化財】より

… これらと性質を異にする文化財に埋蔵文化財がある。文化財の性質による種類ではなく,埋蔵文化財とは,地下,水底,海底(領海内に限る)その他,土地の上下を問わず人目に触れない状態において所在している遺跡,さらにそこから発掘によって出土した遺物の両様の意味に用いる。遺跡のうち,全国で国および地方の台帳に登録されたものを〈周知の遺跡〉と呼び,遺跡分布図,地名表などが公刊されて周知徹底が図られている。…

【埋蔵文化財】より

…それには,河川,湖沼,海などの水中にあるもの,あるいは地表面に露呈しているものも含まれる。1950年に施行された文化財保護法にみえる概念で,考古学でいう遺構と遺物をほぼ指しているとみてよい。その所在地は埋蔵文化財包蔵地と呼ばれ,おおよそ考古学の遺跡に相当する。…

※「遺物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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