犬歯
けんし
哺乳(ほにゅう)類の歯の一種で、門歯の次に位置し、円錐(えんすい)形または鉤(かぎ)形で、普通は上下両顎(がく)の左右に各1対ずつ計4本ある。ライオンやトラなどの肉食獣の犬歯は牙(きば)として大きく発達し、主として攻撃や防御の武器として、また餌(えさ)の捕獲に使われる。イノシシやクマなどの雑食動物でも犬歯はよく発達し、やはり強力な武器として使われる。草食獣では一般に犬歯の発達は悪い。ウシ、シカ、ヒツジなどの反芻(はんすう)動物では下顎の犬歯は門歯のように変形し、上顎には犬歯(および門歯)はない。ネズミ、ウサギなどの齧歯(げっし)類では犬歯はまったくない。ゾウにも犬歯はない。しかしカバでは下顎犬歯は大きく強力な武器となる。霊長類のゴリラやヒヒの雄も強大な犬歯をもち、闘争時の武器となる。犬歯はしばしばとくに長大となり、口の外に突き出る。化石種の剣歯虎(けんしとら)(スミロドン)や現生種のセイウチの上顎の長い短剣状の犬歯はよく知られている。なお、ヒトの犬歯は糸切り歯ともいわれ、先がとがっているが、切歯(門歯)や臼歯(きゅうし)に比べて突出しない。ヒトの歯は全体として退化傾向にあり、とくに犬歯ではその傾向が強い。
[内堀雅行]
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犬歯
けんし
canine; cuspid
俗に糸切り歯という。哺乳類の歯で,切歯と臼歯の間に上下左右1本ずつ存在する。全歯のなかで最も長く,歯冠の先は鋭くとがり,歯根は1本である。ヒトでは,側切歯と第1小臼歯の間に両者より遅れて生えるので,間隙が狭いと,はみ出した位置に生えてくることがしばしばある。これを俗に八重歯という。
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けん‐し【犬歯】
〘名〙 哺乳類の門歯と臼歯(きゅうし)との間にある鋭く尖った歯。左右一個ずつ、上下合わせて四個ある。肉食動物によく発達して牙となるが草食動物では一般に退化している。糸切り歯。〔生物学語彙(1884)〕
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犬歯【けんし】
ヒトでは糸切歯とも。切(せっ)歯(門歯)と臼(きゅう)歯の間にある鋭くとがった歯。食肉獣ではよく発達して牙(きば)となるが,草食獣では欠如するものがある。→歯
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けん‐し【犬歯】
切歯(門歯)と臼歯の間の歯。上下一対、左右に計4本ある。糸切り歯。肉食獣では発達して牙となる。
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世界大百科事典内の犬歯の言及
【歯】より
… 第4は,同じく爬虫類までの特色である同形歯性が変わったことである。古生代の哺乳類様爬虫類にきざしていたことであるが,各歯ごとに形状が分化し,前方から切歯(門歯)incisor,犬歯canine,小臼歯(しようきゆうし)(前臼歯)premolar,大臼歯molarという4種の群(これを歯種という)が区別される。このことを〈異形歯性〉と呼ぶ。…
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