日本大百科全書(ニッポニカ) 「少将滋幹の母」の意味・わかりやすい解説
少将滋幹の母
しょうしょうしげもとのはは
谷崎潤一郎(じゅんいちろう)の長編小説。1949年(昭和24)11月から翌50年3月まで『毎日新聞』に連載。50年、毎日新聞社刊。色好みで知られた平中(へいじゅう)の滑稽(こっけい)な失敗譚(たん)から始まり、一代の権勢家で美男の左大臣藤原時平(しへい)が、その伯父にあたる80近い老人の大納言(だいなごん)国経の若く美しい北の方(妻)を奪う悲劇を中心に描く。国経は酔った勢いで、愛する妻の幸福のためという大義名分をたてて譲ったものの、北の方への恋慕と懊悩(おうのう)を断ち切れず、不浄観による解脱(げだつ)を試みるが、悩み死にに死ぬ。そうした父の北の方への思慕の情は、幼くして母を失った息子の滋幹も共有していたもので、40年後、滋幹は西坂本に尼となった母を訪ね、「お母さま」と呼びかけ、地上に跪(ひざまず)く。「谷崎文学のあらゆる要素の綜合(そうごう)であり、最高の結晶である」(亀井勝一郎)と絶賛された谷崎文学の傑作。
[大久保典夫]
『『少将滋幹の母』(新潮文庫)』