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解脱 げだつmokṣa; mukti; vimukti

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

解脱
げだつ
mokṣa; mukti; vimukti

仏教,インド哲学の用語。人間生活に伴うあらゆる苦悩迷妄の束縛から開放されて,完全に自由になることをいう。もともとはウパニシャッドで説かれ,インド哲学一般に継承されている観念であるが,仏教では涅槃 (ねはん) とともに究極の目標と考えられている。『中阿含経 (ちゅうあごんきょう) 』で釈尊は「あらゆる事象に執着せず,すべてを捨て,解脱したと思い込み,みずから生存している身でありながら,世間における痛苦や生存に伴う老・病・死,そこから起る憂い・悲しみ・喜・怒・哀・楽などから離れるとともに,さらに安らぎのある世界 (安穏涅槃) を求めてそれを体得すれば,そこにおいて自分は確かに解脱したのである」と語っている。龍樹も「苦しみを滅することが解脱である」 (『歓発諸王要偈』) と書いている。苦悩や迷妄は各人によって異なるから,素質・性格・地域・階級など各人のおかれた諸条件にしたがって,これらを除去する解脱の現れ方もさまざまになる。チベットやモンゴル仏教の活仏は,この世において解脱を完成した,仏陀と異ならない人間であると信じられている。

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デジタル大辞泉の解説

げ‐だつ【解脱】

[名](スル)《〈梵〉vimukti, vimokṣaなどの訳。縛るものを離れて自由になる意》悩みや迷いなど煩悩(ぼんのう)の束縛から解き放たれて、自由の境地に到達すること。悟ること。涅槃(ねはん)。「解脱の境地」「煩悩を解脱する」

げだつ【解脱】[歌舞伎]

歌舞伎十八番の一。本名題「鐘入解脱衣(かねいりげだつのきぬ)」。景清物の一つで、宝暦10年(1760)江戸市村座で金井三笑作「曽我万年柱」の二番目狂言として上演したもの。

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百科事典マイペディアの解説

解脱【げだつ】

本能に基づく迷いに心を縛られている状態(煩悩(ぼんのう))から脱して自由になること。涅槃(ねはん)と同一視され仏教実践道の究極の境地とされる。
→関連項目救い(宗教)ヒンドゥー教瞑想系身体技法薬師輪廻

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世界大百科事典 第2版の解説

げだつ【解脱】

モークシャmokṣa,ムクティmuktiなどの漢訳語。古来,インドで宗教の最高目標とされてきたもので,輪廻(りんね)(サンサーラsaṃsāra)からの脱却,〈苦〉からの脱却,永遠の生,不死など種々の定義があるが,全体として必ずなんらかの意味で輪廻からの脱却ということにかかわっている。歴史的にも,解脱の考えは輪廻思想の誕生と同時に発生している。 輪廻思想は,文献の上で見るかぎり,古ウパニシャッド(前7世紀前後)に初めて現れる。

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大辞林 第三版の解説

げだつ【解脱】

( 名 ) スル vimoksa; vimukti〕
煩悩の束縛から解放されて、安らかで自由な悟りの境地に達すること。悟ること。涅槃ねはん。 「煩悩ぼんのうを-する」

げだつ【解脱】

歌舞伎十八番の一。1760年江戸市村座初演の「曽我万年柱」の二番目に、本名題「鐘入解脱衣かねいりげだつのきぬ」として上演されたものが嚆矢とされるが異説もある。原曲は伝わらず、現行のものは大正以降の復活。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

解脱
げだつ

インド思想一般および仏教用語。一般にはサンスクリット語の名詞ビムクティvimukti(パーリ語はビムッティvimutti)の訳語。これは動詞ビ・ムチュvi-muc(解き放す)からの派生語である。また受身形ビムチュヤテーvimucyate(パーリ語はビムッチャティvimuccati。解き放される)が動詞として「解脱する」の意味に用いられる。また解脱のサンスクリット語として、ムクティmukti、ビモークシャvimoka、モークシャmokaなどが用いられることも多い。
 インド思想一般において、解脱は、現世、迷いの世界、輪廻(りんね)などの苦しみから解き放された理想的な心の境地と考えられ、この解脱を得ることが人生最大の目的とされた。解脱の詳細な内容や、そこへ至る方法は、各学派によってさまざまであるが、とくにわが国では、この語は仏教と結び付いて用いられてきた。
 原始仏教聖典にはしばしば「心が煩悩(ぼんのう)より解き放される(解脱する)」の文脈がみられる。それゆえ解脱とは「煩悩から解き放された心の状態」である。このためには三学(戒(かい)、定(じょう)、慧(え))中の慧(プラジュニャーpraj。智慧(ちえ))が必要であり、この慧は中道(ちゅうどう)、八正道(はっしょうどう)、四諦(したい)、縁起(えんぎ)、無我などの理解より生ずる。
 小乗仏教においてもこの図式は変わらないが、とくに四諦の長期間にわたる絶え間ない学習、研究が重視され、これによって生じた智慧(これには一種の力シャクティakti、サーマルティヤsmarthyaがあるとされる)によって煩悩が断ぜられるとする。いっさいの煩悩がなくなった心の状態が解脱であるから、これはまた涅槃(ねはん)(とくに有余依(うよえ)涅槃、すなわちこの世に生存している間に得られる涅槃)とまったく同一である。この境地に到達した聖者は阿羅漢(あらかん)とよばれる。四諦の研究は人間存在を冷徹に見据えるけれども他者への働きかけが乏しいために、大乗仏教徒は四諦を重んじなかった。彼らは空(くう)を理解する智慧(般若(はんにゃ))と、大悲(だいひ)に基づいて一切衆生(いっさいしゅじょう)を救わんとする方法(方便、ウパーヤupya)の二つが結び付いた般若波羅蜜(はんにゃはらみつ)(プラジュニャーパーラミターprajpramit)こそが解脱、涅槃であると主張した。つまり大乗の解脱は、空に基づく他者への実践のなかにみいだされる。このためには六波羅蜜(布施(ふせ)、持戒、忍辱(にんにく)、精進(しょうじん)、禅定(ぜんじょう)、智慧)の長期にわたる修行が必要であるとする。なお後代の密教はこの大乗の思想を受けて発展させ、とくに弘法大師(こうぼうだいし)(空海)はこの解脱がこの世において得られること(即身成仏(そくしんじょうぶつ))を強調した。[加藤純章]
『仏教思想研究会編『仏教思想8 解脱』(1982・平楽寺書店)』

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世界大百科事典内の解脱の言及

【悟り】より

…禅定や三昧によって表層意識を消滅させつつ深層意識を自覚化していき,最深層意識をも消滅させると同時に,彼自身の実存においてあらゆる衆生にゆきわたる根本真理を知る知恵を得,悟りを悟ったのである。したがって悟りとは,そのようなしかたで自我的な人格から解脱して自由になり,衆生に対して無礙(むげ)自在にはたらく新しい仏菩薩的人格へと生まれ変わることであるといってよい。しかし悟りによって悟られる具体的な真理や悟りを表現する言葉は,さまざまな時代や地域においてさまざまに異なっていた。…

【救い】より

…前者が神による救いを強調するのに対して,後者は仏になることで得られる救いを重視するといってもいい。そしてこれまで,“神による”キリスト教的な救いは〈救済〉――被造物の至福――と呼ばれ,それに対して“仏になる”仏教的な救いは〈解脱(げだつ)〉――みずから覚醒する者の境涯――と呼ばれるのが普通であった。このような〈救済〉と〈解脱〉という対照的な概念は,さまざまな宗教経験を類型的に分析するうえで有効とされてきたが,もちろんキリスト教的世界に〈解脱〉的契機を内包する宗教経験が存在しなかったわけではなく,同様に仏教世界においても〈救済〉的な立場をとる宗教経験がなかったわけでもない。…

【ヒンドゥー教】より

…種姓制度はカースト制度と結びついて,今日も農村社会を中心に根強いものがある。ダルマの実践は,物質的・経済的利益を追求する実利(アルタ),愛情・性愛を追求する愛欲(カーマ),および次に説明する解脱とともにヒンドゥー教徒の人生の四大目的とされている。(4)解脱 法,実利,愛欲はたとえ実現されたとしても,得られる結果はせいぜい天界に生まれることが最高の果報であり,結局,輪廻の中にとどまっているにすぎない。…

【預言(予言)】より

…イスラム教の創始者ムハンマド(マホメット)は人間であり,その限り,イスラエル的な預言者の型に属する。【山形 孝夫】
[仏教]
 仏教では,ある特定の個人の死後の運命,特に解脱や成仏(じようぶつ)に関して,〈ビヤーカラナ〉と呼ばれる一種の予言が行われた。修行によってある境地に達した人物の死後の運命(解脱するかどうか)について釈迦が予言を与えたことは,〈阿含経(あごんきよう)〉など比較的古い経典にもみられる。…

【輪廻】より

…このような業,輪廻説をはじめに体系的に主張したのは最高の祭司身分であったバラモンたちであり,それ以後,階級差別の社会組織を合理化するための一種の思想的武器として利用されることにもなった。輪廻の考え方はのちに仏教にも受けつがれ,無明(むみよう)(無知)と愛執(あいしゆう)によって輪廻が生じ,それを絶ち切ることによって涅槃(ねはん)や解脱(げだつ)が得られると説かれた。仏教ではこの輪廻のことをとくに〈六道輪廻〉(六道)と呼び,死後の迷いの世界を地獄,餓鬼,畜生,修羅,人間,天上の六つの生き方(転生)に分けて整理した。…

※「解脱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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