愚者文学(読み)ぐしゃぶんがく(英語表記)Narrenliteratur

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「愚者文学」の意味・わかりやすい解説

愚者文学
ぐしゃぶんがく
Narrenliteratur

主として 15~16世紀のドイツ文学の一傾向。中世の笑劇や S.ブラントの風刺的教訓詩愚者の船』 (1494) に起源をもつ。この作品は人文主義的観点から人間の愚かしさを嘲笑したもので,広く読まれ,ガイラー・フォン・カイゼルスベルクはこれをもとに説教し,エラスムスは『痴愚神礼賛』 (1509) を著わした。また T.ムルナーも『愚者の召集』 (12) や『ルターの大馬鹿者』 (22) を書いた。後期傑作にはアブラハム・ア・ザンクタ・クララの『駄々っ子ユーダス』 Judas der Ertzschelm (1686) がある。愚者文学の隆盛には,宮廷道化師の存在も大きな役割を果したとされている。

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世界大百科事典(旧版)内の愚者文学の言及

【愚者】より

…〈愚者の饗宴〉は,この時期のカーニバルの民衆精神と同じ知のあり方を示すものだった。同じころには,自然を抑圧する法律・慣行あるいは学問の虚妄を批判し,人間の本能を賛美して,単純素朴な知性の中にこそ行動する賢い愚者という人間本来の生命力が息づくとしたエラスムスの《痴愚神礼讃》(1511)をはじめとする愚者文学と呼ばれる分野の作品が,主に硬直化したカトリック教会に批判的な神学者たちによって書かれていた。このような望ましい人格のあり方としての〈賢い愚者〉という観念は,ロマン主義の時代になると民衆性を失って矮小化し,理性によって曇りをかけられる以前の,高い徳目をもつ清らかな愚者による俗的理性の救済や両者の対立に置きかえられた。…

※「愚者文学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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