日本大百科全書(ニッポニカ) 「懐疑的な化学者」の意味・わかりやすい解説
懐疑的な化学者
かいぎてきなかがくしゃ
The Sceptical Chymist
イギリスの化学者ボイルの著書。1661年ロンドンで出版。本書は錬金術の時代から近代化学への過渡期にあって、化学変化を科学的に扱う方法を示した記念碑的な書物である。ガリレイの著書『新科学対話』に倣い、ボイルの見解を代弁するカルネアデスと、医化学派の三原質説やアリストテレスの四元素説にたつ化学者たちとの対話形式で書かれている。ボイルはここで、化学変化の結果を初めから決めてかかる古い学説を批判した。そして化学反応を生ずるさまざまな手段を利用し、反応生成物を全面的に把握し、物質の特性判断には多様な手段を用い、化学実験を体系的に行って、複雑な化学現象を事実に即してとらえるべきことを主張した。また、こうして知ることのできる化学的性質の多様性は、物質粒子の組織と運動によって説明されることを述べた。
[内田正夫]
『大沼正則訳『懐疑的な化学者』(『世界大思想全集32』所収・1963・河出書房新社)』▽『ロバート・ボイル著、田中豊助・原田紀子・石橋裕訳『古典化学シリーズ3 懐疑の化学者』(1987・内田老鶴圃)』