早替り(読み)はやがわり

改訂新版 世界大百科事典 「早替り」の意味・わかりやすい解説

早替り (はやがわり)

歌舞伎演出用語。すばやく役柄を替わること。1人の役者が,一場内で二つ以上の役を演ずる場合に,短時間身分,年齢,善悪などの人間性,男女の性別すら替わって登場すること。ケレンの一技法ともいえる。すでに宝永(1704-11)ごろから行われたが,早替りが多用されて流行したのは文化・文政期(1804-30)4世鶴屋南北時代からである。特に怪談物に多く,たとえば《東海道四谷怪談》におけるお岩と小仏小平の早替りなどがその例である。また,《お染の七役》のような,早替りそのものが眼目となる脚本も出現した。これらの影響で《忠臣蔵》《安達原》《妹背山》などにもこの演出を採り入れて演ずることが行われた。文化から天保期(1804-44)にことに流行した〈変化(へんげ)舞踊〉(変化物)も早替りの一種といえる。明治になってからは,とくに関西で好まれた。ある面では無理な演出を不自然でなく行うために,早拵えなどの技術や〈吹替え〉の演出も発達した。早拵えは舞台袖,道具裏,揚幕内に仮設した鏡台前で,衣装や鬘(かつら),ときには化粧まですばやく替える。旧来の方法に加え,現在ではマジック・テープなども利用されている。ただ単に早く役を替えるだけでなく,いかに違った人物像を印象づけるか,その替り方の趣向の楽しさを観客に示すのが,この演出の目的といえよう。

 また,人形浄瑠璃では,出遣いの人形遣い瞬時にその衣装を着替えて別の人形を遣うことを早替りという。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「早替り」の意味・わかりやすい解説

早替り
はやがわり

演出,演技術の一つで,1人の演技者が,同一演目のなかで2つ以上の役を,短時間のうち扮装を替えて演じること。歌舞伎では元禄年間 (1688~1704) に水木辰之助が「七化け」といって,1人で7役に早替りした。文化文政年間 (1804~30) になると,怪談劇や舞踊のなかで利用され,観客の意表をつくことが流行した。舞踊では変化物 (へんげもの) といって,1人で多くの役に替って踊るものがある。

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