強磁性を示す有機化合物.孤立した不対電子をもつ有機ラジカルは多数知られているが,強磁性になるためには,その磁気モーメントをそろえる必要がある.しかし一般には,分子内でも分子間でも磁気モーメントをそろえることは困難であった.1967年に大阪市立大学の伊藤公一は複数のジアゾ基をもつフェニル化合物を光分解して,多重項カルベンの観測に成功した.これはスピンが少数でも向きをそろえられれば,有機物でも強磁性体をつくりうることを示唆した実験である.その後,わが国の大学が主になって多くの研究が行われたが,1991年東京大学の木下 實と阿波賀邦夫が,p-ニトロフェニルニトロニルニトロキシド(p-NPNN)が分子結晶内で隣接した分子間で不対電子のスピンがそろう有機分子強磁性体になることを発見した.しかし,そのキュリー点は0.65 K と低く,日常的な実用にはほど遠い.その後,環状チアジルラジカルのようなキュリー点の一けた高い有機強磁性体も見いだされ,さらに開発が進められている.同時に,分子スピンと総括的によばれている新しい物性が発見され,現在,この分野の研究は急速に進展している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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