カルベン(読み)かるべん(その他表記)carbene

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルベン」の意味・わかりやすい解説

カルベン
かるべん
carbene

ケテンCH2=C=OやジアゾメタンCH2N2光分解したときに生ずるCH2:のように炭素中心が2価の結合をし、中心上に2個の活性な電子を有する中間体の総称反応性の高い中間体であるが、近年その単離はしがたいものの、捕捉観測することができるようになった。各種の置換基をもつカルベンがある。たとえば、フェニルジアゾメタンC6H5CHN2からはフェニルカルベンC6H5CH:が生じ、またジフェニルジアゾメタン(C6H5)2CN2からはジフェニルカルベン(C6H5)2C:が生ずる。

 カルベンは炭素‐水素結合窒素水素結合、あるいは酸素‐水素結合に挿入し、また炭素‐炭素二重結合に付加してシクロプロパン環を生成する。

 カルベンには2個の電子のスピンが対を形成している一重項カルベンと、対を形成していない三重項カルベンがあり、後者はラジカルの性質を示す。たとえばジアゾメタン誘導体から発生させた下式のカルベンは黄橙(おうとう)色を示し、室温で19分の半減期の寿命の間、存在する。


 結晶中に捕捉した下式のカルベンについては、その分子構造が解析されている。


 また多数の三重項カルベンを整列して配列させると、鉄のように強磁性を示す。

[徳丸克己]

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化学辞典 第2版 「カルベン」の解説

カルベン
カルベン
carbene

メチレンCH2,または置換メチレンに相当する二価炭素遊離基.一般に,不安定な反応中間体であるが,ジアリールカルベンAr2Cは比較的安定であり,液体窒素温度において分光学的に直接観測される.結合に関与しない2個の電子のスピンが対を形成している一重項状態と,対を形成していない三重項状態の二つの電子状態をとる.さまざまな有機化学反応に介在すると推定されており,たとえば,2,2,2-トリフェニルジアゾエタンを熱分解すると高収率でトリフェニルエテンを生じるのは,途中に生じたカルベンが転位するからと考えられている.

 (C6H5)3C-CHN2 → [(C6H5)3C-CH:] → (C6H5)2C=CHC6H5 

また,アルント-アイステルト反応においても,途中にカルベンを生じ,これが転移してできたケテンが,水と反応してカルボン酸になると考えられる.

カルベンはこのほかにケテンの熱または光による分解,ハロホルムのアルカリ処理,トリクロロ酢酸の熱分解などで生じる.カルベンは上に述べた転位反応を行うほか,アルケンに付加してシクロプロパン誘導体を与え,また芳香族化合物と反応して環拡大を起こす.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「カルベン」の意味・わかりやすい解説

カルベン
carbene

2個の非共有電子対をもった2価の炭素原子を含む中性の反応性中間体をいう。

上式のR1,R2として,水素,ハロゲンアルキル基アリール基,アルコキシル基などが知られている。1950年代,ハインJ.Hineにより,ハロホルムと塩基との水溶液中での反応でカルベンが生成することが確かめられて以来,ジアゾ化合物の熱または光による分解反応などをはじめ,種々の反応の中間体としてカルベンが関与していることが示された。カルベンはきわめて反応性に富み,そのほとんどが求電子試薬としてふるまう。二量化して対称オレフィンを生成するほか,C-X(X=H,Cなど)結合挿入反応,C=C結合への付加反応を行う。とくに,C=C結合への付加反応は3員環を含む化合物の重要な合成法となっている。また,α-ケトカルベンはウルフ転位を起こしてケテンに異性化する。


執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カルベン」の意味・わかりやすい解説

カルベン
carbene

ジクロロカルベン CCl2 のような炭素遊離基で,一般に CXY で表わされる。クロロホルムとカリウム第三ブトキシドとの反応,ジアゾメタンやケテン化合物の光分解,熱分解などの際,反応中間体としてだけ生成し,単離できない。ジアゾメタンの場合,生じるカルベンはメチレン。反応性に富むので,このような反応を行わせるとき,オレフィンや芳香族化合物を共存させると,付加反応,C-H結合への挿入反応,環拡大反応などが起る。

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