磁気モーメント(読み)じきもーめんと

日本大百科全書(ニッポニカ) 「磁気モーメント」の意味・わかりやすい解説

磁気モーメント
じきもーめんと

磁気能率ともいう。磁石は周りに磁場をつくるが、長さがLでその両端磁極の強さがmと-mとであるような棒磁石が遠くの点につくる磁場の方向と強さは、棒の軸方向およびmLとの積μ=mLとだけによって決まる。それでμを磁気モーメントという。電流の周りには磁場ができるが、円形の電流によって遠くの点につくられる磁場は、その円の中心にその面と垂直にある磁石を置いたときの磁場と同等である。したがって、環状電流も磁気モーメントをもつということができ、その大きさは電流の強さIと環の面積Sとの積すなわちISに等しい(単位のとり方によっては係数がかかる)。

 磁石そのものも、それが、目に見えない小さな環状電流によるものであるとすれば、初めの磁気モーメントの定義にかわって、環状電流の磁気モーメントのほうが基本であると考えられる。磁石の中にミクロな磁気モーメントの担い手が多数あるとすれば、磁石の磁気モーメントはそれらのベクトル的な総和である。物質の単位体積当りの磁気モーメントはその物質の磁化の強さにほかならない。

 電子が閉じた軌道を回っていれば、それは環状電流であり、磁気モーメントをもつことになるが、そのほかに、電子自身が自転運動を行うことにより固有の磁気モーメントをもっている。物質の磁性根元これらの磁気モーメントによって説明されるべきものである。

宮原将平・佐藤博彦]

『溝口正著『磁気と磁性 1』(1995・培風館)』『浜口智尋著『電子物性入門』(1999・丸善)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「磁気モーメント」の意味・わかりやすい解説

磁気モーメント
じきモーメント
magnetic moment

磁気量の双極子モーメント。磁気には真磁荷 (磁気単極) がないため,正負の等量の磁気量が対となった双極子が磁気の基本になる。等量の磁気量を m ,磁極間の距離を l とするとき,大きさが ml負極から正極へ向うベクトルを磁気モーメントという。荷電粒子が自転するときや閉軌道を回転するとき,閉じた電流をつくり,そのまわりに磁場を生じるが,これは磁気双極子によるものと考えることができる。このときの磁気モーメントを μ ,角運動量を J とすると,μ は J に比例する。この比例定数 g粒子と角運動量の種類によって決り,g因子と呼ばれる。電子の場合,スピンに対しては g=2 ,軌道角運動量に対しては g=1 である。面積 S の面を縁どる閉曲線を定常電流 I が流れるときの磁気モーメントは,アンペールの法則により,IS/c ( c は真空中の光速度) である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報