…その関心は,人が死に近づくとき死の周辺に浮かび上がる,日常的な時間の消失した奇怪な空間と,言語をもって絶対的なものに迫っていくとき作家が入り込んでしまう空間とが構造を同じくしていることに向けられる。主体は崩壊し,とらえ得ぬものを,なおとらえようとして彷徨するしかないような状態,小説《謎の男トマThomas l’obscur》(1941,新稿1950),《アミナダブAminadab》(1942)などはそういう状態を幻想的物語に溶かし込んで描いており,評論集《文学空間L’espace littéraire》(1955),《来るべき書物Le livre à venir》(1959)などは,マラルメやカフカを例に絶対的なものに挑む文学思考のたどる運命を分析した。さらに《期待忘却》(1961)をへて,《終りなき対話》(1969)や断章集《彼方への歩み》(1973),《災厄のエクリチュール》(1980)では文学がついに文学自体の散乱にいたることを彼自身の批評言語で演じつつ暴いている。…
※「来るべき書物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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