肝硬変は、ひとつの独立した疾患というよりも、種々の原因によって生じた
したがって臨床的には、肝細胞障害による肝機能の低下、
肝硬変の原因としては、①ウイルス性、②アルコール性、③自己免疫性、④薬剤・毒物性、⑤
1994年の日本大学の調査では、肝硬変537例中、C型が60.6%、B型が9.5%、アルコール性が16.7%、非B非C型が8.2%、特殊型が3.3%の頻度となっています(図7)。
肝硬変にみられる臨床症状と検査所見の由来を表5に示します。肝硬変の症状の主なものは、肝細胞の機能障害と門脈圧亢進により生じます。
肝機能障害が進行するとともに、肝臓の予備能力が低下してくると
さらに重症になると、
肝硬変は、本来、病理組織学的な概念ですが、すべての患者さんに腹腔鏡検査や肝生検を繰り返し行って、顕微鏡検査で病理組織診断を確定することは容易ではありません。肝硬変に対する特異的な検査法はありませんが、通常は血液生化学的検査、血液学的検査、画像検査などから得られた情報を総合的に判断して診断します。
肝硬変は、臨床的な機能分類として、肝硬変の原因を問わず、肝不全症状の有無から代償性(期)と非代償性(期)とに分けられます。
代償性肝硬変とは、黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症、消化管出血などの肝機能低下と門脈圧亢進に基づく明らかな症候のいずれも認められない病態です。非代償性肝硬変とは、これらの症候のうちひとつ以上が認められる病態です。
肝臓は脂質、炭水化物、蛋白質、アミノ酸の代謝およびエネルギー代謝など栄養代謝の中心的な臓器ですので、肝硬変、とくに機能不全を来す非代償性肝硬変では、さまざまな栄養代謝障害が引き起こされます。
通常、肝硬変の診断では、肝細胞の機能障害を反映したアルブミン、コリンエステラーゼ、凝固因子(プロトロンビン時間、ヘパプラスチン)、コレステロールなどの低下、
新犬山分類による慢性肝炎と肝硬変の病期と血小板数(基準値:14~45万/μℓ)の関係では、病期の進行とともに段階的に血小板数は減少していき、血小板数が12万/μℓ以下に低下してくると肝硬変へ進展する可能性が高くなります。
肝硬変の治療方針を決定したり生活指導を行う場合には、病態の重症度判定が非常に重要です。肝硬変の重症度および手術適応決定の際にはチャイルド分類が用いられます(表6)。
肝機能検査と予後との関係では、ビリルビン、アルブミン、凝固因子、γグロブリン、ALP、コリンエステラーゼ、総コレステロール、総胆汁酸、75g糖負荷試験、インドシアニングリーン負荷試験(最大除去率)などが重要です。
血清アルブミン量と肝硬変の経過・予後には密接な関係があります。肝硬変の患者さんでは、蛋白質・エネルギー低栄養状態が約70%に認められます。このような病態は、免疫機能や生体防御機能の低下、易感染性、病気の回復や創傷の治癒の遅れ、精神機能の低下などをまねき、腹水・浮腫の原因になったり、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下へとつながります。
このような障害を栄養学的に予防するには、代償性と考えられる肝硬変であっても、食事摂取が十分にもかかわらず血清アルブミンが3.5g/㎗以下、BTR(
しかし、重症度が進行した場合(チャイルド分類のグレードC)は十分な効果が得られないことが多いため、軽度もしくは中等度(グレードAもしくはB)のうちに早めに投与を開始したほうがよいと思います。
通常、肝硬変の黄疸は軽度で、血清ビリルビン値も多くは2~3㎎/㎗以下です。しかし、黄疸が消退せず、また漸増して眼球結膜と皮膚の明らかな
肝硬変の病態が重症になるにつれて、抱合ビリルビン/総ビリルビン比は低下し、逆に抱合されない間接型ビリルビンの占める割合が大きくなる症例が増えます。これは肝予備能が次第に低下して、ビリルビン代謝が
肝硬変の経過・予後を占ううえで、黄疸は血清アルブミン値と腹水の存在に次いで有用な指標となりますが、通常はチャイルド分類による判定が有用です。
肝硬変の3大死亡原因は、肝がん、肝不全、
肝硬変の患者さんの生存率が高まることは、必然的に患者さんの高齢化を来し、同時に肝がん発生率の増加につながってくることを意味します。肝がんの予測は、いかなる場合でも常に念頭におく必要があります。
肝細胞がんの背景病変をみると、その80%に肝硬変が認められており、一部が進んだ慢性肝炎です。したがって、進んだ慢性肝炎と肝硬変は前がん病変であり、肝細胞がんの超高危険群といえます。
肝硬変での肝細胞がんの推定発がん率は、年6~7%です。早期の肝細胞がんを見過ごさないために、超高危険群ならびに高危険群の患者さんは、その危険度に応じて一般肝機能検査といっしょに2~3カ月に1回の腫瘍マーカー(AFP、PIVKAⅡ、AFPL3分画)の測定、3~6カ月に1回の超音波検査、6カ月に1回程度の腹部CT検査を受けることが望まれます。
肝硬変の治療は、その病態が代償性か、非代償性かによって異なりますが、現在の病態をさらに悪化させることなく生活の質(QOL)と日常生活動作(ADL)を維持、改善させ、予測される合併症に早期に対応していくことが重要です(表7)。
●生活指導
過労を避け、禁酒し、バランスのよい食事をとり、規則正しい生活をするよう生活指導を受けます。しかし、病態が急性増悪して、自覚症状と肝機能障害が強くなったり、あるいは黄疸、浮腫・腹水、意識障害などが現れているような時期には入院管理が必要になります。
●一般的な薬物療法
肝硬変そのものに対する治療薬はありません。肝障害の重症度に応じて、肝臓加水分解物(プロヘパール)、肝臓抽出薬(アデラビン9号)、
これらの肝臓用薬(
非代償性の肝硬変では、黄疸、浮腫・腹水、肝性脳症などへの対症的な治療対策がそれぞれ必要になります。原則的には、安静臥床、食塩制限(1日3~6g)、軽度の水分制限、蛋白質の摂取制限(1日40g程度)が行われます。そのうえで、浮腫・腹水には利尿薬を投与します。
もしも低アルブミン血症が高度のために、利尿薬の投与にもかかわらず浮腫・腹水が改善しない場合には、アルブミン製剤を補給し、血清アルブミン濃度が3g/㎗以上になるようにします。
なお、いろいろな内科的治療により軽減できない中等量以上の腹水(難治性腹水)に対しては、腹腔頸静脈シャント(LeVeenシャント等)術、腹水
●ウイルス性肝硬変での抗ウイルス療法
C型肝硬変のうち、腹水、肝性脳症および門脈圧亢進などの既往がない代償性肝硬変では、インターフェロン(IFN
平成20年度厚生労働科学研究で提言された「ウイルス性肝硬変に対する包括的治療のガイドライン」に示すように、ウイルスの駆除・減少によりAST(GOT)・ALT(GPT)値の正常化を目指し、肝組織学的な改善が認められることから、肝細胞がんの発生リスクを低くすることが期待できます(表8)。非代償性肝硬変では、代償性肝硬変への改善を目標とし、ひいては肝発がん予防を目指す治療となります。
なお、C型肝硬変に対するインターフェロン治療は、慢性肝炎より著効率が低く、また副作用の発生率や治療脱落率などが高く、費用対効果が悪いという問題点があります。しかし著効が得られれば、予後は改善されます。
●
肝性脳症は肝疾患に伴う精神神経症状のことで、意識障害が昏睡に進行した場合を
肝性脳症の治療は、あらかじめ脳症の合併が予想される患者さんでは、予防的処置(高アンモニア血症の誘因の回避、特殊組成アミノ酸製剤の服用など)を普段から行っておくことが大切です。
脳症が発症した時には、脳症から
●肝移植
2004年に肝移植対象疾患の保険適応が拡大されたことにより、B型およびC型肝硬変や肝がんに対する肝移植が増加しています。日本での肝硬変における肝移植適応は、末期肝不全状態を示す例となっており、一般的にはMELDスコアによって判定されます(15以上)。
その大部分は生体部分肝移植であり、脳死移植は極めて少ないのが実情です。肝移植による成績では、B型よりもC型肝硬変で予後が不良であり、移植後の抗ウイルス療法の確立が課題です。
●合併症への対処
肝硬変の合併症としては、
肝がんの合併に際しては、早期発見・早期治療が最も重要ですが、肝臓の予備能力の程度と肝内の腫瘍の占拠状況によって治療法の選択が異なってきます。
現在、肝がんの治療法としては、外科的肝切除術、
進行肝がんに対しては、フルオロウラシル(5FU)の肝動注療法とインターフェロンの全身投与を併用することで、良好な成績が得られています。
* * *
以上、肝硬変の診療では、原因の確定、病態の重症度の評価と予後の予測、栄養評価とその対策、肝がんをはじめとする種々の合併症を視野に入れた適正な診断と治療対策、そして患者さんのADLとQOLの改善と長期維持を考慮した生活指導などが大切になります。
肝硬変については、診断技術の進歩や管理方法の向上ばかりでなく、合併症に対する治療についても著しく進歩してきました。したがって、肝硬変を慢性肝疾患の終末病態としてとらえるのは適切ではなくなってきています。
荒川 泰行
肝硬変は、長年にわたる肝機能の悪化の末、肝臓の終末像としてみられる病態です。具体的には、肝臓全体が線維化により萎縮し、小さくなり、岩のように硬くなることからこの名前がつけられました。その原因は、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスによるウイルス性のものと、アルコール(飲酒)によるものなどがあります。最近では、脂肪肝の一種である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)から肝硬変になる人も増えています。
肝硬変になると進行の程度によってさまざまな症状が現れ、最終的には肝臓が機能しなくなる肝不全に陥り、生命が脅かされます。たとえば、眼や皮膚が黄色くなる(
肝臓は昔から「沈黙の臓器」と呼ばれ、病気が進行しても自覚症状として現れません。とくに、高齢者ではこの傾向は強くみられます。したがって、定期健診などの血液検査で肝機能(AST、ALTなど)を日ごろからチェックしておく必要があります。
また、高齢者に特有の肝硬変の症状というのはありませんが、自分自身では黄疸や皮膚症状、腹部症状などの肝硬変のサインを見逃しやすくなります。肝硬変やその前段階の慢性肝炎と診断されれば、自覚症状がなくても、定期的に病院で検査や治療を受けることをすすめます。
肝硬変になってしまった肝臓は、今の医学では正常な肝臓へはもどりません。そこで、今以上に肝硬変を悪化させないことが最も重要です。
肝硬変の治療に関しては日本消化器病学会によりガイドラインが作成され(肝硬変診療ガイドライン)、2015年に改訂第2版が発表されています。ウイルス性肝硬変では、まず、原因ウイルスの駆除および減少により、肝機能の改善を目指します。B型ではエンテカビルやテノホビルなどの核酸アナログ製剤を内服します。C型では症状のない代償期であれば、2014年から新たに使用可能となった経口の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)により、ウイルスを排除できる可能性があります。
それでもAST、ALTが高い人には、ウルソデオキシコール酸の内服やグリチルリチン酸の注射が行われます。血清アルブミン値が低い場合には、分岐鎖アミノ酸製剤を内服します。
腹水には、まず安静および水分塩分制限を行います。そして、利尿剤を内服して、おなかの水を減らします。静脈瘤には内視鏡を使い、静脈瘤硬化療法や静脈瘤
2004年以降、肝硬変に対する生体肝移植が保険適用になっていますが、ドナーの問題や、高齢者では副作用などのリスクが高く、慎重に検討する必要があります。
家庭では、十分な睡眠と規則正しい生活を心がけましょう。食事はバランスのとれたものをとり、アルコール類は禁止です。たとえば、肉や乳製品などの脂肪の多い食事は避けて、魚や野菜、豆類など良質な蛋白質をとりましょう。また、1日の食事は分割し、食後しばらくは安静にすることも重要です。
肝硬変により亡くなる人は、治療法の進歩により年々減少しています。しかし、肝硬変から肝臓がんを合併して死に至る可能性もあります。定期的な検査により、症状のまだ出ていない早期に発見し、早期に治療することが重要です。
伊与田 賢也
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
肝硬変はさまざまな原因によって肝障害が治癒せずに慢性の経過をたどって進行した終末像である。反復する肝細胞壊死(えし)と炎症に引き続き、高度の結合織の増生と再生結節が、肝臓全体にびまん性にみられる。通常は非可逆性であるが、原因が取り除かれると線維症が改善することもある。
[恩地森一]
WHO(世界保健機関)は、肝硬変を結節の大きさにより大結節型、混合型と小結節型に分類している。大結節性肝硬変は、広範囲に肝細胞が壊死になった後にみられる大小不同の結節と幅広い間質からなる壊死後性肝硬変と、単ないし複小葉性の結節と幅の狭い間質からなる肝炎後性肝硬変に分けられる。壊死後性肝硬変はまれで、肝硬変の多くは肝炎後性肝硬変である。小結節性肝硬変は結節の大きさが均一でほぼ3ミリメートル以下であり、アルコール性や心臓性の肝硬変でみられる。混合型肝硬変は大結節性と小結節性の混合型で、アルコール性肝硬変でアルコール摂取を中止した場合によくみられる。
[恩地森一]
肝硬変の原因は、肝炎ウイルスによる慢性肝炎、アルコール、自己免疫性肝炎、胆汁性肝硬変、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス(血色素症)、循環障害、寄生虫疾患などがある。B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスによることがもっとも多い。
1999年(平成11)から2008年までの日本での肝硬変の成因は、B型肝炎ウイルスは13.1%、C型肝炎ウイルスは60.2%、B+C型肝炎ウイルス1.0%、アルコールは14.8%、原発性胆汁性肝硬変2.3%、自己免疫性肝炎1.9%、非アルコール性脂肪性肝炎2.2%などであった。C型肝炎ウイルスの割合が減少傾向にある。B型肝炎後の肝硬変は40歳から60歳代が、一方、C型肝炎後の肝硬変は50歳から70歳代が多く、C型肝炎による場合が10歳高齢である。
わが国では肝硬変患者は約30~40万人いる。肝硬変全体での男女の比率は、2~3対1で男性が多く、とくにB型肝炎とアルコールでは男性が多い。B型肝炎後肝硬変は西南日本に高頻度であるが、C型肝炎後肝硬変は日本全体で多い。自己免疫性肝炎後の肝硬変と原発性胆汁性肝硬変は90%以上が女性である。原発性硬化性胆管炎後の肝硬変は男女差がない。原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎と先天性胆道閉鎖症では胆汁うっ滞により肝硬変となる。
世界的にはアルコールが肝硬変の原因として重要で、アルコールの消費量と肝硬変による死亡率とはよく相関している。女性では男性の約3分の2の飲酒量で肝硬変になる。心臓性肝硬変は右心不全や肝静脈閉鎖症によるうっ血により中心静脈付近から肝細胞壊死と線維化が進行した肝硬変である。肝硬変の原因の一つに寄生虫感染があり、日本住血吸虫症が有名である。高度の肥満や性ホルモン薬の服用などをしている人が、飲酒しないにもかかわらずアルコール性肝炎と類似した高度の脂肪肝とともに炎症がみられる非アルコール性脂肪性肝炎は慢性に経過し肝硬変に進行する。肝硬変による死亡総数は、日本では年間1万人前後と推測されているが、肝硬変を発生母地にしている肝細胞癌(肝癌)はおよそ3万人である。
[恩地森一]
小児にみられる肝硬変の原因疾患はきわめて多い。乳幼児では先天性胆道閉鎖症、先天性胆道拡張症などによる閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)が原因となっている。年長者では代謝性疾患、とくにウィルソン病が多い。ウイルス肝炎は小児でも多いが小児期に肝硬変まで進行することは少ない。
[恩地森一]
進行していない時期には無症状のことが多い。進行した肝硬変の症状は多彩である。肝細胞障害による肝機能低下、門脈圧亢進(こうしん)症と、門脈―体循環短絡形成の三大要因で臨床症状が出現する。自覚症状としては、全身倦怠(けんたい)感、易疲労感、性欲減退、食欲不振、微熱、腹部膨満、こむら返りなどがある。また、他覚症状としては、黄疸、腹水、浮腫(ふしゅ)、意識障害(肝性昏睡)、出血傾向、消化管出血、女性型乳房、腹壁静脈怒張などがある。アルコール性肝硬変では、他の原因による肝硬変より、全身倦怠感、食欲不振、下痢、くも状血管拡張、肝腫大が多い。アルコール性肝硬変の肝機能検査では、他の原因の肝硬変よりトランスアミナーゼ(GOT、GPT)比、中性脂肪値が高く、肝細胞の機能は比較的よく保たれている。肝硬変が進行すると、血小板数の減少、タンパク質であるアルブミン値の低下、γ(ガンマ)‐グロブリン(免疫グロブリン)の増加、血液凝固検査におけるプロトロンビン時間(血液凝固因子を加えたときの血漿(けっしょう)が固まる時間)の延長、コリンエステラーゼ(酵素)の低下などの検査異常が出てくる。脾腫(ひしゅ)が高度となると脾機能亢進症となり、血小板数、ついで白血球数、さらに肝硬変が進行すると赤血球数が低下してくる。内視鏡検査で食道・胃静脈瘤(りゅう)が、超音波検査やCT(コンピュータ断層撮影)で肝の形状異常、肝細胞癌の合併や脾腫が観察される。
診断は、進行した肝硬変では一般肝機能検査や腹部超音波検査やCTで容易にできる。しかし、進展していない場合には一般肝機能検査や超音波検査では困難で、腹腔(ふくくう)鏡や肝生検で確実となる。肝硬変の原因を調べるには、アルコール飲用歴や心疾患の聴取と、肝炎ウイルスマーカー、抗核抗体、抗平滑筋抗体、抗ミトコンドリア抗体などの測定を行う。肝硬変の重症度は、アルブミン値、プロトロンビン時間、ビリルビン値などで判断する。
[恩地森一]
合併症としては、食道・胃静脈瘤、消化管出血、肝性昏睡、特発性細菌性腹膜炎、出血傾向、腎障害、胆石症、肝細胞癌がある。食道・胃静脈瘤の発見は造影剤によるX線撮影では不正確であり、内視鏡検査を行う必要がある。直腸に静脈瘤ができると痔核(じかく)となる。腹壁には側副血行路ができる。消化管出血は、静脈瘤の破裂、胃・十二指腸潰瘍(かいよう)、びらんなどからの出血による。肝性昏睡には劇症肝炎の際に発症する急性のものと、進行した肝硬変や門脈と体循環のシャント(副血行路)による慢性のものがある。肝硬変では、消化管出血、便秘、感染、脱水、電解質異常や向精神薬服用をきっかけに意識障害が出現することが多い。意識、性格の変化、判断力の低下、異常行動、羽ばたき振戦(手の震え)がみられる。通常の診察では明確でないが、詳しい検査をすると軽い脳症のみられる潜在性肝性脳症がある。このような場合は車の運転や危険な場所に行くことは慎んだほうがよい。腹水、浮腫には利尿剤やアルブミンの補給を行う。肝硬変が進行すると腎臓への血液の流れが悪くなり腎機能が低下する(肝腎症候群)。腹水を合併した肝硬変では大腸や小腸由来の細菌が門脈経由で感染を生じ腹膜炎(特発性細菌性腹膜炎)を発症すると予後不良となる。
[恩地森一]
治療は、安静と食事療法が大切である。黄疸や腹水などがある非代償期(肝の動きが悪くなり、症状が出てくる時期)の肝硬変では安静が重要である。黄疸、腹水や肝性昏睡の症状のない代償期の肝硬変では、適度の運動を行い筋肉量を維持しておくことも大切である。肝性昏睡のないときには高タンパクの食事をとる。しかし、肝硬変には糖尿病を合併することが多いので、肥満にならないように注意する。肝硬変が進行すれば、分岐鎖アミノ酸の補給も必要となる。また、分割食として就寝時に少量の食事をとることも勧められている。肝性昏睡にはアンモニアの発生を防ぐためにラクツロース(緩下剤の一種)の服用、便通を整えること、抗生物質を経口的に服用することなどを行う。
予後は進行していないときには肝細胞癌を合併しないかぎりよい。死因は肝細胞癌、消化管出血と肝不全であるが、消化管出血と肝不全は減少し、肝細胞癌が増加して80%以上を占める。消化管出血の原因となる食道・胃静脈瘤には出血に対する治療として、また予防的に内視鏡下での静脈瘤結紮(けっさつ)術や硬化術を行う。肝硬変による門脈圧亢進症で、消化管とくに胃・十二指腸にはびらんや潰瘍性病変が出現し、消化管出血の原因となる。胃、食道のびらんや潰瘍からの出血を予防する目的でH2ブロッカー(胃液の分泌を抑える薬)を服用するとよい。肝不全は進展しないように、禁酒をしたり、GPTを下げる治療により肝炎の活動性を鎮静することが大切である。肝不全が高度となると肝移植(肝臓移植)の適応となってくる。原発性胆汁性肝硬変での成績がよい。B型ウイルス肝炎後の肝硬変では、施行後に抗ウイルス剤や高力価ガンマグロブリンを使用する。肝硬変患者、とくにB、C型肝炎後の肝硬変患者では肝細胞癌の合併を予測して3か月ごとの定期的な超音波検査とCT、アルファフェトプロテインα-fetoprotein(AFP、胎児性タンパクで、健康な成人の血液にはほとんど存在しない)、PIVKAⅡ(ピブカツー)(ビタミンKが欠乏しているときにできる異常タンパク)の検査が必要である。C型肝炎ウイルスによる肝硬変では、インターフェロン(ウイルスの増殖を抑制)治療によるC型肝炎ウイルスの駆除により、またグリチルリチン製剤やウルソデオキシコール酸などでGPTを下げておくことにより、肝細胞癌の発生を抑制できる。
[恩地森一]
肝臓が硬くなる病気で,肝硬変の肝臓が黄色を帯びていたことから,ギリシア語のkirrhos(帯黄色の)が語源となった。主として肝炎から進展した肝硬変症と,非ウイルス性の自己免疫性の機序によって起こる原発性胆汁性肝硬変がある。
極度に進んだ肝臓障害(瀰漫(びまん)性肝障害)。日本では,B型肝炎,C型肝炎,アルコール性肝障害が原因の各30%ずつを占め,残りの10%は寄生虫やバンチ症候群,ウィルソン病など特殊な原因による。しかし欧米ではアルコールがおもな原因となっている。
肝硬変症は次のような形態学的基準にもとづいて診断される。すなわち,(1)肉眼的な結節の存在,(2)グリッソン鞘と中心静脈ないし肝静脈間の間質性隔壁の形成,(3)正常な肝小葉構造の喪失や偽小葉の形成,(4)瀰漫性病変の存在などである。すなわち,肝細胞が変性,壊死と再生を繰り返す一方,間葉系反応の亢進(隔壁性繊維形成)する結果,肝小葉の改築(偽小葉の形成)が起こり,肝細胞の機能が著しく障害されるのである。
全身倦怠感,疲れやすい感じ,食欲不振などの自覚症状と,肝腫大,くも状血管腫,手掌紅斑,食道静脈瘤などが高率にみられる(このような症状を示すものを代償性肝硬変という)。程度の差こそあれ,脾腫もみられる。重症の場合は,黄疸,腹水,肝性昏睡や食道静脈瘤の破裂(吐・下血)などがみられる(このような肝硬変を非代償性肝硬変という)。
肝生検や腹腔鏡による組織学的診断,肝シンチグラムやCTスキャンなどの画像診断が行われる。とくに画像診断は,組織学的診断が困難な症例に多用され,有効である。このほか,生化学的検査や血液検査も行われる。生化学的検査では,血清アルブミン,コレステロール,コリンエステラーゼなどが著しく低下し,一方,γ-グロブリン,膠質反応(ZTT,TTT)は中程度~高度に増加,上昇し,GOT,GPTは軽度の上昇にとどまるが,GOT/GPT比は1.0よりも大きくなる。血液検査では,血液凝固因子が著しく減少し,血小板も明らかに減少する。
治療は,慢性肝炎と同じく,安静と十分な栄養の補給が基本となり,肝水解物(プロヘパール),抽出物(商品名アデラビン9号),グルタチオンなどの薬物療法も行われる。しかし重要なのは合併症の予防と対策で,腹水には,血漿タンパク,アルブミンの補給,利尿剤(フロセミド,スピロノラクトンなど)の投与や,腹水濃縮再灌流などを行う。食道静脈瘤破裂にはタンポナーデや食道離断術を行う。肝性昏睡は,一般に便秘や脱水が誘因となることが多く,したがって下剤や十分な補液で急速によくなる。しかし,黄疸や出血を伴う肝性昏睡の予後は悪く,対策は劇症肝炎のそれに準ずる。肝細胞癌の80%は肝硬変を合併していることからもわかるように,肝硬変は肝細胞癌の主要な成因である。
→肝臓癌
圧倒的に女性に多く,中年女性に好発する。ウイルスやアルコールなどの明らかな原因がなく,自己免疫性の原因で発症すると考えられている。頑固な皮膚搔痒(そうよう)感と持続進行性の黄疸が特徴的な症状で,そのほか肝硬変の症状を伴う。黄色腫(両眼瞼に多い)も高率にみられる。しかし,なかには症状を欠くものもみられる(これを無症候性原発性胆汁性肝硬変という)。
診断は肝硬変症に準ずるが,血清学的検査で抗ミトコンドリア抗体が陽性で,しかも高値を示すときは本症と診断できる。IgM(免疫グロブリンM)も明らかに高値となることが多い。
黄疸がある場合には,血清コレステロールやリン脂質が高値を示し,アルカリホスファターゼやγ-GTPも顕著に上昇する。
治療としては,キレート剤,副腎皮質ホルモン剤などが用いられるが,有効性は低く,予後は不良である。
→肝炎
執筆者:岡部 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
なかでもC型肝炎によるものが6割を占めます。よく、大酒を飲む人は肝硬変になりやすいといわれますが、アルコールによるものは、全体の1割にすぎません。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…肝臓は成人では1300~1500gあり,体内では最大の臓器である。急性肝炎に引き続き劇症肝炎fulminant hepatitisが発症したとき,および高度に進行した肝硬変では,肝臓は著しく小さくなる(萎縮する)。これを肝萎縮症という。…
…慢性肝炎では,肝臓は通常1~2横指,腫大して硬くなる。アルコール性脂肪肝とアルコール性肝硬変では,ほとんど肝腫大を伴うが,禁酒によって急速に正常の大きさに戻る。黄疸,腹水を伴う重症な非代償性肝硬変では,肝臓が触れられなくなり,肝臓の萎縮の程度は肝臓疾患の重症度にほぼ並行する。…
…【和気 健二郎】
[肝臓の病気]
肝臓の構造と機能に関連して,多くの病態が発生する。大別すると,急性炎症(急性肝炎),慢性炎症(慢性肝炎),高度の繊維増加を伴う構造の変化(肝硬変),胆汁流出障害,循環障害,代謝障害,寄生虫感染などがある。これらの原因として,ウイルス感染,アルコール毒性,薬剤アレルギー,栄養障害,自己免疫異常,胆道疾患,心臓病などがある。…
※「肝硬変」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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