胃前庭部毛細血管拡張症

内科学 第10版 「胃前庭部毛細血管拡張症」の解説

胃前庭部毛細血管拡張症(胃・十二指腸疾患)

概念
 1984年にJabbariらにより提唱された疾患概念であり,臨床的には消化管出血による貧血の一要因となる非腫瘍性,限局性血管性病変である.内視鏡所見が特徴的で胃前庭部で長軸方向に放射状に配列する発赤像(毛細血管拡張像)を呈する.同年にLeeらは胃前庭部で点状,びまん性に配列する発赤像(毛細血管拡張像)をdiffuse antral vascular ectasia(DAVE)として報告したが,病理学的には両者に差はなく表現型の違いのみと考えられるため広義のGAVEに含められている.一方,小腸大腸にも同様の疾患が想定されており,gastric intestinal vascular ectasia(GIVE)の概念が提唱されている.
病因・発生機序
 門脈圧亢進症(肝硬変),自己免疫疾患(強皮症),高ガストリン血症(血管拡張作用),慢性腎不全,大動脈弁狭窄症,機械的刺激(幽門部粘膜十二指腸側への逸脱),骨髄移植などの疾患や病態に合併するという報告がなされ,種々の病因説があるが,その発生機序はいまだ不明である.
疫学
 中年以降の女性に多く後天的な血管変性疾患である可能性が示唆されている.発生頻度は上部消化管内視鏡検査施行例の0.03〜0.09%との報告がある.
病理
 GAVE(狭義の)とDAVEの内視鏡所見は異なるが,病理学的には同じカテゴリーの疾患と考えられる.病理学的所見としては,胃壁の中小(毛細)血管の著明な拡張,粘膜固有層の毛細血管拡張とフィブリン塞栓の存在,粘膜の萎縮,粘膜固有層の線維化と線維成分の増量などがあるが,必ずしもこれらをすべて確認できるわけではない.
臨床症状
 貧血が80%以上に認められるが,消化管出血を自覚するのは約30%である.GAVEは少量の慢性的出血が続く病態と考えられる.
診断・鑑別診断
 特徴的な内視鏡所見から容易に確定診断が可能であるが,鑑別すべきものとして,腫瘍性(血管腫血管肉腫)や先天性(Rendu-Osler-Weber病)の消化管での血管異常がある.GAVE(狭義の)の内視鏡所見はスイカの表面模様に似ているためwatermelon stomachと,DAVEは蜂の巣に似ているためhoneycomb sto­mach(図8-4-11)とよばれる.両者の発赤像は幽門部から胃角部に向かって進展し,その分布は幽門側ほど密に,また,胃角部に近いほど疎になる傾向がある.また,発赤像は胃体部や十二指腸などでも認めることがある.易出血性粘膜を有する疾患のため,生検組織診は積極的には行わず,内視鏡所見と臨床所見とで診断することが多いが,近年では画像強調内視鏡(NBIやFICEなど)やカプセル内視鏡などを用いた診断も試みられている.
治療
 本症の治療は,エタノールやアドレナリン加高張生理食塩水の局注法,ヒートプローブ法,YAGレーザー照射法,アルゴンプラズマ凝固法(APC)などの内視鏡的治療が第一選択である.近年ではAPCが簡便さ,安全性,効果などから多用されている.内視鏡的治療が奏効しない場合は,腹腔鏡的幽門側胃切除術などの外科的治療も考慮される.保存的治療としては,胃粘膜保護剤や制酸剤,鉄剤などの処方エストロゲン・プロゲステロン療法などがある.[長嶺伸彦]
■文献
Jabbari M, Cherry R et al: Gastric antral vascular ectasia: the watermelon stomach. Gastroenterology, 87: 1165-1170, 1984.
Rimbaş M, Haidar A et al: Computed virtual chromoendoscopy -enhanced videocapsule endoscopy is of potential benefit in gastric antral vascular ectasia syndrome refractory to endoscopic treatment. J Gastrointestin Liver Dis, 20: 307-310, 2011.
Sato T, Yamazaki K et al: Efficacy of argon plasma coagulation for gastric antral vascular ectasiaassociated with chronic liver disease. Hepatol Res, 32: 121-126, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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