改訂新版 世界大百科事典 「根南志具佐」の意味・わかりやすい解説
根南志具佐 (ねなしぐさ)
談義本。天竺浪人(平賀源内)作。1763年(宝暦13)刊。5巻。平賀源内の最初の小説で,彼は2年前浪人となった気安さから小説も書き出したと思われる。同年に俳優荻野八重桐が隅田川で舟遊び中に溺死したという事件があり,これを基に書いたものである。地獄の閻魔(えんま)大王が俳優瀬川菊之丞にほれ,これを地獄に連れてくるよう竜王に命じる。竜王はその役目を河童に言いつけ,河童は若侍に変じて隅田川に舟遊び中の菊之丞に近づく。河童の願いを聞いて,菊之丞が水中に飛びこもうとすると,親友の八重桐が身代りになって死ぬという話になっている。しかし,話の筋よりも,源内の風刺や世相描写が各所に現れ,彼の奇才が十分にうかがえる。奔放な文章,山師・僧侶・医者・儒者などへの批判,天の岩戸神話の歌舞伎仕立て,両国橋風景などさすがである。彼の文名を一躍高からしめた作である。
執筆者:野田 寿雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報