日本大百科全書(ニッポニカ) 「桃太郎の母」の意味・わかりやすい解説
桃太郎の母
ももたろうのはは
文化人類学者石田英一郎の著書。1956年(昭和31)に法政大学出版局から刊行された。わが国の昔話「桃太郎」や「一寸法師」は小さな子の姿で水辺に単独で出現する。関連する神話や伝説をみていくと背後に母の姿が現れてくる。それを太平洋沿岸地域のさまざまな民族に伝えられる同種の説話で検証していくと、究極には母子神の姿であり、始祖神話を語るものである。この母神は穀物や生命の母体であるところの大地母神で、その源流は遠く古代ユーラシア大陸の大母神信仰に結び付いていくことを豊富な資料で実証的に示している。柳田国男(やなぎたくにお)の民俗学的成果を踏まえながら、それを比較民族学の方法で発展させてとらえた労作である。
[野村純一]
『『桃太郎の母』(講談社学術文庫)』