日本大百科全書(ニッポニカ) 「桑名屋徳蔵入舩物語」の意味・わかりやすい解説
桑名屋徳蔵入舩物語
くわなやとくぞういりふねものがたり
歌舞伎(かぶき)脚本。時代物。5幕。並木正三(しょうざ)作。1770年(明和7)12月、大坂・中(なか)の芝居で初世中村歌右衛門(うたえもん)らにより初演。海坊主と問答をしたという伝説で知られた船頭桑名屋徳蔵の話に、当時流行の金毘羅(こんぴら)信仰を取り入れた御家(おいえ)騒動物。相模(さがみ)入道高時の遺子五郎時行が足利義満(あしかがよしみつ)の天下をねらう話を背景に、これを阻もうとする讃岐(さぬき)高丸家の若殿亀次郎や、五郎の双生児である船頭徳蔵の活躍を描く。序幕は亀次郎の心をとらえた傾城檜垣(けいせいひがき)が徳蔵に殺され、その霊が海上に現れて徳蔵と忠義の問答をする場面で、深川の遊廓(ゆうかく)が一転して遠州灘(なだ)の船中となる舞台転換で評判になった。明治以降、長く上演は絶えていたが、1963年(昭和38)および77年、郡司正勝改修により、序幕を主体として部分的に復活されている。
[松井俊諭]