1回の分娩(ぶんべん)で生まれた二子をいい、ふたご(双子)ともよばれる。発生学的には一卵性monozygoticと二卵性dizygoticの双生児がある。胎児のときは双胎とよばれ、双胎以上の胎児を同時に子宮内に宿す状態を多胎妊娠という。双胎妊娠の頻度は80回の分娩に1回といわれるが、民族や地域によっても多少の差があり、日本では約1%とされている。しかし、近年は排卵誘発剤の使用に伴い多胎妊娠の例が増えているが、この場合の双胎妊娠では大部分が二卵性である。
遺伝学的にみると、一卵性双生児は1個の受精卵が発生途上で2個体に分かれたもので、遺伝学的には同一の個体であり、かならず同性である。二卵性双生児の場合は2個の卵子がそれぞれ受精して発育したもので、遺伝学的には兄弟(姉妹)であり、同性および異性の場合がほぼ同数みられる。つまり、二卵性双生児は環境的には同じであっても遺伝的な類似性は一卵性双生児よりも低いわけで、一卵性と二卵性の双生児間にみられる一致率を調べることにより、身体的・精神的形質やその他の発達に対して遺伝要因と環境要因がどの程度関与しているかを明らかにすることができる。これを双生児法といい、遺伝学をはじめ、人類学、心理学、医学などの各分野で行われている。
産科学的にみると、双生児には、二つの胎盤をもつ複絨毛膜(じゅうもうまく)性、一つの胎盤と二つの羊膜(胎児を包む膜)をもつ単絨毛膜‐複羊膜性、一つの胎盤と一つの羊膜をもつ単絨毛膜‐単羊膜性の3種に分けられ、一卵性双生児の多くは単絨毛膜‐複羊膜性であり、二卵性双生児の多くは複絨毛膜性であるが、その他の場合もかなりみられる。したがって、一卵性か二卵性かを鑑別するには絨毛膜や羊膜だけでは不十分で、各種の血液型をはじめ、掌紋や指紋、皮膚や毛髪など身体的特徴から総合的に検討される。
[新井正夫]
妊娠中に双胎であることを診断するには、最近は超音波断層法による診断が行われており、妊娠6~12週という早期に確認されるようになった。かつては7か月以降でないと確認されなかったが、このように早期診断が可能となったため、双胎妊娠に伴う産科的異常を予防するうえで大いに役だっている。
なお、双胎であるとの診断を受けたら、妊婦はその証明をもらって市町村役場に妊娠届をさらに一通提出し、母子健康手帳を追加交付してもらうことが必要である。
[新井正夫]
一般に双胎を含めて多胎妊娠はどうしても母体に過重な負担をかけるため、流産、早産、死産などのほか、妊娠中毒症をはじめ、貧血、羊水過多、弛緩(しかん)出血などが単胎妊娠の場合に比べておこりやすい。とくに、双胎では胎児の位置(胎位)が、第一児は頭位で第二児が骨盤位(さかご)といった場合も少なくない。また、予定日より3週間も早く生まれることが多いため、新生児は未熟で小さいのが普通である。なお、一卵性双生児の場合、出生時の大きさに著しい差がみられるのは、次に述べる双胎間輸血症候群によるものである。
[新井正夫]
一卵性の双胎の多くは単絨毛膜性胎盤をもつが、絨毛膜が共通のため両児間のほとんどに血管吻合(ふんごう)がみられ、一児に多血症、他児に貧血を生じたものを双胎間輸血症候群とよぶ。すなわち、一児の動脈と他児の静脈とが吻合すると、動脈から静脈へ血液が流れ、動脈側の胎児は供血者となって貧血を生じ、発育が遅れたり、死亡することもある。一方、静脈側の胎児は絶えず血液の供給を受けて多血症となり、発育が促進される。出生時の大きさの差が大きいほど、影響が長く残る。
[新井正夫]
双胎の分娩における母体の危険率は単胎の場合の2倍、胎児ひとりひとりの危険率は5倍程度といわれており、よく設備の整った病院で分娩することが望ましい。
分娩は普通、第一児が生まれてから約30分後に第二児が生まれ、その後に二つの胎盤が娩出される。産科では、先に生まれた第一児を兄または姉としている。
[新井正夫]
双生児の育て方で重要なことは、一般に出生時の体重が少ないので、未熟児の育て方に準じて行うことである。また双生児は、胎内で二児が平等に育つことは少なく、大きいほうの新生児と小さいほうの新生児との体重差が平均200~300グラムで、著しいときは1キログラム以上もあり、一卵性の場合にとくに目だつ。したがって、乳児期では体重差を考慮して栄養を与える必要がある。
栄養としては、二児に十分な母乳を与えることができない場合が多いので、不足分は人工栄養で補わなければならない。ただし、その際は2人に1回ずつ母乳を交互に与え、1人が母乳を飲んでいるときには他の1人はミルクを飲むといった要領で与える。
双生児は、一方が病気になると他方に感染しやすいので、両者を離すようにする。また、精神面での配慮も必要で、2人で一人前という見方ではなく、あくまで2人は2人であり、ひとりひとりの個性を尊重して平等に扱うよう心がける。
[新井正夫]
双生児に関する習俗は、宗教的世界観、象徴的思考と分かちがたく結び付いている。たとえば、南スーダンのヌエル人においては、双生児は「一人の人間」だといわれながら、「人間」ではなく「鳥だ」といわれる。これは文化のなかで双生児が、鳥と同じく至上の精霊と人間との中間的地位を占めているからであり、そこに象徴の源泉としての動物界と、双生児という人間の現象とが結び付けられ、象徴的な論理的脈絡が語られているのである。そうした宗教的象徴世界とのつながりから、双生児は、さまざまな呪術(じゅじゅつ)的観念を帯びており、大別すれば、吉とみなして歓迎する社会と、不吉として退ける社会とが存在する。バリ島においては、一般に双生児は、一度に多くの子を産む動物を連想させることから嫌われ、親子とも村から一定期間隔離されて村に戻るときには盛大なる浄化儀礼がなされるが、他方、アフリカのマンダリ人は、双生児の誕生を歓迎する。
さらに、親族関係が社会の構造原理になっている社会を考えてみると、双生児は、単なる吉・不吉としてではなく、逆説を示すものとしてとらえられる。社会の豊饒(ほうじょう)性という点からは多産が望まれているにもかかわらず、2人の子を同時に養育することは、経済的に共同体の大きな負担となるのである。さらに、親族関係を基本原理とする人間諸関係や社会的地位の枠組みにとって双生児の誕生は矛盾を示す。すなわち人間は一度に1人の子を産むという仮定にたつと、双生児の占める座は一つであるという、分類上の問題がおこる。この逆説から、双生児は「異常なもの」とみなされ、神聖性や豊饒性と関連づけられながら、社会によってさまざまに対処される。すなわち、アフリカのサン人の場合のように、双生児を殺してしまうか、あるいは儀礼を行って、双生児が示す二元性と一体性の矛盾を減じ、文化の他の部分と調和するように受け入れるかの方法がとられる。
こうして、双生児の誕生が引き起こす問題はまずもって象徴・文化次元のものであり、文化における「異」あるいは否定性の問題との深い結び付きを感じさせる。
[永渕康之]
昔は非科学的な俗信から、一般に双子を忌む気持ちが強かった。とくに男と女の双子のときには、大阪の北河内(きたかわち)地方ではチクショウバラ(畜生腹)とよび、佐渡ではメットゴ(夫婦子)といって、ともに、かつて心中した者の生まれ変わりと考えられていた。しかし男児の双子は喜ぶ風がある。双生児の生まれたときは、父親が蓑笠(みのかさ)をつけて屋根に上って「俺(おれ)のカカは双子を生んだ」と呼ばわると、次には生まないという習わしのある地方もあった。双生児を生むのを避けるための俗信も多い。たとえば、栗(くり)の実のふたごや二又(ふたまた)大根、茄子(なす)の二つ付いたもの、卵の黄味の二つあるものなどを食べると双生児を生むといって食さない。また双生児の母親と食物をともにしたり、その人と機(はた)を織ったり、畳の合せ目に寝ると双生児を生むといって避けるなど、この種の禁忌の俗信は、数多く伝えられている。
[丸山久子]
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[成因]
糖尿病の成因はまだ明らかでないが,発症の背景には遺伝があると信じられている。糖尿病の一卵性双生児を調べると,II型糖尿病はほとんどすべての双生児双方に発症する。2人が互いに離れて生活している期間が長くても発症の頻度は変わらず,かつ約60%に第1度近親者(本人からみて親または兄弟)に糖尿病がみられるところから,II型糖尿病発症は遺伝と密接な関係にあることは明らかである。…
…双生児ともいう。1回の分娩で2子が生まれること。…
※「双生児」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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