改訂新版 世界大百科事典 「毘沙門洞穴」の意味・わかりやすい解説
毘沙門洞穴 (びしゃもんどうけつ)
神奈川県三浦市毘沙門にある海食洞穴。毘沙門洞窟ともいう。弥生時代後期の洞窟遺跡で,三浦半島南端に位置する。相模湾に面した高さ約20mの海食台地の断崖中腹に,数mから十数mの間隔をおいて4洞が並ぶ。それらの入口の幅は,2mから11mのものまであり,奥行きは8mから20mにおよんでいる。どの洞窟も弥生時代後期初頭に漁労民の住居として使用されたが,天井の落盤などによって放棄された。古墳時代またはその後にも,人が住みついたり墓地として利用されたものがある。洞穴内の堆積層は,岩塊を含む貝層と灰層からなり,その間に弥生土器,骨角製の漁労具,貝庖丁や各種の貝輪,鉄製釣針,卜骨(ぼつこつ)とそれに用いる獣骨などが多数含まれていた。鹿角製の銛(もり)や釣針と,骨製のやすや尖頭器は縄文時代の伝統をよく残し,鹿の肩甲骨や肋骨を用いた卜骨は,当時の習俗を知る上で貴重な資料である。また,アワビを用いた貝庖丁が多数出土したことは,洞穴にいた弥生人が,各種の貝輪などを作る貝細工にたけ,周辺の農耕民に広く供給していたと考えられている。付近にはほかに,向ヶ崎(むかいがさき),間口(まぐち),大浦山の各弥生洞穴が点在している。
執筆者:工楽 善通
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報