化学辞典 第2版 「水和電子」の解説
水和電子
スイワデンシ
hydrated electron
水和した電子をいい,eaq- の記号で表される.水の放射線分解の初期過程で生じる水素原子と思われていた還元性の遊離基が,じつは大部分水和した電子であることが確実となり,これを水和電子と名づけた.その存在は古くから考えられていたが,クロロ酢酸水溶液,そのほか種々の水溶液の放射線分解に関する化学的方法にもとづく研究のほか,強アルカリ性ガラス状氷の電子スピン共鳴吸収の研究,あるいは水のパルス放射線分解による光吸収スペクトルの測定などによって水和電子の存在が裏づけられた.水和電子の吸収スペクトルは,室温において720 nm に極大をもち,可視領域から赤外領域にかけて広がる幅の広い吸収であって,短波長側に大きくすそを引いている.モル吸収係数は720 nm において15800 mol L-1 cm-1 である.中性水中でのG値は2.65であって,H3O+,H2O2,OHなどとの反応のほか,非常に数多くの種々の溶質との反応の速度定数が求められている.純水中では300 μs の寿命でHとOH-に分解する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報


ここでe-aqは,イオン化によって水分子からたたき出された電子が周囲の水分子との衝突によってその運動エネルギーをしだいに失い,熱エネルギー程度となったとき,周囲の水分子を水和,配向した状態にあるもので,水和電子と呼ばれる。H,OHは水分子の化学結合が切断した結果生ずるラジカルであり,水和電子とともにきわめて反応性に富んだ化学種である。…