改訂新版 世界大百科事典 「水塩入銀」の意味・わかりやすい解説
水塩入銀 (みずしおいれぎん)
江戸時代,瀬戸内沿岸の十州塩田でみられた塩の販売方法。入銀(いれぎん)とか春塩買また先塩(さきしお)入銀などとも呼ばれた。翌年の春から夏にかけて生産される塩を,暮れに現金を前渡しして買い付けておく。はじめは塩を確実に入手する目的ではじまったものと思われるが,この方法によると,塩廻船は塩の値段の最も安い時期に買い付けて,最も高い時分に積み取って売りさばくことができ,その差益は大きい。一方,生産者側は,暮れに浜子(塩業労働者)への前渡し給銀や諸仕入れに多額の資金を必要とするため,たとえ不利な値組みでも入銀を余儀なくされた。ただ,入銀による販売俵数が多ければ多いだけ生産者側に不利であったから,必要限度内に制限している。入銀による販売高は年間総販売高の4分の1か5分の1で,残りは年間を通じて臨時の客船に売却した。これを乗掛売(のりかけうり)ともいい,米穀類と交易する場合もあった。
執筆者:渡辺 則文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報