チャンバラ時代劇に新生面を開いたサイレント映画の名作で,1928年から29年にかけて〈第一話・美しき獲物〉(1928),〈第二話・楽屋風呂〉〈第三話・憑かれた人々〉(ともに1929)の三部作がつくられた。当時(第一話)まだ20歳の監督マキノ正博(1908-93。のち雅弘,雅裕),また牧野省三に認められて《悪魔の星の下に》(1927)のオリジナルシナリオを書いて〈悪魔派〉などとよばれていた23歳の脚本家山上伊太郎,25歳のカメラマン三木稔(のち滋人と改名)のいずれも20代の若きトリオによるマキノ・プロダクション作品である。安価なヒロイズムを支えにしたチャンバラ時代劇を否定し,スター中心主義の伝統的なスタイルを一変して,貧窮と怠惰の長屋暮しをつづける失業武士たち,社会から疎外されて敗北と挫折の道しか残されていない集団を描いた画期的な時代劇作品であり,そこにはニヒリズムの色が濃いとはいえ,やがて一連の〈傾向映画〉(プロレタリア映画)をつらぬく表現主題ともなる抵抗の姿勢のきざしが見える作品でもある。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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