改訂新版 世界大百科事典 「海底境界層」の意味・わかりやすい解説
海底境界層 (かいていきょうかいそう)
ocean-bottom boundary layer
海水の運動に対し海底摩擦の影響が及ぶ範囲は限られ,海底付近にそれ以外の海水とは違った力学的構造をもつ薄い層ができる。このような海底付近にできる境界層を海底境界層という。
このように定常的な境界層ができるのは地球が回転しているためである。例えば,回転していない板の上に水を流すと,最初板の付近にできる境界層は時間がたつにつれてどんどん厚くなり,しまいには境界層がなくなってしまう。回転流体における摩擦境界層は,1905年スウェーデンのエクマンV.W.Ekmanが,吹走流理論を発表した際に発見したもので,エクマン境界層と呼ばれる。理論的には境界層の厚さは流速の平方根に比例する。
大気の底である地表付近の大気境界層の運動が比較的よく調べられているのに対し,海底境界層は観測の困難さもあってあまり研究されていない。しかし,最近になって深海にも毎秒10cm程度の流れが存在するという報告が多く見られるようになった。この場合,海底境界層の厚さは約5mである。大気においては上空の平均風速を毎秒50cmとして境界層は2kmに及ぶから,海底境界層は大変薄いといえる。ただし沿岸などの浅海などでは流速がもっと速いので,その分エクマン境界層は厚くなる。
執筆者:宮田 元靖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報